テラーノベル
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「柚月は最近勉強頑張ってるな」
「満点3つも取ってくるんですって」
「頼もしいな。蒼陽(アオハル)高校も余裕だな」
「一番の進学校だけど、是非首席で合格して欲しいね」
そんな言葉を聞きながら食べる夜ご飯は全然美味しくない。
夜ご飯と言っても スーパーで買って来た惣菜だけど。
僕は別に蒼陽高校に受かる為に勉強してるわけじゃない。
そんなこと言っても あの二人には理解出来ないと思うけど。
やっぱり僕の居場所はここにはない。
コーラが飲みたくなった。
スマホ解約が かかった学年末テストも次が最後の科目。
いずれも過去最高点を記録するんじゃないか、と思わせる手応えだった。
次の英語でヘマをしなければ俺のスマホも救われる。はず。
昨夜 頭に叩きこんだ英単語をもう一度見直していると
同じく隣で単語帳を読んでいた柚月が小さく欠伸(あくび)をした。
山崎孝太
柚月
山崎孝太
柚月
柚月がもう一度欠伸をした。
柚月も俺と同じように、「何か」を懸けて学年末テストに臨んでいる。
同じ、と言っていいかは微妙かもしれない。柚月の「何か」は俺のスマホなんかより、ずっと重いから
だけど少し無理しすぎな気がするのは
俺だけだろうか。
頭がズキズキする。
食事も睡眠も最小限に抑えたツケが回ってきたのかもしれない。
でもあと50分。 このテストさえ乗りきれば。
非現実的なことくらい分かってる。
昔の僕だったら 無駄な反抗はせずに素直に従っていた。
今 そうしなかったのは そうしたくなかったのは
譲れないものが出来たから。
この気持ちだけは偽りたくない。
ゲームのキャラクターみたいに
僕は強くないけど
いつも助けて貰ってるから、今度は僕が助けたい。
だから あと50分の辛抱。
頭がズキズキする。
あたまが
ずきずきする
ガタン!
静かな教室に、その音はよく響いた。
皆が一斉に音のした方を見た。 俺も見た。
そして小さくため息をついた。
悪い予感が当たってしまった。
試験監督の西谷先生が「その生徒」の元に駆けつけた。
「その生徒」の顔は紙のように白い。
西谷先生が「その生徒」を保健室に運んで行った。
廊下の見張りをしていた別の教師が代理の試験監督を務めることになり、テストが再開された。
皆も ただの貧血だと思っているのか すぐに問題用紙に視線を戻した。
俺は すぐに問題を解く気にはなれなかった。
睡眠や食事が、足りていないのは明らかだった。
極力考えないようにしてたけど
悪い予感ほど当たってしまう。
___無理しすぎだよ。 柚月。
「睡眠不足と少ない食事による疲労ですね」
「少し無理しすぎたようです」
「もうテストも終わりましたし、今日はもう帰って休ませてくださいね」
カーテンの向こうから女の人の声がする。
ベッドの上で目が覚めた。
ここがどこで、どうしてここにいるのか 考えるまでもなかった。
カーテンが開き女の人___保健室の先生が顔を覗かせた。
「目が覚めた?少し頑張りすぎたみたいね」
「お家の人に来て貰ったから、今日は帰って家でゆっくり休んでね」
カーテンから視線を外した。
先生の後ろにいる「お家の人」なんて見たくなかった。
無駄だと知りつつも訊ねてみた。
柚月
先生の声が一層優しくなった。
「ついさっき終わったわ。解答用紙も回収された」
__もう問題用紙の中身を見てしまったので後日受け直すことは出来ない。
三分の一も埋められていない僕の解答用紙に赤ペンが入る__
先生が何か言っていた気がするけどよく聞こえなかった。
もう一度深い眠りに落ちてしまえば何も考えなくて済むのに
溢れる涙は、微睡(まどろ)みさえ許さない。
先生が荷物を取りに行くとかで退室した。
今 一番居て欲しくない「お家の人」が、ゆっくりとこちらに歩いて来た。
寝返りをうってその人に背中を向けた。
顔を涙で濡らしているところなんて見せたくなかった。
鳴沢真由子
鳴沢真由子
鳴沢真由子
食い縛った歯の隙間から嗚咽がこぼれた。
「お家の人」___お母さんの勝ち誇ったような声はナイフとなって、傷を抉る。
深く、深く抉る。
鳴沢真由子
鳴沢真由子
鳴沢真由子
お母さんの声音が、酷く優しい物に変わった。
子供を諭すような、噛んで含めるような、ゆっくりとした口調。
鳴沢真由子
鳴沢真由子
鳴沢真由子
鳴沢真由子
鳴沢真由子
鳴沢真由子
鳴沢真由子
柚月
悔しくて、悲しくて 涙が止まらなかった。
止まらない。
鳴沢真由子
鳴沢真由子
いつも助けて貰ってるから
今度は僕が助けようと思ってたのに
ゲームと違って 僕は弱すぎた。
今 溢れる涙を止めることが出来ないほど、僕は弱かった。
___僕のHPは半分を下回ったけど
回復してくれる人はもう誰も____
「ちょっと困ります!学校関係者以外立ち入り禁止ですよ」
廊下に 保健室の先生の声が響いた。
「いいんです。あとで説明しますから__」
そしてもう1つ。 男の先生____「前の彼氏」の声
「彼女は生徒の関係者です」
カーテンが勢いよく開けられた。
息を切らして「その人」は立っていた。
鳴沢真由子
___二人でゲームをする時は
僕が前に出て 「その人」は回復役になって時々囮になって
いつも僕のHPを回復してくれた___
ゲームと同じように
また今日も
回復してくれるかな
息を整え「その人」はゆっくりと言葉を紡いだ。
山川のぞみ
山川のぞみ
コメント
9件
柚月君ーーーー
待ってましたァ😭 今日私、誕生日なんです!!
これが四天王の全てだ! ・元カレ君:スキル→麻痺(初登場 5話) ・いじめっ子君:スキル→KU☆ZU(初登場 8話たぶん) ・お父さん:スキル→学歴重視(急に初登場) ・ラスボス:スキル→ポイズン、シリアス(実は1話で初登場) ラスボスのスキル「シリアス」発動により最初から最後まで真面目に書きました。どうだい、「屍」が恋しいだろう? 読んでくださりありがとうございました❗