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oh......ゾワゾワした:( ˙꒳˙ ):
軽トラで家に帰っていると
必ず「あいつ」が 四谷川のへりに立っている
いつも決まった時刻に
自転車を隣に置いて川を眺めている
いまの現場が決まってから 「あいつ」を見ない日は無い 「あいつ」は必ずこの時間ここにいる
あらた
夏のこの暑い時間なのに ボロボロになった雨がっぱみたいな服を着て
髭も髪の毛も真っ白で伸び放題だ まるで長年そうしてきたみたいに
あらた
気になりはするものの 場所を突き止めるほどの興味はない
さほど自分に関係ないからだ
おれの現場は山間にあって 脇には小さな高校がある
なんでも結構進学率が高く バスで遠くから通う生徒もいるらしい
今日もなにやら 楽しそうな笑い声が聞こえる
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
そこまで話を流し聞きしていたおれは
耳をそばだてた
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
そのとき 話をしていた女子高生と目が合った
おれは「聞いてないよ」と言う代わりに 沈む夕陽のほうに目を向けた
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
帰り道
またあいつは川の傍から
なにかをじっと見ている
だがその先になにかあるわけではなく
微動だにせず佇立している
噂どおりであれば
おれがターゲットに
なりうるかもしれない
だがここで ある疑問が頭をよぎる
噂は後付けで たんに老いた男が 川を眺めているだけだとしたら?
そう考えると この老父はなんら害のない
のんきなひとりの男 そう捉えることもできる
おれはトラックを道の脇に止めて 彼に声を掛けてみることにした
あらた
遠くから呼んでも 身動ぎひとつしない
おれはさらに近づく
あらた
老人は 濁った色の目を
川に向けたままだった
まるでそこに 何かが存在しているように
老人
あらた
おれは老父が 小さく唇を動かしているのを見る
老人
耳をすませる
老人
老人
蒸し暑い空気が 瞬時に凍りついた
おれは脂汗をだらだら垂らして トラックにかけ戻り
早急にエンジンをかけ
山道を下っていった
女子学生たち
女子学生たち
またあの老父に関係ある話をしている
おれは足を止めて彼女たちの話を聞くことにした
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
おれは意を決して 彼女たちに声をかけた
あらた
女子学生たち
あらた
あらた
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
あらた
どうやらおれは ほんとうに恐ろしい存在に
手をつけてしまったらしい
助かる術はないのだろうか
今日も会うのだろうか
そんなことを考えていると
仕事用の携帯電話が鳴った
あらた
あらた
あらた
あらた
あらた
上司からの電話だった
派遣社員が仕事をやり残して 帰ってしまったらしく
どうしても終わらせないといけない案件だったので
おれがやる羽目になった
あらた
あらた
少し眠気がきていた
早く家に帰って 汗を流してそのまま寝たかった
軽トラは峠を越え すいすい進んでいた
慣れた道だから 余計に眠たくなる
そうだ ガムでも食べよう
そう思って助手席にあるカバンに 手を伸ばした時だった
ドン!
トラックが停車した
縁石に乗り上げてしまったようだった
あらた
損傷具合を見ようとして
おれはサイドブレーキをかけて 車の外に出た
あらた
あらた
軽トラのヘッドライトは 白い服に散った血糊を
ぬらっと照らしていた
あらた
あらた
あらた
あまりに唐突な悲劇だった
よく見るとその傍らで
横になった自転車の 前輪がからから回っている
あらた
おれはヘッドライトに照らし出された
動かない人間をもう一度見つめた
間違いない
あの老父だ
あらた
昼間に聞いた 女子高生たちの噂話が
頭のなかに蘇る
あらた
あらた
あらた
あらた
あらた
そう思った瞬間
身体にのしかかった重いものが
解けて落ちたような気がした
おれは軽トラに戻ると
再びエンジンをかけた
そしてその場から
逃げるように車を走らせた
なにかにつけられているような気がした
何度もバックミラーで確認したが
とりたてて奇妙な点はなかった
朝になって
いつもの道を通って出勤する
おれはなにかに憑かれたのか
一睡もできなかった
いや違う
人を轢いてしまったという
重い事実は払拭できなかったのだ
昨日奴を轢き殺した
四谷川が見える場所まで来た
あらた
そこには驚くべき光景があった
おれはたしかにここでやつを轢いた だが自転車はおろか血痕までも
跡形もなく消えていた
あらた
あらた
そう考えれば すべての辻褄が合う
やはり奴は幽霊だったのだ
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
あらた
おれはフェンスの向こうの会話を
スマホを見るフリをしながら聞いていた
死国川…
あの川の名前自体が
禍々しいものだったのか
そして
帰り道にまた居るのだろうか あの老父が…
おれはびくびくしながら
軽トラで例の場所に行った
カーブが見えている
四谷川のほとりには誰もいない
あらた
あらた
やはりおれは幽霊を轢いてしまったのだ
そう結論づけるのが妥当だ
そう思うと思わず愉快な気になれた
そのときだった
あらた
甲高いホイッスルの音
青い服を着た男が 「止まれ」の旗をおれの軽トラに向けてかざした
警察
警察
あらた
警察
警察
あらた
警察
警察
あらた
警察
警察
警察
警察
警察
警察
警察
あらた
あらた
警察
警察
警察
警察
あらた
警察の話をまとめるとこうだ
おれは人を轢き殺してしまった
轢き殺したのは山村に住む男、村島舷81歳
おれは自転車に乗っていた彼を轢いて
彼の死を事故死にみせかけるため
四谷川に遺体を捨てた
俺にはなんら反省の余地も見られず
「消えて当然」というような認識もみられる
ということらしい
それにしても
なぜ奴は川で発見されたのだろう
なにかに導かれた?
だったらやはりあいつは…
裁判官
裁判官
ともかくにも おれはいま裁判にかけられている
おれは神に祈るように
両手を合わせて目を閉じた
裁判官
裁判官
あらた
あらた
あらた
あらた
あらた
裁判官
あらた
あらた
あらた
あらた
警察
あらた
雁字搦めにされながら
おれは法廷から連れ出された
裁判長は厳ついまなざしを
最後までおれに向けていた
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
女子学生たち
刑期を終えたおれがでてきたのは
50年の時を経て変わり果てた街だった
もう誰も知っている人などいない
この先どう生きていけばいいのか 見当もつかない
だからおれは導かれるように
四谷川を訪れた
あの場所
50年前 やつが川を眺めていた場所に立つと
当時と変わらないなにかを感じた
しかし80歳を超え弱った老体では なにもできない
おれはまるで生ける屍だ
川面を見やる
そこには顔が浮かび上がっていた
最初はじぶんの顔が うつりこんでいるのだと思った
しかしそれは別人の顔だった
そう
それは
50年前に おれをこんな目にあわせた老父の顔だった
全身がふるえた
怒りと悲しみと憎悪と 様々な感情が一気にわきあがる
あらた
あらた
あらた
老父は呪詛をなげかけるおれを 嘲るように
にいっと歯を見せつけた
Fin.
最後までお読みくださり ありがとうございました
この物語は フィクションです