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そして、来るその日。

ざんざんと大きな窓を雨が叩き付ける中、『4人』はとあるカフェのボックス席に、静かに腰を下ろしていた。

店員

お待たせいたしました

店員

アイスコーヒーとホットのレモンティー、それからホットのミルクティーお二つでございます

店員

ごゆっくりどうぞ

カエデ

どーも……

カランと、グラスの中で踊る氷の向こうに座す男に、カエデは苛立(いらだ)ちを隠さない。

桔平

じゃあ、改めて自己紹介をするね

桔平

俺は江田桔平。大学生

桔平

そして……小説投稿サイトのセラーノベルで活動している『桔花』でもある

桔平

君の言葉で言うなら、『中の人』ってやつだ

桔平

そしてこっちが、君も知ってるよね

真由美

ゔぃあらっとの中の人、高校生の藤葉(ふじは)真由美(まゆみ)です

真由美

今回は、中立の立場でこの話し合いに参加させてもらいます

カエデ母

はあ?なにそれ、どういうつもり?

カエデ母

そもそも、ゔぃあらっとさん?に用は無いんだけど

真由美

貴方はそうかも知れませんね

真由美

でも、私の方は用があるんですよ

真由美

それに、話し合いが感情的にならないようにする……

真由美

それが私の役割ですから

カエデ

は?何が中立だよ、アンタもどうせ桔花の味方なんでしょ!

カエデ

なんでこんな所に呼び出したワケ?

カエデ

用があるならメールとかで済ませば良いでしょ?

カエデ

忙しい私達の時間を使ってまで、私達に文句を言いたかった訳?

カエデ

2人とも、マジで性格悪いね

カエデ

私達の都合も、なんも考えてくれないんだもんね〜?

カエデ

そんなに自分の意見を押し通したいんだあ!

桔平

おっと、他責思考(たせきしこう)もここまでとは……

カエデ

は?たせ?

桔平

あれ、中学受験の範囲にないんだ、この言葉

桔平

他責思考っていうのは、何でもかんでも他人や周囲の環境のせいにして

桔平

自分は悪くないって考える事を指すんだけど……

桔平

桔平

君、このまま成長して、社会に出たら苦労するよ?

カエデ

はあ?何言ってんの!?

カエデ

私がこうなったのは全部アンタのせいじゃん!

カエデ

桔花が余計な事するから、私はこんな所に呼び出されたんじゃない!

カエデ

アンタが居なければ、何も起きなかったのに!

カエデ

全部全部、桔花が悪いんだよ!?

カエデ

どうしてくれんの!?

真由美

……うわ、開き直ったよ

桔平

こら、真由美さん

真由美

すみません、つい

桔平

ま、そう言いたくなるのもわかるよ、これは

桔平

桔平

カエデさんは、なんでそんなに、自分の行動を棚に上げられるのかな?

桔平

この話し合いが開かれたのは、俺が声を掛けたから?

桔平

本当にそうかな?

桔平

君が『ごめんなさい』の一言でも言っていれば、こんな話し合いは開かれなかった

桔平

つまり元を辿(たど)れば、他ならぬ君自身の行いによって、この結果は招かれた訳だ

桔平

それなのに、なんで俺のせいにするのかな?

桔平

全部、君の行いによる結果だろうに

カエデ

マジで何言ってんのか意味わかんないんだけど……

カエデ

訳の分からない言葉を使って、頭いい人ぶるのは止めなよ

カエデ

みっともなく見えるし

カエデ母

そうね、かえちゃんの言う通り、口ばっかり達者(たっしゃ)な人なんだね

カエデ母

親の私の前で、よくもまあ言いたい放題言ってくれたじゃん

カエデ母

しかもこんな所に呼び出してまで!

カエデ母

やっぱりあなた、かえちゃんを陥(おとしい)れようとしてるんでしょ!?

カエデ母

そうやってかえちゃんを虐(いじ)めるのが目的なんでしょ!?

カエデ母

だからこんな、無駄な時間を設(もう)けたんだわ!

カエデ母

そうなんでしょ!?

桔平

あー……うん

桔平

これは、想像していた以上に重症(じゅうしょう)だ

桔平

どうしようか

真由美

桔平さん、この際です

真由美

このお母さんにも、言ってやりましょうよ

真由美

こんな親に育てられてしまったばかりに、この子は歪(ゆが)んでしまったのかもしれません

真由美

お母さんにこそ、現実を突きつけてあげる必要があるのではないでしょうか

桔平

……それもそうだね

桔平

この際、全部言わせてもらおうか

広い机の上に並べられるのは、大量の紙。

そのどれもがセラーノベルのスクリーンショットで、ご丁寧(ていねい)にも『コピー』と書かれている。

この文書を破り捨てたりしても、元のデータがあるために無駄になるに違いない。

カエデの目の前には、ゔぃあらっと……真由美との、目も当てられないようなやり取りの記録が。

そして母の目の前には、このなりすましがカエデであるという、『証拠』が並べられていく……

カフェの中は暖房(だんぼう)が効いているはずなのに、背には汗が一筋、流れていく。

と言うのも、目の前に置かれた大量の紙が全て、カエデにとって致命的(ちめいてき)なものであったからだ。

もしここで、自分がした事を認めれば、どうなるか。

母という絶対の後ろ盾を失うばかりか、この2人から、謝罪以外の何を要求されるか分からない。

……それだけは、絶対に避けたかった。

桔平

さて、カエデさん

桔平

このスクリーンショットについては当然、覚えているよね?

まず取り上げられたのは、カエデの前に置かれていたもの。 ゔぃあらっととのやり取りの履歴だ。

桔平

ここにいる彼女にしたセクハラについて、何か申し開きはあるかい?

カエデ

何それ、意味わかんない!

カエデ

私はセクハラなんてしてない!

カエデ

これは私のせいじゃないもん!

カエデ

なにより、私が書き込んだって言う証拠でもあるの!?

カエデ

ここにあるぜーんぶ!私がやったって!

カエデ

どうせ全部でっち上げなんでしょ!?

カエデ

私達が納得できるような証拠があるなら、とっとと出せばいいじゃん!

カエデ

そんなもの無いんでしょ!?

カエデ

どうせ無いんでしょ!?

カエデ

無理なんだから諦めなよ!

桔平

そう言われると、こちらとしては痛いね

桔平

君がやったという証拠を提示することは出来るけど……難しいな

カエデ

はんっ!

カエデ

ほらね、証拠なんてな――

桔平

いや、難しいってのは、君達を納得できるような説明がって事

桔平

それでもまあ、やってみはするけど、最後まで聞いて欲しいな

桔平

質問はその後で受け付けるからさ

桔平

桔平

さて、まずこれらの投稿が君によって行われたものだという証拠だけど

桔平

それについては、ここに置いてあるものを見ればいい

桔平

まず1つ目は、セラーノベルのアカウントを登録した端末について

桔平

セラーノベルの運営に協力をお願いして、なりすましアカウントのIPアドレスを調べてもらったんだ

カエデ

……IP、アドレス?

桔平

簡単に言えば、インターネット上での住所みたいなものかな

桔平

それを調べた結果、君のスマートフォンと、君のセラーノベルのアカウントが紐づいていることが確認できた

桔平

詳しいことは、この書類の15ページ目にあるから、後で読んでみて

桔平

桔平

さて、これで君のスマートフォンの情報は特定できた

桔平

でもこれでは、その端末を『誰が』使っているかまでは分からない

桔平

しかも俺は学生の身だ

桔平

他の大人たちみたいに、簡単に弁護士を頼れない

桔平

だから、俺の味方でいてくれる人達にお願いしたんだよ

桔平

このなりすましアカウントの、本アカを探して欲しいって

カエデ

ちょ、ちょっと待って?

カエデ

何で本アカがあるって思ったの?

カエデ

もしかしたら、その本アカがあるって決めつけたのが間違ってるかもしれないのに!

桔平

いや?あると思ったよ

桔平

このなりすましアカウントが投稿している、他の作者への誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)を見れば分かる

桔平

桔平

ほとんどが書き手目線のものなんだ、あのコメント群は

桔平

ま、なりすましをバレにくくするための、偽装(ぎそう)っていうのもあると思うけど

桔平

明らかに、普段から小説を書いている人の目線に立ったコメントが多い

桔平

特に恋愛小説をメインに書いている人の事は、細かな所まで指摘(してき)を入れてきている

桔平

だから、このアカウントの持ち主は、普段から『セラーノベルで』小説を書いている人なんだろうなって思ったんだ

桔平

それも、恋愛小説を書いている……

桔平

それならば、このサイトのどこかに、本アカウントがあるだろう

桔平

だから探したんだ

桔平

使っている単語からして小学生だろうから、まずは小学生だとすぐに分かるアカウントを調べてもらってさ

桔平

あとは、なりすましアカウントの文章のクセに近い、文章を書くアカウントを1つ1つ見ていくだけ

桔平

雑談ばかりじゃない、本当に作品をアップロードしているアカウントをね

桔平

そこで見つかったのが、このアカウントだ

カエデの目の前に出されたスマートフォン。

そこには『むぃぷる』という名前の、ユーザーのプロフィールが映し出されていた。

桔平

これ、カエデさんだよね

桔平

セラーノベルの運営に、こっちのIPアドレスも調べてもらったんだけど……

桔平

合致したよ

桔平

あのなりすましアカウントと、IPアドレスがね

ゾッと背筋が凍(こお)る。

この男とその仲間は、自分を特定するために、それ程の労力(ろうりょく)をかけたのだ。

それこそ、弁護士を雇わずに。 金のかからない、人間の力で。

桔平

そこからあとの『特定』は簡単だったよ

桔平

君の雑談投稿は、ほとんどが話し言葉で書かれていた

桔平

だから、そういう話し方――方言がある地方を特定して

桔平

時々本アカの『むぃぷる』となりすましアカウントに上がる、写真を調べれば住んでいる地域はすぐ分かる

桔平

あとはその近辺にある小学校と、雑談で語られる愚痴(ぐち)を合わせれば……

桔平

君の通っている塾と、住所が分かるのはあっという間だったよ

開いた口が塞(ふさ)がらない。 目の前の男の行動力に、恐怖すら感じる。

確かに『むぃぷる』のアカウントでも、なりすましアカウントでも、カエデが写真を載せたことはある。

カエデ

だけど、それだけで……?

カエデ

住所がわかるような、建物や学校の写真は載せてないはずだよ?

カエデ

それに、ランドセルとかの自分だってわかるような物も、載せてない

カエデは用心していたはずだった。

だというのに……どうして?

その答えは、桔平がすぐに教えてくれた。

桔平

君が載せた虹の写真、あれは良かったね

桔平

アレはいい手がかりだったよ

桔平

だってアレには虹だけじゃない、見切れていたけど、建物だって映っていた

桔平

シオン系列のショッピングモールがね

桔平

それさえ分かれば、ちょっと画像検索するだけで、場所を割り出せるよ

桔平

なにより、その地域に住んでいる協力者に連絡を取って、確認して貰ったから間違いない

桔平

そこからは君の行動パターンを分析して、通っている塾(じゅく)と住所の特定に至った

桔平

以上が、君を特定できた経緯(けいい)だ

ぐらり、と世界が歪む。

どうしてこんなにも、この男は自分を苦しめるのか、カエデは理解が追いつかない。

――いや、嘘だ。 本当は知っている。

彼がここまでしているのは、カエデが桔花の何もかもを……人気も、立場も、全てを壊そうとしたからだ。

だが、理解はしても、納得はできない。

カエデ

私の邪魔をしたのは、そっちじゃん

胸の内につっかかっている熱い物…… 怒りが、カエデの手を震えさせる。

桔平

さて、これで俺の話は終わり

桔平

君から何か質問はあるかい?

カエデ

あるわけないじゃん……

カエデ

これまで出してきたもの、全部嘘に決まってるんだから

カエデ

私に嫌がらせをしたいがために、こんなものまでわざわざ作って、私の罪をでっち上げたんだもんねぇ!

カエデ

ねえ楽しい!?

カエデ

私の人生、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)にしてさ!

カエデ

責任を取って!謝ってよ!

カエデ

いや……今この場で土下座して、私に許しを乞(こ)え!

カエデ

私の未来を奪った事を謝れってんだよ!

真由美

うわ……

カエデ

はーっ、はーっ……!

桔平

桔平

カエデさん

カエデ

何よ

桔平

ここ、カフェは公共の場だから

桔平

静かにしようか

桔平

他のお客さんに迷惑だよ

ふざけるな、と言い出す口からは、生ぬるい息しかでない。喉がカラカラだ。

さっき、ミルクティーを口に含んだのに。

この男に見つめられた瞬間、水分が抜けたと錯覚する程、カエデは混乱していた。

カエデ

なん、でよ……

カエデ

怒ってるのは私じゃん、アンタまで怒ってんじゃないよ……

カエデ

カエデ

ママ、ねえママ

そうだ、母はどうしたのだろう。

黙り込んでしまって、助けてくれる気配もない。

まるで自分の世界から切り離されてしまったかのように、母が遠く感じる。

……怖い。 ただひたすらに怖い。

自分が今どこに居るのか分からなくなってしまうほど、カエデの目に、桔平は恐ろしく映った。

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