結晶病
近年我が国で流行りだした謎の病
感染した人は、体がだんだん結晶に変わっていく
足から少しずつ感染して、最後には体が結晶になって砕けてしまう
なぜこんな病が発生したのかは分からない
成分分析の結果、元人だった結晶はクリスタルと同じ成分である事が判明した
美しく、恐ろしい病だ
長い冬を超えて、街には春の兆しが表れている
私は、もうすぐ芽吹く花に水をやっている所だった
郵便配達員
ターニャ
郵便配達員の格好をした青年が話しかけてきた
あまり仕事に慣れていない様子だから恐らく新人だろう
もうそんな時期か、と感じたのが、印象的だった
郵便配達員
ターニャ
郵便配達員
郵便配達員は革で出来た手紙入れから一枚の手紙を取り出し、渡した
ターニャ
郵便配達員
足早に去っていく郵便配達員を見送り、私は渡された手紙を見る
送り主は兄であるイルマからだった
ターニャ
兄さんとは会わずにもう何年も経っている
互いに連絡しづらいのだ
ターニャは封筒を破かない様に空け、中身の便箋を読んだ
ターニャ
「親愛なるターニャへ」
「いきなり連絡してしまったね、ごめん。今日はどうしても君に伝えたいことがあるんだ」
「えっと…どう話せば良いのかな」
「最近、結晶病ってのが流行っているよね?実は僕の友人が感染して、お見舞いに行ったんだ」
「そしたら、僕も感染しちゃってね」
「きっとこのままだったら、君を思う気持ちも忘れてしまうかもしれない」
「だから、こうして手紙を書いたんだ」
「見舞いに来てくれなんて、言わない。けど、君に伝えたいことがある」
「最近連絡取らなかったけど、こんな自分を兄と認識していてくれてありがとう」
「そして、さようなら」
ターニャ
ターニャは、何とかしなければと思った
お金は全くないが少ないお金を取り出し、荷物をまとめた
ターニャ
ターニャ
イルマ
ベッドの上
イルマは座り込み、窓の外を見ていた
別に何かあるわけでもない
体が結晶化して死ぬだけならば、何をしたって意味が無い
そう思っているのだ
エリザベータ
イルマ
妻であるエリザベータが食事を運んできてくれる
結晶化の作用で感謝の気持ちすらなくなってしまっている
それでも、感謝の言葉だけは忘れないようにしている
エリザベータ
イルマ
エリザベータ
イルマ
会話が途切れる
本当はこんなに冷たい反応をしたい訳じゃない
なのにこれ以外の応答を考えられないのだ
エリザベータ
エリザベータが小さいテーブルにスープを置くと、部屋から去って行った
イルマ
スープを手に取り、自分の体に眼を向ける
腰の辺りまで、赤く透明な結晶になってしまっている
あと一週間か、イルマはそう考えスープを口に流し込んだ
ターニャ
切符を車掌に渡すと、ターニャは走り出した
あれから3日かけて、国内最西端のイルマの住む街に向かっているのだ
ターニャ
駅から出て、地図を確認する
やっぱり少し離れている
仕方ない、徒歩5分で外国に行ける街なのだ
多少駅からとは言えど遠くなる
ターニャ
会いに行くからー!!
ターニャはそう叫び、春の町を走り出した
昼間
もうやりたい事なんて無い
現に結晶は頬の一部まで来ている
ベッドに座った体勢から変えられないし
食事もエリザベータに食べさせて貰ってる
もう、後は死ぬだけだ
イルマ
不意に、コンコンとノックをする音がしたので応答する
エリザベータ
ターニャ
その単語に僕の心は色を取り戻し掛けた
イルマ
もう会えないと思っていた
彼女はこんな西の町まで来てくれたんだ
エリザベータ
イルマ
機械的にではなく、自分の意思でうなづいた
ターニャ
ターニャが部屋に駆け込んできた
イルマ
ターニャに笑って見せる、しかし結晶のせいで頬の筋肉が動かない
ターニャ
体と顔を侵食している結晶は無慈悲に明るく輝いている
僕に未来なんて無いのに
イルマ
ターニャ
ターニャがぼろぼろと大粒の涙を流す
何年も連絡を取っていなかったのに、まだ自分の事を思ってくれたのか
それに対する喜びと、自分の未来に対する悲しみが混ざり合う
ターニャ
ターニャが声を絞り出す
その様子に僕の何かが動かされた様な気がした
イルマ
目から涙が溢れるのを感じた
感情なんて全て無くなってしまったと思っていたのに
イルマ
ターニャ
ターニャが不思議そうにこちらを見ている
イルマ
ターニャ
イルマ
体を見ると、少しずつ結晶が溶けていく
手の自由が戻り、上半身が動かせる様になり
体勢を変えられる様になり
やがて、立ち上がる事が出来るようになった
イルマ
ターニャ
僕はターニャを抱きしめる
ターニャの目には涙が溜まっていた
エリザベータ
イルマ
エリザベータ
エリザベータ
エリザは泣き崩れてしまった
ターニャ
イルマ
生きているって幸せだ
と、生きてて一番感じた
それから、結晶病は進行が進んだ者が感情を動かされた時に流す涙によって溶ける事が分かった
結晶病は感情も奪っていく
彼らの心を動かすのは簡単では無いだろう
しかし、生きたいという願いは
どんな困難も乗り越えられるのだ
コメント
11件
涙で結晶が溶けていく描写、まるでそれが見えるように世界観に浸ってしまいました…!!
凄い綺麗なお話ですね 病気の治り方までもが神聖な感じで、死に至る怖い病なのに、素敵だな...って思ってしまいます! Twitterから読みに参りました! ありがとうございます!!(´﹃`)