幼女
…んん~♪
太陽みたいなあどけない笑顔で、 分厚い熱々ホットケーキに ぱくつく幼女。
マキリ
おかわり、いる?
幼女
作ってみたのは、 昔ながらのレトロ喫茶店っぽい 厚さ3cm弱のホットケーキ。
焼き立てに木苺ジャムとバターを のせてみたんだけど、 喜んでくれてよかったよ。
スライム
スライムは、幼女の隣で おとなしく様子を見守っている。
マキリ
私は一応、 しばらくはスライムを 警戒してた。
だけど、さっきの一件以降 私を襲ってくる気配は ないんだよね…
…ま、さっきも この子を守ろうとしてた だけみたいだし、
普通にしてれば 襲われないと思って よさそうだな!
幼女
幼女
いっぱいだわ!
11枚目のホットケーキを 食べたところで 幼女はようやく満足したらしい。
さすがに食べ過ぎな 気もするけど、
よっぽどおなかが すいてたんだよね、 たぶん。
幼女が落ち着いたっぽい頃を 見計らって聞いてみる。
マキリ
お名前は?
幼女
幼女
まず じぶんが なのる
もんでしょ?
マキリ
返された?!
まぁ正論ではある。
マキリ
幼女
幼女
ヴィテッロ・オル・フォルノ・アラ・メログラーノよ
マキリ
…っろ……?
長い。
それに言いにくくて、 舌かみそうなんだけど!
ヴィッテ
よべば いいわ
ヴィッテ
そう よんでたもの
お、短くなった。
それなら無理なく 呼べそうだ!
マキリ
ヴィッテちゃん、
マキリ
“おやつ係”って何かな?
ヴィッテ
ヴィッテ
つくる係なの
マキリ
ヴィッテ
ヴィッテ
ふわふわで おいしかったわ
ヴィッテ
ちょうだい!
マキリ
いいけど…
マキリ
今どこに住んでる
のかな?
ヴィッテ
ヴィッテ
前の おうちは
こわれちゃったの
ヴィッテ
さがしてるけど、
ヴィッテ
なかなか ないのよねぇ
マキリ
マキリ
どうやって
暮らしてたの?
ヴィッテ
見てまわってたわ
ヴィッテ
さがさなきゃだし
幼女にして、 各国を巡る さすらいの旅人。
危険な魔物も うろついてるはずなのに、
この子、今まで よく無事だったな??
マキリ
ってのは、その…
マキリ
1人目の方?
ヴィッテ
ヴィッテ
だけだから、
ヴィッテ
いるはずよ…
ヴィッテ
そのうち 会えるわ
ヴィッテは 大人びた顔で 微笑んだ。
マキリ
マキリ
大変だったね
ヴィッテ
ヴィッテ
いっしょだもの
マキリ
ヴィッテ
ヴィッテ
きょーいくがかり
なの
スライ
紹介に合わせ、 ヴィッテの手のひらに 乗るスライム。
マキリ
教育係なのか…
…さすがは 異世界。
マキリ
お仕事があって
マキリ
いるなんて
マキリ
家はすごいね
ヴィッテ
ヴィッテ
おーさまだもの!
マキリ
マキリ
マキリ
ってことは
マキリ
壊れたおうち”って
マキリ
ヴィッテ
ヴィッテ
同じぐらい 広くて 高い
たてものが いいわ!
ヴィッテ
思った おうちは、
ヴィッテ
ヒトが いたのよねぇ…
ヴィッテ
かわいそーだもの
マキリ
お城クラスの家
ともなれば、
マキリ
無いとは思うけど
ヴィッテ
ヴィッテ
どこに あるのかしら
ヴィッテ
大きく溜息をつくヴィッテ。
彼女の理想の 家探し…
…ゴールは、 かなり遠い かもしんない。
マキリ
お父さんが王様
ってすごいね…
たぶん私みたいな一般人とは スケールが違う豪勢な生活を 送ってたんだろうなぁ。
初対面から偉そうだったのは 王様の娘として育ったからかも と思うと、なんだか納得。
言葉遣いや立ち振る舞いも どこか気品ある気もするし…
マキリ
ヴィッテちゃんは
“王女”っぽい感じかも
ヴィッテ
首をかしげたヴィッテは、 スライムに話しかける。
ヴィッテ
“おーじょ”って なに?
文字表示(スライ)
>『王女』とは、王の娘のことです。
・・・・・・・・・・
スライムの体に 表示されたのは “文字”。
ヴィッテ
そうなんだ
文章を読んで うなずく ヴィッテ。
マキリ
マキリ
だとッ⁈
そう、機械に話しかけて 検索する“あれ”だ。
スマホが根付いた現代、 日常的に使いこなす人も多いはず。
私だってここに来る前は しょっちゅう使ってたし!
マキリ
ちょっと
ヴィッテちゃん、
マキリ
ヴィッテ
どれ?
マキリ
呼びかけたら、
マキリ
返ってきたよね?
ヴィッテ
ヴィッテ
おはなししたい』って
スライに いったら
ヴィッテ
なったんだ
マキリ
マキリ
そういうもんなの?
ヴィッテ
スライムが やってるの
見たことないなぁ…
ヴィッテ
文字表示(スライ)
>一部のスライムは表示対応可能です。
文字表示(スライ)
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
自分で 賢いって 言うんかい!
このスライム、 謙虚のかけらもないな??
マキリ
マキリ
話せたりしない?
ヴィッテ
きょーいくがかりが
ほしいの?
マキリ
そんなとこ
ヴィッテ
ヴィッテ
【ぶんれつ】して
――ぽい~ん
マキリ
スライム
分かれたほうのスライムが 私に向かって ジャンプしてきたので…
マキリ
…思わず両手で 受け止める。
ヴィッテ
って いうの
ヴィッテ
きょーいくがかりに
してあげるから、
ヴィッテ
もらいなさい!
マキリ
私のつぶやきに答えるように、 2号の体に文字が表示される。
文字表示(スライ2号)
>その通り。私がスライ2号です。
文字表示(スライ2号)
・・・・・・・・・・
マキリ
共有――
――瞬間、 ひらめく私。
だけど本当に 実現できるかは…
…まだ確証が 持てないかも。
はやる気持ちを押さえつつ たずねてみる。
マキリ
スライ2号、
マキリ
常時共有ってのは
どこまでできるの?
文字表示(スライ2号)
>どこまで、と言いますと?
・・・・・・・・・・
マキリ
お互い凄く離れた場所で、
マキリ
やり取りするとかは?
文字表示(スライ2号)
>当然可能です。
・・・・・・・・・・
マキリ
何体まで可能?
文字表示(スライ2号)
>何体でも可能です。
文字表示(スライ2号)
文字表示(スライ2号)
・・・・・・・・・・
マキリ
分裂できる個体数には
限りがあるってことね…
マキリ
分裂できる?
文字表示(スライ2号)
>限界への挑戦は未経験です。
文字表示(スライ2号)
・・・・・・・・・・
マキリ
マキリ
社内ネットワークなら
充分いける数じゃん…
マキリ
ってのは厳しい?
文字表示(スライ2号)
>個体維持の保証はできません。
文字表示(スライ2号)
文字表示(スライ2号)
文字表示(スライ2号)
・・・・・・・・・・
マキリ
スライムの数だけ
マキリ
作れちゃうわけで…!
直感の段階では ふわっとしていた アイデアが、
2号の情報を通して 徐々に はっきりと形作られ、
確固たる“確信”へと 変化していく。
マキリ
意を決した私は、2号を いったんテーブルに置く。
そして、ヴィッテと スライに言った。
マキリ
マキリ
“インターネット”
作らない?
ヴィッテ
…ねっと……?
唐突な私の提案に、 ヴィッテは大量の“?”を 浮かべたのだった。