コメント
1件
夜九時
農地からは人気が消え、街灯もまばらな暗闇が押し寄せていた
雨戸も閉まった家屋に向かって、いかがわしい影が集まり始める
頭部らしい物はあるが、足もとは布を引きずるように判然としない
それがゆらゆらと左右に揺れながら移動する
数時間前、老女とその息子夫婦が和解したあの農家だった
見世物小屋を覗くような薄暗い快楽を楽しむ仕草で
いくつかの影は指先と思しき物を敷地内へと近付けていき
バチンッ
影
それはしたたかな音を立てて弾かれた
その背後で、白い髪が揺れる
渋谷大
渋谷大
聞こえた声に、影が一様に身を強ばらせた
久留間悟
久留間悟
見れば老女宅の敷地を囲うように、いくつもの呪符が貼り付いていた
渋谷大
渋谷大
渋谷大
影
鼓膜を破らんばかりの振動が、高音を模して二人を直撃する
それを正面からの拒絶だと理解し、渋谷は犬歯を覗かせた
渋谷大
渋谷大
拳を振りかぶり、黒い影達めがけて土を蹴る
嘲笑い身を捩らせた影たちは、拳をすり抜けるばかりのはずだった
にもかかわらず
影
殴り抜かれ、一つの影が霧散し
拳にまとわりついた影の名残を吹き飛ばして
渋谷の青い目がふわりと緩んだ
渋谷大
渋谷大
影
渋谷大
渋谷大
しばし戸惑うように影たちが互いを確認し、威嚇姿勢をとったのを
渋谷は非従順の返答だと受け取った
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷が黒い影に躍りかかり、常人には聞こえない怒号が周囲に溢れ始める頃
──その様子を遠巻きに見ていた残る影達は、さやさやと後退を始めていた
自分たちがどうこうできる人間ではないらしく
好んで殲滅しようとしているわけでもないと踏んだらしい
ひとまずやり過ごそうと充分に敷地から離れた頃
バチンッッ!!
彼らの体は再び、したたかな音を立てて弾かれた
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
言い終わると同時に、手に持っていた瓶から酒を地面へと振りまく
さらに腰うしろに結わえていた大幣(おおぬさ)を胸の前で掲げ
腹の底から声を上げた
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
久留間悟
言葉を聞くや否や、影たちは右往左往と逃げ惑い始めた
内容など理解できずとも、影たちにとって危険な物だと理解したらしい
しかし逃げようとしても、前後左右の空間すべてを結界の壁が邪魔をする
影
久留間悟
うろたえる霊たちに、呪符が投げつけられた
久留間悟
久留間悟
久留間悟
奏上と同時に呪符が炎を噴き出し、見る間に影たちを焼く
それらは喘ぐように伸び縮み、足もとへと崩れ積もりながら
やがて溶けるように地面へと消えていった
久留間悟
久留間悟
久留間悟
動いた視線が渋谷を映すと、厳かに手が合わされている最中だった
やがてその目が開き、久留間に気づいた途端にふにゃりと緩む
渋谷大
久留間悟
渋谷大
久留間悟
渋谷大
渋谷大
久留間悟
渋谷大
確認だけで会話を終える
残っていた影を昇天させたとは思ってもいない顔に、メガネの奥の瞳が緩んだ
老女宅の中から笑い声が聞こえる
まだ幼いと言っていた子ども達が眠った頃合いらしく
生前のように談笑しているらしい雰囲気に、二人は顔を見合わせて破顔した
渋谷大
久留間悟
渋谷大
久留間悟
ぐっと背筋を伸ばし、少々離れた場所に停めた車まで歩く
月明かりを遮る物はなにもなく、ただ煌々と満月が広い空を照らしていた
渋谷大
久留間悟
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
久留間悟
久留間悟
久留間悟
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
包みを卓上に置いて指を組み、本田は改めて渋谷に向き合った
本田芙蓉
渋谷大
渋谷大
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
渋谷大
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
渋谷大
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
本田芙蓉
渋谷大
本田が視線で示した先を見て、渋谷からも声が漏れる
事務所から見えるビル群と、その中央を横断するバイパス道路
その空を泳ぐように、少女の霊が花飾りのついた帽子を運んでいた