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次の日、やはり名前くらい聞いておけばよかったな、と後悔した

でももう遅い

たまたま公園で出会っただけの女性

もう一生会うことはないだろう

弘樹

あ~あ

弘樹

名前聞いときゃよかったなぁ……

そんなことを考えながら、仕事帰りにあの公園に行ってみた

すると……

弘樹

あっ

女性

あっ

女性

どうも……

そこにはあの女性がいた

無言でいるのは気まずいので、それとなく話しかけてみた

弘樹

ああっと

弘樹

懐かしくてまた公園に来ちゃったんですけど

弘樹

お邪魔しちゃいましたかね……

女性

ああ、いえ!

女性

ひとりでぼーとしていただけなんで!

女性

大丈夫ですよ

さらに、気を使ってくれたのか、彼女の方から話しかけてきてくれた

女性

子どもの頃、このあたりに住んでいらっしゃったのですか?

弘樹

ええ

弘樹

ああ、まあすぐ近くってわけでもなくて

弘樹

少し離れていたんですけど

弘樹

友達がこの公園、特に梅の花が好きで

弘樹

よくここで遊んでいたんですよ

女性

その友達というのが……

女性

……亡くなった?

弘樹

そう、ですね……

女性

私の方は、逆ですね

女性

私がこの公園が好きで、友達をよく引っぱってきていました

弘樹

そうなんですね

そんな感じで、子どもの頃のことをぽつぽつと話していた

女性

あっ、そういえば自己紹介していませんでしたね

弘樹

ああ、そうでしたね

白乃

私、花崎白乃(しらの)っていいます

弘樹

俺、鶯塚(おうつか)弘樹っていいます

白乃

オオツカさん?

弘樹

あーっと

弘樹

ちょっと変わった字を書いて

弘樹

ウグイスにツカでオ ウ ツカ、なんですけど

弘樹

発音しにくいので弘樹って呼んでください

って、急に距離を詰め過ぎたかな……

白乃

じゃあ

白乃

私のことも白乃って呼んでくださいね

弘樹

あっ、ええっと

弘樹

じゃあ白乃、さん、で……

白乃

じゃ、私も弘樹さん、で

そうやって俺たちは少しずつ親しくなっていった

夜公園で会っていただけだし、特にたいした話をしていたわけでもないのだが

それでも彼女といっしょにいると心が落ち着いた

一度、ある程度親しくなってから

連絡先を交換しないかといったときはやんわりと断られてしまったが

それでも俺たちは毎日のように公園で同じ時を過ごしていた

そんなある夜のこと

いつものように公園でいっしょに過ごしていたら

ぽつり、ぽつり

と雨が降ってきた

弘樹

あちゃ

弘樹

天気予報は晴れだったのに

弘樹

通り雨かな?

この公園に雨宿りできるような場所はない

強いていうなら狭いトイレくらいか

ただそれは、男女共用の個室が1つあるだけで、 二人で入れるような場所じゃない

弘樹

今日は解散、ですかね

ただ、雨は思ったより強く降りはじめた

白乃

あの

白乃

私、実は公園のすぐそばに住んでいるんです

白乃

よかったら傘、持っていきませんか?

確かに、この雨の強さだと、帰るまでにはすっかり濡れてしまうだろう

弘樹

あー

弘樹

じゃあすいませんけど、お願いします

弘樹

ここで待っていればいいですか?

白乃

いえ

白乃

その間に濡れてしまいますから、ついてきてください

たぶん一人暮らしであろう女性の家に、お邪魔してもよいものか

とは思ったが、雨はどんどん強くなって来た

迷っている余裕はなさそうだ

ここは言葉に甘えることにしよう

白乃

ここです

弘樹

あー、じゃあ傘だけお借りして……

白乃

でも、だいぶ濡れてしまいましたね

白乃

タオル貸しますから

白乃

せめて拭いていってください

弘樹

ああっと……

弘樹

じゃあ、ここで待っていますから

さすがに女性の一人暮らしの部屋に入るのは、と思ったのだが……

白乃

ここ、ですか?

白乃

んん~

白乃

近所の人に見られるかもしれませんよ?

女性の部屋の入口に夜中男が立っている

それはそれで、近所の人に見られるのは、彼女の立場からすると嫌かも

弘樹

じゃ、少しだけお邪魔します

と部屋にはいったが、彼女はせめてこれだけでも飲んでいけと言って お茶を出してくれた

体が冷えていたので正直ありがたい

ただ、成り行きでここまで来てしまったのだが、本当によかったのだろうか?

弘樹

それにしても、よかったんですか?

弘樹

見ず知らずの男を部屋にあげちゃって……

白乃

ええっ!?

白乃

弘樹さんは見ず知らずの人じゃないじゃないですか

弘樹

そりゃそうだけど

白乃

それに……

彼女は少し言いよどんで

俺の方をまっすぐに見た

白乃

弘樹さんなら、いっかなって……

弘樹

白乃さん……

彼女の瞳に引き寄せられるように、俺は体を近づけた

彼女が目を閉じる

俺は顔を近づけると

彼女の唇にそっと触れた

ずっと公園で梅の木の下にいたせいか

彼女は甘い梅の花の香りがした

それから俺たちには

公園で会って、その後彼女のマンションを訪れる、という流れが出来た

たまには昼間にデートでも、とも思ったのだが、彼女も働いているらしく

なかなか休みが合わず、実現できずにいた

そんなある日

弘樹

おっと……

俺は仕事中、立ちくらみというか、めまいで倒れかけた

毎晩のように白乃と会っているせいで疲れがたまっているのかもしれない

そう思うと、ちょっとだけ気恥ずかしい気がした

が、そんな事情を知らない、先輩の一人がひどく心配してくれた

先輩

おい、弘樹、大丈夫か?

弘樹

あ、はい、大丈夫です!

毎晩恋人と遊びほうけているせいなんです、なんて先輩に言うわけにもいかず

なんだか申し訳ない……

先輩

本当に、大丈夫なのか?

弘樹

あ、はい、すいません

弘樹

よけいな心配させちゃって……

先輩

いや、それはいいんだが……

先輩

お前、顔色がかなり悪いぞ

先輩

本当に大丈夫なのか?

先輩

医者には見てもらったか?

弘樹

ああ、いえ……

先輩

うーん

先輩

一度ちゃんと見てもらった方がいいぞ

先輩の言葉には真剣な響きがあった

軽く考えていたけど、そんなに顔色悪いのかな?

おおげさじゃないかと思っていたけど

今度、ちゃんと医者に診てもらうかな

その日の夜

弘樹

……ってことがあったんだよ

弘樹

俺、そんなに顔色悪いかな?

白乃

ん~

白乃

月明かりだからわかんなかったけど、確かに悪いかも……

弘樹

そっか

弘樹

やっぱ医者に診てもらうべきかなぁ

白乃

そんなに体悪いの?

弘樹

いや、自覚はないんだけどね

弘樹

ああ、でも、今日ちょっとめまいがして……

と、そのとき

おい、そこにいるのはもしかして、弘樹か?

続く

白梅香(はくばいこう)

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