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#執着
猫とろ
315
瑠璃マリコ
24,513
太陽の熱が地面を照りつける7月。
数センチだけ開け放たれた窓の隙間から、乾いた微風が熱気と共に流れ込んでくる。
じっとしているだけで汗が滲むような蒸し暑さに辟易としながら、彼女――――琴音は、ベッド脇に置いたままの携帯ゲーム機を手に取った。
電源をつけ、無言でピコピコと動かし続ける。
ハンディ扇風機の頼りない風力が、琴音の柔らかな前髪を優しく揺らした。
如月
彼女の隣には、タオルケットにくるまれて眠る男の姿がある。
微かに唸り声を上げて寝返りを打つ男の目蓋が、その時、ゆっくりと開いた。
如月
如月
琴音
琴音の声がかすかに弾む。
男の目覚めを隣で待っていたからだ。
その声の主は気だるそうに身を起こし、眠気眼をこすりながら乱れた前髪を掻き上げる。
ふわあ、と情けない欠伸をひとつ零した。
如月
掠れた低音に応えるように、アナログの壁時計が電子音を響かせる。
如月
如月
琴音
ゲーム画面から視線を外し、琴音は男を見上げる。
寝起きのせいでシャツは皺くちゃ、モカブラウンに染まった髪も、寝汗でうねってボサボサ。
それでも整った顔立ちは崩れることなく健在で、熱気で紅潮した頬に妙な色気を匂わせる。
やや幼さを残した中性的な顔つきと、人懐っこい性格のお陰で、朗らかで明るい印象を周囲に与えている―――― 琴音よりも2つ下の、同じ会社の部署で働く後輩のひとり。
彼――――如月恵は、眉間を指で押さえながら苦悶の表情を浮かべた。
如月
琴音
如月
琴音
琴音の指がセレクトボタンを押す。
ゲームの進行を中断させて、ベッドから降りた。
向かう先は収納キャビネット。
常備してある市販薬を取り出し、常温の水が入ったペットボトルと一緒に如月の元へ戻る。
如月の偏頭痛は今に始まったことじゃない。
慢性化している状態で、特に真夏と季節の変わり目に症状が酷くなる。
頭痛とは無縁な琴音にその辛さはわからないが、如月の頭痛に対する対処法なら把握済みだ。
琴音
如月
琴音から受け取った錠剤を口に含み、ペットボトルの水と一緒に喉奥へ流し込む。
事前にキャップを開けてくれたのは琴音の配慮だろうと如月は察した。
この暑さで身体の水分を奪われ、喉がカラカラに乾いていたところだった。
寝起きに飲むなら冷えた水より、常温の水がちょうどいい。
サイドテーブルには汗拭きシートとタオルが一緒に置かれていて、彼女らしい気遣いに如月の口元が緩んだ。
如月
琴音
如月
琴音
大した事はしていないと琴音は謙遜するが、彼女の細やかな配慮は如月も舌を巻くほどだ。
汗を拭くなら濡れたタオルやシートが適切だし、常温の水を用意したのも、寝起きで胃腸機能が低下している体の負担を考えての事だろう。
本当に些細なことではあるけれど、それを誰に指摘されるまでもなく普通にやってのけるのが琴音の長所でもあり、如月が好ましく思っている部分でもある。
如月
如月が一息ついた時、冷房の風量が全くないことに気がついた。
もわっとした熱気が室内にこもり、不快そうに顔を歪める。
エアコンを見上げてみても、稼働している気配はない。
如月
助けを乞うように如月が尋ねれば、琴音は少しだけ眉尻を下げた。
琴音
琴音
如月
数日前から調子の悪かったエアコンは、昨日の夜、ついにその動きを停止した。
前に新品交換をしてから4年程しか経っておらず、エアコン自体の寿命にしては早すぎるから故障だろう。
そうなると修理が必要になってくるけれど、肝心の修理業者がいつ来てくれるのかは謎だ。
琴音
琴音
琴音から告げられたのは無情な死刑宣告だった。
時期が悪すぎたのだろうと如月は考える。
業者がすぐに来られないということは、それだけ依頼が増えて手が回っていないということだ。
ただ、彼らも過密な日程の中で修理に来てくれるのだ。感謝こそすれど、文句を言える立場ではない。
とはいえ、今日もこの蒸し暑さの中で過ごさなければならないのかと、そう考えただけで気分が萎える。
昨晩だって、冷房の効かない部屋で過ごす熱帯夜は地獄でしかなかった。 如月の偏頭痛が悪化するのも当然だ。
絶望感に打ちひしがれ、如月は落胆した顔をシーツに沈めて横に伏す。
隣では真剣な眼差しで、ゲームに勤しんでいる琴音がいる。
この暑さもどこ吹く風と言わんばかりの涼しげな表情だ。汗ひとつかいてない。
"……先輩、汗腺どうしたんですか?"
……と、突っ込みそうになった如月だが、そこは触れずに彼女のゲーム機に目を留めた。
如月
肘を立てて、画面を覗き込むように身を乗り出す。
如月の目に映ったのは、どこかで見たことがあるような二次元のキャラクターだ。
異国の王子様風な衣装を身に纏った男達が、画面から爽やかな笑顔をこちらに披露している。
如月
琴音
琴音
本当は借りたというより、押し付けられたという表現が正しい。
琴音が友人に無理やり手渡されたソフトは、『異世界で王子達から溺愛されています』という、今時なタイトル名で発売された恋愛シュミレーションゲームだ。
攻略対象は6人。
ジャンルは恋愛だが、ストーリーには不可解な謎かけも散りばめられている。
この手のゲームは未プレイだった琴音だが、王道的な内容で難しい選択肢もなく、乙女ゲームと銘打っているだけあって胸キュン要素が多い。
お陰で琴音もそれなりに楽しめている。
如月
琴音
如月
琴音
如月
琴音
如月
琴音
琴音
如月
何を尋ねても琴音の反応は薄い。
普段から口数が少ない琴音だが、物事に熱中してる時ほど、極端に発言が減る。
ゲームに没頭するのは別に構わないが、隣に自分がいるのに無視されるのは気分のいいものじゃない。
如月はしばらく考え込んだ後、トップスから剥き出しになっている琴音の肩に、そっと唇を寄せた。
ちゅっと軽く口づければ、華奢な身体がぴくっと揺れる。
その愛らしいリップ音と柔らかな唇の感触は、琴音の体内にこもる不快な熱を一瞬だけ忘れさせた。
琴音
如月
如月
琴音
如月
いつから私の身体はこの人のものになったのか。
そう咎めたくても反論できない。
如月の主張はあながち間違いでもなくて、それは琴音自身もちゃんと自覚しているつもりだった。
――――と、その時。 ベッドが大きく揺れ動いた。
琴音
琴音
うつ伏せでゲームをしていた琴音の上に、ずしりと男の重みが加わる。
背中に覆い被さってきた如月に非難の目を向けても、当人が退いてくれる気配はない。
そればかりか、今度は琴音の項に吸い付いてきて、白い素肌に自らの印を散らしていく。
これは自分の所有物だと、主張するかのように。
琴音
琴音
琴音の首筋や腕にも口づけながら、如月の手が彼女のトップスを下げていく。
露出する肌の面が広がり、身の危険を感じた琴音の中に焦りが生まれた。
慌てて身を捩り、抵抗を見せる。
琴音
如月
琴音
如月
琴音
如月
やや不機嫌そうな如月に琴音は困惑する。
怒っているというより拗ねているようにも見えるが、如月の機嫌を損ねてしまった理由が琴音にはわからない。
悲しいかな、彼女は繊細な男心に鈍い残念女子だった。
如月
如月
素っ気なく言い放つ如月には、少々サディストな傾向がある。
と言っても痛いことはしないし、琴音が怖がることもしない。言葉で軽く辱しめる程度だ。
ただ厄介な性癖も持ち合わせていて、琴音が抵抗すればするほど、如月の行為は荒々しくなる。余計に興奮を覚えるらしい。
故に、逆らえば痛い目を見るのは自分だと琴音は理解している。
こういう時は潔く諦めて身を委ねてしまうのが賢明だが、わかっていても羞恥心が失われるわけじゃない。
そして琴音が本気で嫌がってはいない事も、如月は当に見抜いている。
羞恥心からの弱々しい抵抗は、ただ如月の加虐心を煽るだけに過ぎなかった。
琴音
汗ばむ項に生温かい舌が這う。
執拗に舐められて、せり上がる快感に琴音の瞳がじわりと潤む。
意地でも逃げようと琴音が両肘を立てた時、その隙を狙って、彼女の脇の下から如月の両手が差し込まれた。
そのまま琴音の胸の膨らみを包み込む。
琴音
服の上から柔肉をやんわりと揉みしだき、如月は確実に彼女の感度を高めていく。
如月
嬲るような口調に琴音は顔を赤らめる。
普段からツンとすましている琴音の、自分にしか見せないであろう反応が如月にとっては愛らしく、更に追い詰めるべく、今度は彼女の耳朶に唇を寄せた。
軽く息を吹き掛けると、華奢な肩がわかりやすいぐらいに跳ねる。
琴音
耳と首筋が弱い彼女は、この程度の戯れにも過剰な反応を見せてくれる。
それだけでも、如月の中のスイッチを押すには十分な威力があった。
如月
薄い生地のトップスに、硬くしこった先端が擦れ、甘い疼きをもたらす。
ジンジンと痺れて止まない両胸の突起を、如月の爪先が服越しにカリ……と優しく引っ掻いた。
琴音
先端から淫悦が溢れ出す。
思わずゲーム機を手離してしまい、シーツの上に虚しく落下した。
服越しに責められて、琴音の身体がぴくぴくと懊悩する。
せり上がる感覚から逃れたくて身を捩っても、簡単に見逃してくれる如月ではない。
如月
如月
琴音
如月
琴音
如月
琴音のゲーム機を如月の手が拾いあげた。 そのまま彼女に差し出す。
如月
如月
琴音
如月
如月
琴音
如月
まるで琴音が悪いと言わんばかりの言い草だ。
そもそも琴音を放置して、昼近くまで惰眠を貪っていたのは如月の方なのに。 そのゲーム自体、彼が起きるまでの暇潰しに過ぎない。
本人が起きてからもゲームを続行していた件については悪かったと思うけど、本当はキリのいいところでセーブして中断するつもりだった。
……というのが琴音の主張だ。 止め時がわからなかっただけで。
琴音はいわゆるゲームオタクという奴なのだが、如月と一緒にいる間は、極力ゲーム機に触れないようにしている。
それは如月も知っているはずなのに、こんな時ばかり一方的に責められるのは納得がいかない。
さすがに黙っていられないと琴音が口を開きかけた時、如月の手が突然、服の中に侵入してきた。
乳房を丸く捏ね回されて、琴音の口からはうっとりとした吐息が漏れる。
如月
如月
琴音
如月
あからさまな挑発に琴音は言葉を詰まらせる。
彼の指先に翻弄されながら、他の事を成すなんて到底無理な話だ。
そんなことは如月にもお見通しで、わかっていながらこんなことを言うのだから底意地が悪い。
琴音
琴音が抵抗の意思を弱めると、如月の行為はますます勢いづく。
敏感な彼女の突起を指の間に挟み込み、ゆるゆると扱き立てては時折きゅっ、と強く摘まむ。
その度に琴音の身体はビクビクと波打った。
彼女がひどく感じてしまう項をしゃぶるのも忘れない。
――――会社の先輩と後輩、 という立場を超えて、まだ半年。
それでも彼女の弱いところや好きな責められ方を、如月は充分に熟知していた。
琴音
一方の琴音はもう陥落寸前だ。休む暇もなく与えられる愉悦に、舌足らずに喘ぐことしかできない。
呼吸も熱く乱れ始め、両股の間がうるむ感覚がより興奮を高めていく。
如月
琴音
如月
琴音
小刻みに喘ぐだけだった琴音が甲高い声を張り上げた。
耳裏の付け根をぺろっと舐められただけで、痺れるような強い刺激が琴音の全身を駆け巡る。
如月
琴音
如月
如月
如月
一時中断したままの画面を見せられても、既に琴音の興味はゲームから失せてしまっている。
そもそも暇潰しにプレイを始めただけで、物語の続きが気になるほどハマっているわけではない。
そう訴えれば如月は低く笑った。
その吐息が耳をくすぐり、琴音はまたもや身体を跳ねさせる。
如月
琴音
如月
宣告通り、如月はゲーム機の電源をあっさりと切った。
そのままラグの上に置く。
如月
琴音
如月
下手に逆らっても如月のSっ気に火をつけるだけ。
だから琴音は大人しく従う。
けれど嫌悪感は感じていない。
どんなにからかわれても、意地悪なことをされても、彼と肌を重ねるのはたまらなく心地がいいことを、琴音はもう知っていた。
コメント
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ああ、この2人の空気感、すごく好きです……。如月くんの甘え方と意地悪さのバランスが絶妙で、琴音先輩の表面上はクールだけど実はまんざらでもなさそうな感じがたまらない。特に「先輩のカラダは俺のだし」って台詞、ぞくっとしました。エアコン壊れてる暑さの中での密着って、逆に生々しくて官能的ですね。続きがすごく気になります。