渇愛と純情ー愛の鎖に繋がれてー

トキ子さんと悟志さんの中では

既にあすみさんは居ないものとして扱われていた

トキ子さんのかすみさんへのイビりはずっと続いていたが

トキ子さんが亡くなったことでそれもなくなり

これからは平和になると静（じん）さんは思っていた

トキ子さんの入院中

静さんが学校から家に帰ると

家の中が汚れていることがあった

毎日、休まずトキ子さんのお見舞いに行き

家に帰ってから家事をこなしていたかすみさんだったが

病院でも嫌み炸裂なトキ子さんの相手をするストレスもあり

家事に手が回らなくなることもあったようだ

悟志さんはそんなかすみさんに辛く当たり

そう言って駐車場にて車中泊をすることもあった

家事を優先させるためにお見舞いを休めば

必ずトキ子さんから悟志さんに連絡が行き

悟志さんに酷く責められる姿を目にしていた

静さんが心配して声をかけるも

静さんの前では決して辛い顔を見せなかった

トキ子さんの葬儀が終わると

かすみさんは脱け殻のようになってしまった

トキ子さんがまだ元気だった頃

トキ子さんは常にかすみさんを監視していて

徹底的に家事をするように指示していた

家の中はいつも綺麗に片付いていて

少しでも汚い箇所が見つかると叱られるため

いつも必死に掃除をするかすみさんの姿を静さんは見ていた

そんなトキ子さんの監視がなくなった直後

ピンと張っていた糸が切れたように

かすみさんは何もしなくなってしまった

仕事ばかりで家のことを何もしてこなかった悟志さんは

かすみさんの状況を察することもせず

頭ごなしに怒鳴りかすみさんを責めた

突然キレたかすみさんは

その怒りの矛先を悟志さんから

あすみさんに向けるようになってしまう

それまで必死に守っていたはずの娘を

なぜ攻撃の対象にしてしまったのか

まだまだ知りたいことはたくさんあったが

それは次回に持ち越しと言うことになってしまった

次にここを使わせてもらえるのは三日後

あっという間の一時間だったが

ずっと集中して聞いていたせいか

いつも以上に疲れを感じた

静さんは驚くほどにすらすらと話をしてくれた

それだけあすみさんのことを気にかけているのだろう

それでも静さんのしたことが完全に許されるわけではない

多少の情状酌量の余地はあるにせよ

静さんは自らの手であすみさんを傷つけたのだ

事務所に戻ると

既に面会を終えた芹沢さんが戻っていた

優真さんはまだ病院にいて所長が付き添っている

徐々に明らかになっていく井川家の内情

トキ子さんの恐るべき言動が明らかになる