私には実の父の記憶がない
私がまだ幼く
物心が着いたばかりの頃に亡くなったから
だから父のことは全部
たっくんが教えてくれた
実の母のことは
ほんの少し覚えているだけで
母について教えてくれる人もいなかった
美結
亮二
たっくんは亡くなった父の兄で
本当は私の伯父なのだけれど
私のことを引き取って大切に育ててくれたから
私はずっとたっくんのことを父と思って生きてきた
そしてたっくんはいつも
父のことを私に話してくれた
父は幼い頃から優秀で
スポーツも得意で
とても端正な顔をしていた
たっくんとは全然似ていないらしく
いつも回りの人から比べられていた
名門と言われていた偏差値の高い高校へ進学し
そのまま偏差値の高い大学へ進んだ父は
そこで母と出会ったらしい
大学を卒業してから三年後
父と母は結婚した
たくさんの友人や知人に祝福され
結婚式も盛大に執り行われた
でもその式にたっくんは参列しなかった
それにはちゃんとした理由があるのだけれど
母はそれが少し気に入らなかったらしく
たっくんのことをあまりよく思っていなかったようだ
それから半年ほど経った頃に母は妊娠
父は仕事の忙しさと母のケアもあり
実家には寄り付かなくなった
次に実家に連絡が入ったのは
私が生まれた直後だった
美結と言う名前をつけたのは父で
美しく縁を結ぶ人になって欲しい
そんな願いが込められていた
父は家族を養うため一生懸命に働いて
最短記録で係長に就任し
これからと言う時に
交通事故で亡くなった
横断歩道を横断していたところに
信号無視のトラックが……
母は泣くのを通り越して発狂し
なぜか父に対して怒りをぶつけた
優香里
父に似ていた私のことも罵倒し罵り
食事を抜くなどの行為を頻繁に行うようになった
今で言うネグレクトと言うものだった
優香里
優香里
優香里
精神的におかしくなっていたのか
日常的に毒を吐くようになっていた
そして私のことを
優香里
優香里
優香里
度重なるネグレクトによって酷く痩せ細り
起き上がるのも困難になった私に
言葉の毒を吐き続けた
たっくんが駆けつけた時にはもう
私は危険な状態だった
優香里の伯父
優香里
優香里の伯父
優香里
優香里
優香里
それはもう……
壮絶な修羅場だった
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