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デビルズパレス
地下の執事の部屋
フルーレ
フルーレ
引き続きラトに付き添っているミヤジ先生を残して
俺はラトの見舞いを終えた
主
フルーレ
主様は手持ち無沙汰のようにドアの近くに座っていた
フルーレ
主
主
フルーレ
フルーレ
頬がじわじわと熱くなる
それを誤魔化すために
俺はしどろもどろの頭で必死に言葉を探した
フルーレ
フルーレ
主
主
俯いているために表情は読み取れず
その淡泊な言葉からはなんの感情も感じ取れなかった
主
ふいに投げられた質問に驚いてそちらを見ると
作業台にパーティー用の紳士服が置かれていた
フルーレ
主様は興味のないような小さな相槌を打つのみだった
フルーレ
主
フルーレ
気まずい沈黙を破るように俺は言葉を紡いだ
主
フルーレ
フルーレ
ズキッと体のどこかが痛んだ
気がした
主
主様が小さく笑ったことに
うつむいていた俺は気がつかなかった
主
そう言って主様は俺の手を取り
そのまま自分の頬へあてた
フルーレ
手のひらから伝わる少し低めの体温
主様のその小さなぬくもりに
無自覚に指先が震える
主
主
俺の名前を呼びながら
その瞳にまっすぐ俺を移しているとわかって
フルーレ
フルーレ
なにか分からないものが溢れてる
心?感情?なんの…感情?
激しく激しく全身を巡る
なんだ…これ……
指先の震えが大きくなる
ダメだ
ダメだこれは
これ以上は
ダメだダメだダメだ
フルーレ
フルーレ
フルーレ
主様の頬から話そうとした自分の手は
不意に強い力で留められた
主
低く響くその声を視線でたどれば
まっすぐにこちらを貫く瞳
フルーレ
このお方は分かっている
全部全部分かっている
主
主
フルーレ
主様はそう言いながら
また自分の頬に俺の手を触れさせた
フルーレ
指先がまた無意識に小さなぬくもりを 拾い上げる
フルーレ
フルーレ
ドクドクと
脈打つこの音はどちらのものなのか
主
主
主
口の端を釣りあげて
そう笑う主様の顔が
また
なにかを覆い隠した
フルーレ
フルーレ
大切な人に
傷をつけるなん……
主
フルーレ
俺の叫びを遮ったのは
つぶやきのように小さな低い声だった
主
主
ラト
フルーレ
耳鳴りが頭の中をつんざくように
主様の冷ややかな声に
静かに貫かれる
主
真っ白になった頭の中でも
その溜め息はひどく大きく響いた
主
主
フルーレ
カラカラになった喉から絞り出した声は
腹が立つほど情けなく
フルーレ
主
まっすぐにこちらを貫いていた瞳は
興味を失ったように簡単に逸らされ
主
主
フルーレ
明確な線が
目の前にしっかりと引かれた
フルーレ
ドクドク、ドクドク
脈打つ音が耳を覆う
フルーレ
目の前に
目の前の暗い瞳の中に
フルーレ
見覚えのある赤い髪が揺れる
フルーレ
フルーレ
ガリッ!!!
主
勢い任せに皮膚をえぐったのは一瞬で
そのあとに遅れて感じたのは
痛みに少し歪んだ瞳と
青白い頬を走る線をなぞるように垂れる赤
フルーレ
そして
絞り出された相変わらずの情けない声と
主
主
聞いたことのないほどの
主様の楽しそうな笑い声
フルーレ
フルーレ
フルーレ
フルーレ
混乱する頭とは反対に
震える指先には
勢いまかせに爪を突き立てた感触が
生々しくこびりついている
フルーレ
フルーレ
フルーレ
フルーレ
主
タガが外れたように
ひたすらに謝罪の言葉を並べ続ける口は
主
溶けるような優しい声とともに
大きな手で塞がれた
フルーレ
ビクリと小さく体が震える
主
主
フルーレ
俺の口元に当てていた手を
今度は震える自分の手を覆うように 重ねられる
フルーレ
フルーレ
自分よりも大きな彼の手は
ひどく優しい温もりを持っていて
先ほど傷をつけてしまった罪悪感を ゆっくりと溶かすようだった
フルーレ
理解が追いつかないものが込み上げて
溢れて
涙と嗚咽の隙間から
やっと
その言葉を絞り出した
主
主
主様は小さくなにかを言うと
空いている手で
俺の目元を優しくなぞった
フルーレ
それでも
止まらない涙を必死に我慢しようとした
そのとき
フルーレ
主様が包み込みように俺を抱きしめた
主
フルーレ
柔らかい髪の感触のくすぐったさの
隙間
耳元で
囁くような
優しい優しい声がした
フルーレ
ふっと
すぐ近くで
息を吐くように笑ったのが分かった
主
その言葉を紡ぐ様はまるで
幼い子どものような
無邪気さをはらんでいて
なんだかとても
心底楽しそうな声だった