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2,020
冷たい雨が降っていた
任務帰り
長引いた仕事のせいで僅かに疲労はあるが、それでも足取りは一定だった。
濡れたアスファルト。 雨水の滴る配管。 遠くで響くサイレン。
静かな夜
らん
ふと、らんの足が止まる
血の匂い。 別に珍しくもない。
この世界にいる以上、嫌でも慣れる匂いだった。
けれど、今日は妙に濃かった
らんは視線だけを横に向ける
細い路地の奥 暗がりの中に、人影が見えた
壁にもたれ掛かるように、誰かが座り込んでいる
雨が、黒く濡れた地面をたたいていた
近づくにつれ、血の量が目に入る
らん
思わず息が漏れた
黒いパーカーを着た少女だった
肩 脇腹 脚
複数の銃創
服はほとんど赤く染まり、地面には血溜まりが広がっている
普通なら、とっくに死んでいる
LANは少女の前で立ち止まった。
少女は俯いたまま動かない。
生きているのかすら怪しい、
らん
声をかける
反応はない
だが数秒後、少女の肩がわずかに揺れた
生きてはいるらしい
長い髪の隙間から、ゆっくり瞳が覗く。 その目は酷く虚ろだった。 焦点も合いきっていない。 けれど。
一瞬だけLANを見たその視線に、鋭い警戒が混ざる。
澪
少女の唇が僅かに動く。 だが声にならない。 呼吸すら苦しそうだった。
らんはしゃがみ込み、傷を見る
かなり深い。 出血量も異常。 今立っているのが奇跡みたいな状態だった。
らん
問いかけても返事はない。 少女はぼんやりとLANを見ているだけだった。 意識が飛びかけている。 それでも完全には気を失わない。 無理やり耐えているのがわかった。
らんは小さく息を吐く
面倒事の匂いしかしない。 ただの一般人じゃないことも明らかだった。 普通の人間なら、こんな状態でここまで意識を保てない。 しかも——泣きもしない。
苦痛に顔を歪めることすらなく、ただ静かに呼吸を繰り返している。 異様だった。
らん
聞く
少女は反応しない。 数秒遅れて、壁へ手をつこうとした。 だが腕に力が入らない。 そのまま体が傾く。 LANは咄嗟に少女を支えた。 細い。 血で濡れた体は、驚くほど冷たかった。 触れられた瞬間、少女の肩がぴくりと震える。 反射的に逃げようとしたのかもしれない。 だが、もう抵抗する力すら残っていなかった。
らん
らんは少女を見下ろす
虚ろな目。 浅い呼吸。 今にも意識を落としそうなのに、それでも必死に目を閉じまいとしていた。 何かに追われるみたいに。
らん
小さく呟き、らんはしゃがみ込む
そのまま少女の体を抱え上げた。 軽い。 こんな状態になるまで、一人でいたのか。
澪
腕の中で、少女の指先が僅かに動く。 拒絶しようとしたのかもしれない。 けれど声は出ない。 力も入らない。 LANは気にせず歩き出した。
少女は薄く目を開けたまま、ぼんやりとLANを見ている。 焦点はほとんど合っていない。 呼吸も浅い。 それでも気絶だけは拒んでいるみたいだった。 LANはそんな少女を一瞥すると、路地裏の出口へ向かって歩き出す。
雨が静かに降り続いていた。 数歩進み、 次の瞬間。
らんは地面を強く蹴った
澪
少女の瞳が僅かに揺れる。 朦朧とした意識の中でも、自分が何をされているのか理解はできていた。 ありえない身体能力。 普通の人間じゃない。 けれど声は出ない。 指先が僅かに動くだけ。 LANはそんなこと気にも留めず、雨の降る街を駆け抜けていく。 ビルからビルへ。 細い柵を踏み、 空中で体勢を変え、 片腕で少女を抱えたまま、迷いなく進む。 息一つ乱れていなかった
らん
低い声が落ちる。 それが少女に向けた言葉だったのか、自分への確認だったのかは分からない。 少女の視界は徐々に霞んでいく。 暗い空。 冷たい雨。 抱えられる感覚。 遠くで聞こえる風の音。
やがてLANは、高層ビルの屋上へ静かに着地した。
無機質な灰色の建物。 屋上の奥には、重厚な鉄扉がある。 LANは端末を取り出し、ロックを解除した。 電子音。 ゆっくり開く扉。 暖かな光が漏れ出す。 LANはそのまま迷いなく中へ入っていった。
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