オレたちが戦闘体制に入ったのを確認したAtは、
倒す人間に順番をつけるように俺たち5人に目を配る
At
うーん、やっぱり回復されると面倒臭いし王子からかなぁ

ぶつぶつとつぶやいて何かを言ったAtは攻撃対象を
Tgちゃんにロックオンして剣を振り始める
Kty
危ないっ!!

Atの攻撃にいち早く反応したKtyちが、
流石王宮の騎士と言いたくなるような反射神経でAtの剣を自分の剣で
キンッと受け止めた
At
まあ、そう簡単に倒せるわけないよね

Ktyと会話をしているAtに、
後ろからPrーのすけが不意打ちを仕掛けようと試みる
At
後ろにいる人、緑の子かな

Pr
!?

AtはKtyち達に視線を向けたまま背後にPrーのすけがいることを
いとも容易く当てると、何らかの呪文を唱えて自分の背中にバリアを展開した
振り上げられたPrーのすけの剣先がそのバリアに当たるが、
それはびくともしない
Mz
とりあえず魔法の耐性下げるか

Mzちが淡々とそう告げながらAtに向けて唱えたのは、
オレが聞いたことのないような呪文だった
その魔法にはバリアなど関係ないのか、
Atにも問題なくかかり、それをかけられたAtは何かに驚いて目を見開く
At
!?

At
お前、何でこの魔法が使える!?

Mz
さあな

そう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべるMzちの表情は
先ほどオレたちにまとめてかかってこい、と言った時のAtとそっくりで、
やはり人というのは自分のそばにいる人をお手本に育つんだなと
どうでもいいことを考えてしまった
Ak
(ダメダメ、集中っ!!)

At
だって、この魔法はあの方の、、、

Mz
おいAt、そんなに油断していると背中を取られるぞ?w

At
!!

Mzちがその魔法を使ったことに相当混乱していたようで、
Atはすっかり背中に意識を向けるのを忘れており、
先ほどまで隙なんて微塵もなかった彼に一瞬の隙が見えた
Ak
(今だっ!!)

その一瞬の隙を逃さないように、とオレは自分の剣を振り上げ、
できる限りの力を込めてAtに自分の攻撃を叩き込む
At
っ、!!

オレの攻撃を身に受けた彼は、少しよろけたがすぐに持ち直して、
宙に浮く魔法を唱えて大広間の天井近くまで浮かび上がった
At
へぇ、思ったより強いじゃん、
前代の勇者と同程度だと思って油断してたな

Ak
(え、力量を見誤ってた、?)

Kty
(こんなに強いのに、そんなことある!?)

Mz
……なるほど

Tg
どうしたの、Mzたん?

Mz
十中八九、あいつは完全なる独学でここまで戦闘力を叩き上げた

Mz
だから相手の力量を見極めることに慣れてなくて、
相手のことは自分と比べて弱いか強いかしかわからないんだ

Pr
そういうことなんか、、、

At
ちょっとそこ、何コソコソ話してんの!?

Atは親に構ってもらえなくて拗ねている子供のように
不満げな声を上げてオレたちに話しかける
Ak
(なんていうか、Atってたまに幼いとこあるんだよねぇ、、、)

Pr
(見た目の割には言動が子供っぽい、、、)

Kty
(すごく強いのに、なんかなあ、、、)

Tg
(普段はそんなことないけど、
ときどき自分より小さい子を見ている気分になる、、、)

Mz
(あいつ、中身ほとんど成長してないな)

Mz
(まあ、ずっと1人でいたなら
成長しないとこがあっても仕方ないのか)

At
なんで黙ってんのさっ

Atは先ほどと同じような不満げな声を上げながら、
今度は魔法でオレたちに攻撃をし始めた
Ak
わ、これどーすんの!?

Kty
剣を使う僕たちは避けるしかないんじゃないかな、、、

Mz
こうなったらなんとかしてあいつに魔法を打ちこむしかなさそうだな

Tg
Mzたんが魔法を打つまで、なんとかおれたちは耐えないと、、、

Pr
Atに効くかはわからんけど、最近覚えた新しい術使ってみるか、、、

PrーのすけがTgちゃんたちを光の球に閉じ込めた時のように
パチンと指を鳴らした数秒後、Atは変わらず魔法を打ちながら、
少し面倒くさそうに言った
At
……あー、これもしかして俺の視界ちょっと遅れてる?

At
まあ、俺は気配で大体誰がどこにいるかわかるから関係ないけど

Pr
効きはしたけど効果はなさそうやな、、、

Mz
いや、オレとしてはその術結構ありがたいよ

Mz
あいつがわかるのは人間の気配だけだからな

Ak
え?それはどういう、、、

Mzちがぶつぶつと呪文を唱えて大きな闇の玉を生み出すと、
Atは心底驚いたように目を見開く
At
嘘だろ、闇魔法、、、!?

Mz
こういうことだよ

オレの質問にMzちはそう答えると、
明らかに不自然な軌道で魔法を放った
Ak
うぇえええっ、何あれっ!?

Pr
闇の玉の動きキモすぎるやろ、、、

Tg
うわ、コントロール能力すご、、、

Kty
Mzち、流石だなぁ、、、

At
(あの方レベルのコントロール能力、!!)

Atは闇の玉がどう見てもおかしい動きをしていることに気がつくと、
かなり混乱した様子を見せながらそれを避けようとするが、
先ほどのPrーのすけの術で視界が遅れているのか避けられずに魔法を喰らった
At
なんでこいつ、あの方しか使えない魔法を、!!

戦闘開始時にMzちがかけた魔法の耐性を下げる呪文の影響も相まって、
彼はかなり大きなダメージを受け、Mzちの方を見てそう叫ぶ
Ak
(結構体力、削れたかな、?)

Tg
Mzたん、そろそろ大丈夫なんじゃない、?

Mz
うーん、話聞いてくれるといいんだけど、、、

Mz
おい、At

Mzちが彼の名前を呼んでAtに呼びかけるが、
彼はその声を聞くと、ああそうだ、とつぶやいて狂ったように告げた
At
そうだ、俺はMzのために、、、

At
Mzの何よりもの夢だった、世界征服を叶えるために、、、

Mz
!!

At
こんなところで、こんなところで

床に座り込んでいたAtはかなりダメージを食らったであろう自身の体を
無理やり立ち上がらせて、こちらを睨みつけて叫んだ
At
こんなところで、倒れてたまるかっ!!!!

Ak
!?

途端Atの雰囲気が先ほどまでとは大きく変わり、
オレたちにむき出しの敵意を向けて鋭い眼光でこちらを見ている
Pr
やばそうやな、、、

At
もういいや、本当は疲れるの嫌だけど本気で戦ってやる

At
ここで倒れたら、あの方の何よりもの夢が叶わない

At
それだけは絶対に嫌だ、
俺はあの方の代わりに世界を手に入れるんだ

そこまで言ったAtは、その色違いの瞳からボロボロと大粒の涙をこぼしながら
オレたちに向かって泣き叫ぶ
At
俺のせいで夢を捨てざるを得なくなった
誰よりも優しい、大好きなMzのために!!!!

Atがそう叫ぶと、彼の周りに大量の魔法で生み出した闇の玉が現れて、
オレたちを無差別に襲ってくる
大量の闇の玉を全て同時に自由自在に操っているAtは、
狂気じみた笑い声を上げながら号泣しており、
その姿を見たものは1人残らず彼を異常だと判断するに違いないだろう
Mz
そっか、お前はオレの何よりの夢を勘違いしたまま
ここまで来たんだな

Mz
こんな心を壊すところまで追い詰めて、ごめん

その姿を見たMzちはそうボソリとつぶやくと、
闇の玉を際限なく生み出していくAtに向かって走り出した
Ak
(流石にそれはまずいんじゃ!?)

Kty
Mzち!?危ないよっ!!

Tg
Mzたん、今行くのは絶対に危険だよっ!!

Mz
止めないでくれ!!

Mzちはその危険な行動に対して静止をかけるKtyちとTgちゃんを無視して、
精神が壊れかけている最愛の彼の元へ一直線に走っていく
At
は、なんでこいつこの状況で間合いを詰めてっ、!?

Mz
At!!!!

MzちはAtの目の前に到着すると、
彼の名前を呼びながらその体を抱きしめ、叫んだ
Mz
もうやめろ!!2回目の命令だ!!

At
!!

Mzちのその言葉を聞いてAtは瞳を大きく見開き、
攻撃をやめてその場にへたり込んだ
At
嘘、だろ

At
なんでお前、2回目って知って、、、

Atの疑問に少し笑ったMzちは彼の体を抱きしめて、
大切な人形を丁寧に手入れする持ち主のようにその体を優しく撫でる
Mz
At、ごめんな

Mz
オレの最後の命令が、ここまでお前を追い詰めるなんて知らなかった

At
!!

At
え、え、?

Mz
今までよく1人で頑張ったな、オレのために戦ってくれてありがとう

At
嘘でしょ、Mzなの、?

MzちはAtの顔を見て優しく目を細めると、こくりと頷いた
At
ほんと、?

Mz
本当だよ、信じられないなら何か聞いてもいいよ

At
それじゃあ、俺がMzのことをご主人様って呼んじゃいけない理由、、、

Mz
オレとお前は友達だから

はっきりとしたMzちの返事を聞いたAtは驚いた様子を見せたが、
しばらくすると先ほどまでの無表情な青年と同一人物とは思えないほどの
嬉しそうな表情を浮かべて、続けた
At
本当にMzなんだ、帰って来てくれたんだ、、、

Mz
あのさ、At

At
どうしたの、?

Mz
オレの夢、何か知ってる?

At
知らないわけないだろ、世界征服

Atの回答を聞いてやっぱりな、とつぶやいたMzちは、
誰よりも大切な愛しいものを見つめるような優しい目をしながら
Atに正解発表をする
Mz
昔の夢はそれだよ、でももういいんだ

At
え、?

Mz
Atはさ、世界征服を邪魔する勇者が城に来るまでの間に
暇つぶしでオレがお前のことを作ったのを知ってるだろ、?

At
うん、Mzがそう言ってたの覚えてるけど、、、

Mz
本当に最初はただの暇つぶしのつもりで、
当時は何よりも世界征服が大事だったし、
あの頃のオレならAtのために夢を捨てるなんてことは絶対にしなかった

Mz
でも、途中でお前のことがどうしようもなく大切になっちゃったんだ

At
だからって、夢を捨てるのは変だよ

Mz
違うんだよ

At
どういうこと?

Mz
Atのために世界を捨てたあの時、オレの中では世界征服なんて
もうどうでも良くなってて、勇者が来たら世界を全部返して
Atと2人でゆっくりどこか田舎で生きていこうかな、なんて思ってた

At
!!

Mz
自分の思い通りの世界よりも
Atとの時間の方がずっとずっと欲しかったし

Mz
命の危険が伴う世界征服よりも
Atと一緒の気ままなのんびりライフの方がいいな、って思うくらい
お前のこと大好きだったんだ

Mz
だから、あのクズ勇者に脅された時は迷う間もなくお前を選んだ

At
……。

Mz
だけど、ちょっとだけそれを後悔してるんだ

At
……そうなの、?

Mz
うん

Mz
だってさ、オレがあの時お前にあんな命令を残して
この世から去ったせいで、お前は何百年も1人で生きて来たんだろ?

Mz
あそこまで、精神を追い詰められてしまうほどに

MzちはぎゅっとAtを抱きしめて、
今まで一回も聞いたことがないような優しい声で告げた
Mz
ここまで追い詰めてごめんな

Mz
オレがお前に大切なことを伝えなかったせいで、
やりたくもない世界征服をさせてごめん

Mz
オレのために、何百年も1人で戦わせてごめん

Mz
もういいよ、お前はよく頑張った

Mz
今のオレには思い通りの世界なんて少しもいらない、
その代わりAtと一緒の時間がいっぱい欲しい

At
Mzっ、

At
俺も、Mzのこと何よりも大事だよ

At
Mzがいなくなったあの日から、
ずっとあのまま俺の時間が止まったように感じてた

At
俺がもっと強ければ、
奇襲をかけてきた勇者に勝てたかもしれないとか

At
俺がいなければ、Mzは世界を手に入れられたのにとか

At
自分に対する後悔ばっかり押し寄せてきて、
ずっとずっと苦しかった

At
弱くてごめん、Mzの気持ちわかんなくてごめん

Mz
ううん、そこは気にしないで

Mz
オレはお前が隣で笑ってるだけで幸せだったし、今もそうだから

At
Mz、俺もう二度と1人で生きたくないから

At
今度は、俺のこと置いていかないでよ

Mz
うん、オレがこの世を去るときはお前も一緒に壊すよ

At
そうして欲しい、お願い

AtはMzちにそういうと、すっと立ち上がってオレたちに向き直った
At
……本当にごめん、みんなのこといっぱい傷つけたよね

At
こんな謝罪で許されるとは思ってないし、
それ相応の罰はちゃんと受けるつもりだよ

At
その上でお願いとか何様のつもり、ってなると思うけど、
まずは俺にごめんっていうのを許してほしい

Ak
大丈夫、とはすぐには言えないけど、、、

Ak
とりあえず、Atが無事に元通りになって良かった!!

At
!!

Pr
ほんまやなー、お前が泣き出した時には
もうダメかもしれんって思ったわ

Kty
Mzちの愛ゆえだね、2人が和解できたみたいで何より!!

Tg
父上がどう対応するかはわかんないけど、
できるだけ罪は軽くできるようにおれからも言っておくよ!!

At
え、なにこいつら心が綺麗すぎる、、、

Mz
あの勇者とは大違いだよな、オレも最初ビビったわw

AtはMzちの言葉を聞いて先ほどとは違う意味を持っていそうな
涙を浮かべると、それを見覚えのあるハンカチで拭いながら言った
At
本当にありがとう、、、

Atは少し鼻声で感謝の言葉を告げると、オレの元にひざまずき、
降伏の言葉を口にした
At
現代の魔王Atの名において、
私が手にした領土あるいは人民を全て以前の持ち主に返却し、
勇者Akに投降することをここに宣言いたします。

Ak
その宣言、了承いたしましたっ!!

Tg
よし、ちゃんと録音したよ!!

Kty
それじゃあ国に帰ろっか!!

Pr
この後どうなるかは、国王陛下次第やな、、、

Mz
At、お前も一緒に来いよ

At
わかった、ついていくね

Tg
一応体裁のためにAtくんの魔法封じていい?

At
大丈夫だよ、よろしく

こうしてオレたちは、Atに関することを国王陛下に報告するために
本人も連れてTgちゃんの国に向けて魔王城を後にした