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僕はその場に立ち尽くしていた
新城賢太郎を追い詰めるべく 一つの仮説を示して見せた
その仮説のなかの証拠として出てきた マインドコントロールに関する資料
新城賢太郎はこれに強く反応し 意味深長な言葉を呟いて、かなり取り乱した様子で逃げてしまった
鎌をかける作戦は 思いのほか効いたのだ
犯人だと断定するのを止すとしても あの男が事件に関与しているのは確実だ
あの様子を見てしまっては 否定はできなかった
だから とりあえずは考えている通りだとして…
だとして
加賀春樹
新城賢太郎を追いかけるか?
加賀春樹
加賀春樹
この部屋をもう一度 よく調べてみる必要があるだろうか?
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
僕は部屋のなかを見回した
豪奢な照明の下に広がる 例の犯行現場
奥には侘しく残ったツインベッドに 化粧台が覗いている
部屋の入り口から見て左方には 簡単な据え付けの本棚や 細かな日用品や置物が載った棚まである
右側には テレビや小さめの綺麗なテーブルがある
そして クローゼットもそこにあり……
クローゼット?
"入ることが不可能なら、初めから居るしかないということになりましょう?"
この言葉は、新城邸に来た初日 佐久間に会った時に聞いた覚えがある
確かあの男は ずっとそこで見ていたと……
僕は急いでクローゼットに走り寄った
まさか
加賀春樹
加賀春樹
……
……応答はない
加賀春樹
クローゼットに手を掛けた
少しずつ開いていく
当然ながら、中は真っ暗だった
室内の明かりによって 徐々に暗黒は消えていった
そして
そこに待ち受けていたもの
それは
加賀春樹
加賀春樹
何の変哲もない 普通の洋服がたくさんあった
丈の長い婦人服が ハンガーに掛けられているだけだ
上方には板が付けられており そこには帽子や夜会服まであった
恐らく 若い頃に新城貴恵が着ていたものだろう
捨てに捨てきれず こんな別荘にまで持ち込んで来たのか
そんな想像をすると 微笑ましい反面、背後にある光景とのギャップに心が痛めつけられた
僕は今更ながら 目を瞑って黙祷をした
一生還ることはない魂に向けて
加賀春樹
加賀春樹
扉を閉める
その時
ひらり
視線の端に何かが動いた
加賀春樹
加賀春樹
僕は閉めかけた扉をもう一度開いた
見ると、床に洋服の一つが落ちてしまっていた
ハンガーに中途半端な掛け方をしていて 風圧で落ちてしまったのだろうか
そのままにするのも居た堪れず 屈んで洋服を手に取ってみる
気高い黒の上等なワンピースだった
優しい香りが鼻を通り過ぎて行った
僕はそれを戻そうとした
戻そうとしたのだが
視線は自然に前へと向いた
部屋の光によって クローゼットの内部はよく見えた
しかし 屈み込まなければ気付かないほど
加賀春樹
小さな
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
20cm四方の穴が空いていた
……
新城聡太郎の部屋
やはりデスク越しの椅子には シーツを掛けられた遺体が座っている
部屋の奥に鎮座する屍を無視し 手前にある大きなテレビに注目する
この辺りだ
パッと見ただけでは 何も見当たらない
でも確かに、位置関係から考えると この裏側が例の穴に通じているはずだ
と、なると テレビスタンドの中だというのか
確かに大きめの開き口があるが 人が通るとは想像できない
奇想天外の発想だ
「加賀様」
隣にいる男が口を開く
新居宗介
加賀春樹
加賀春樹
新居宗介
僕は大きなテレビまで歩み寄り それを支えるスタンドの扉を見る
木目調のモダンな造りだ
小さな取っ手が付けられていて 指にフィットするように少し窪みがある
それを掴むようにして 一気に開いてみせる
中の様子は……
新居宗介
新居宗介
中は何も入っておらず ただ穴がぽっかりと見えた
少しだけ違和感を抱きつつも 新居に案内する
加賀春樹
加賀春樹
新居宗介
新居は困惑しながらも 屈んだ状態で恐る恐る穴を見る
新居宗介
加賀春樹
加賀春樹
新居宗介
新居宗介
加賀春樹
加賀春樹
新居宗介
新居宗介
新居宗介
新居宗介
密室を破る隠された穴
僕はこれを発見してすぐに 隣室の新城聡太郎の部屋へと向かった
部屋へと入ろうとした矢先に 新居宗介から声をかけられたのだ
「加賀様。聡太郎さんのお部屋に何か御用なのですか?」
僕は答える
「ええ、用があります。とても重大な証拠を発見したかもしれませんから」
新居は興味深そうに反応した
「重大な証拠……それは大変興味深いですね。私は先程まで、秋穂様をずっと宥めていたのでございますが、すっかり鬱いでおられまして、聞く耳を持たれませんでした」
視線が扉へと向く
「そこで諦めて廊下へと出てきたのでございますが……その証拠とはいったい何でしょう?」
こうして僕は一連の説明を済ませて 新居を引き連れて確かめたのだ
僕は意見を求めてみた
加賀春樹
新居宗介
加賀春樹
新居宗介
加賀春樹
「それはどうでしょうね」
新居は穴を凝視しながら 考えているようだ
そして唐突に穴に近付くと 屈み込んでくぐり抜けようと試みた
加賀春樹
新居宗介
新居宗介
新居は両手を縦に伸ばして 身体の幅を最小限にして這っていく
跳ねるように穴へと向かう姿は 陸に上がった魚のようでもあった
滑稽に見えるが 実験は結果をもたらしてくれた
両手と両腕は綺麗に入りこみ 順調に頭も入って行った
しかし、やはり 肩がつっかえて前に進めなくなる
無理矢理に動かしても どうにもならないようだった
「これ以上は、無理そうですね」
新居は観念して戻ってきた
新居宗介
加賀春樹
新居宗介
加賀春樹
新居宗介
新居宗介
加賀春樹
新城賢太郎
あの男は いま最も疑わしい容疑者だ
僕がこれを通り抜けられなければ 少しは容疑が薄れる
しかし 秋穂にマインドコントロールがされていないという説を取るならの話だ
それでも可能性は捨てきれない 実験に参加するべきである
僕は新居に倣って 陸に打ち上げられた魚になった
だが、またも肩がつっかえる
進もうとしても どうしようもなかった
僕は諦めて戻る
加賀春樹
新居宗介
新居宗介
加賀春樹
新居宗介
加賀春樹
新居宗介
加賀春樹
新居宗介
加賀春樹
加賀春樹
新居宗介
新居宗介
加賀春樹
加賀春樹
新居宗介
僕達は少しの間 事件について話し合った
そこで新たな事実が 明らかとなった
昨日、新城貴恵に渡した鍵……
新城聡太郎が財宝を収めているという テーブルの引き出しの鍵である
この鍵が "貴恵のポケットから消えていた"のだという
あの話を知っていたのは 僕と新居と殺された貴恵自身だけのはずである
その鍵が無くなっている
一体、誰が……?
謎はまた一つ、増えてしまった