くねくね
年に一度のお盆にしか訪れる事のない祖母の家に着いた僕は、 早速大はしゃぎで兄と外に遊びに行った。 僕は、爽やかな風を浴びながら、兄と田んぼの周りを駆け回った。 そして、日が登りきり、真昼に差し掛かった頃、ピタリと風が止んだ。 と思ったら、気持ち悪いぐらいの生緩い風が吹いてきた。 僕は、
僕
さっきの爽快感を奪われたことで少し機嫌悪そうに言い放った。すると兄はさっきから別な方向を見ている。
その方向には案山子(かかし)がある。
僕
と兄に聞くと、兄は
兄
と 言ってますます目を凝らして見ている。
僕も気になり、田んぼの向こうをジーッと見た。
すると、確かに見える。
何だ…"あれ"は。
遠くからだからよく分からないが、人ぐらいの大きさの白い物体が、くねくねと動いている。 しかも周りには田んぼがあるだけ。 近くに人がいるわけでもない。 僕は一瞬奇妙に感じたが、ひとまずこう解釈した。
僕
僕
兄は、僕のズバリ的確な解釈に納得した表情だったが、その表情は一瞬で消えた。 風がピタリと止んだのだ。 しかし例の白い物体は相変わらずくねくねと動いている。
兄
と驚いた口調で言い、 気になってしょうがなかったのか、兄は家に戻り、双眼鏡を持って再び現場にきた。 兄は、少々ワクワクした様子で、
兄
と言い、はりきって双眼鏡を覗いた。
すると、急に兄の顔に変化が生じた。
みるみる真っ青になっていき、冷や汗をだくだく流して、ついには持ってる双眼鏡を落とした。
僕は、兄の変貌ぶりを恐れながらも、兄聞いてみた。
僕
兄はゆっくり答えた。
兄
すでに兄の声では無かった。
兄はそのままヒタヒタと家に戻って行った。
僕は、すぐさま兄を真っ青にしたあの白い物体を見てやろうと、落ちてる双眼鏡を取ろうとしたが、兄の言葉を聞いたせいか、見る勇気が無い。 しかし気になる。
少し奇妙だが、それ以上の恐怖感は起こらない。 しかし、兄は…。 よし、見るしかない。 どんな物が兄に恐怖を与えたのか、自分の目で確かめてやる! 僕は、落ちてる双眼鏡を取って覗こうとした。
その時、祖父がすごいあせった様子でこっちに走ってきた。
僕
と尋ねる前に、 すごい勢いで祖父が、
祖父
と 迫ってきた。
僕
と少しキョドった感じで答えたら、祖父は
祖父
と言い、安心した様子でその場に泣き崩れた。 僕は、わけの分からないまま、家に戻された。
帰ると、みんな泣いている
僕のことで?いや、
違う
よく見ると、兄だけ狂ったように笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと乱舞している。
僕は、その兄の姿に、あの白い物体よりもすごい恐怖感を覚えた。 そして家に帰る日、祖母がこう言った。
祖母
僕はその言葉を聞き、大声で泣き叫んだ。 以前の兄の姿は、もう、無い。
また来年実家に行った時に会ったとしても、それはもう兄ではない。 何でこんな事に…ついこの前まで仲良く遊んでたのに、何で…。 僕は、必死に涙を拭い、車に乗って、実家を離れた。
祖父たちが手を振ってる中で、変わり果てた兄が、一瞬、僕に手を振ったように見えた。
僕は、遠ざかってゆく中、兄の表情を見ようと、双眼鏡で覗いたら、兄は、確かに泣いていた。
表情は笑っていたが、今まで兄が一度も見せなかったような、最初で最後の悲しい笑顔だった。
そして、すぐ曲がり角を曲がったときにもう兄の姿は見えなくなったが、 僕は涙を流しながらずっと双眼鏡を覗き続けた。
僕
そう思って、兄の元の姿を懐かしみながら、緑が一面に広がる田んぼを見晴らしていた。 そして、兄との思い出を回想しながら、ただ双眼鏡を覗いていた。
…その時だった。 見てはいけないと分かっている物を、間近で見てしまったのだ。
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最後ゾクっとした…