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泰
泰
泰
璃々子の母親に会っても 話がうまく転がることはない
むしろ 悪い方に悪い方に 転落していくだけだろう
璃々子さえもいなくなったいま 誰に相談すればいい?
その答えを探すため あるいは一時の安らぎを得るため
市街地を歩きつづけた
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大声をはりあげる 客寄せの小太りの男
この男もあの動画を 見たのかもしれない
そう考えると胸焼けがして 同時に罪悪感がめまいをもたらす
不意にホイッスルの 甲高い音が鳴った
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あの警官だって例外ではないだろう
勤務を終え家に帰って 卑猥な動画を漁るかもしれない
それが璃々子だと思うと
はらわたが煮えくり返るような 同時に自分の存在を消したいような
不快感が身体に広がる
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なんの話が分からないが 璃々子のことだったらどうしよう
おれは
このままどこにも行けずに
自責に耐えながら一生を 過ごすのだろうか
美佐子
美佐子
美佐子
美佐子
美佐子
美佐子
美佐子
美佐子
美佐子
美佐子
怖くて出ることができなかった 璃々子のお母さんからの電話
留守番電話に入っていたメッセージ
それを聞くとおれは まるで追い詰められた容疑者に なった気分だ
陰鬱なため息をついた
もしこれが明るみに出たら
彼女との性行為を ネットにばらまいた罪人 という汚名を着せられ
一生を過ごさなくてはならない
その運命からは逃れられないのだ
こうして罪を背負って 後ろめたい残りの人生をあじわう
たったこれだけのことで
あんなことしなければ こうなることはなかった
泰
また電話が来た
番号非通知の着信
しばらくそのままにしておくと 留守番電話に繋がる
スマホを耳に当てる
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泰
最低だ 最低の業者だ
おれがやってしまったことも 最低なのだろう
でもそれよりも それを金稼ぎの道具に使うなんて
なんとかしておれだけでも 助からないだろうか?
おそらくどん底まで落ちるだろう けれど
まだその心づもりもできていない
どうすれば…
そう考えを巡らせていると ふたたび電話が鳴った
誰だ
今度は非通知じゃないが 知らない番号だ
泰
泰
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泰
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泰
泰
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泰
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泰
泰
そこで電話は切れた
手がかり?
そんなものがあるわけがない
あれはただの動画だ
泰
泰
泰
泰
おれは勉強机の椅子を蹴りあげた
世間にも 自分がやってしまったことにも
耐えられなくなりそうだった
椅子のコロや部品が外れて 床に汚らしく散らばった
おれは おれは
泰
泰
泰
泰
動画をネットから 完全に消し去ることは
現段階ではほぼ不可能であると 判明してしまった
ひとたび流出してネット上に 流布したポルノ動画は
ひとつの動画サイトでは飽き足らず 多くの媒介による「増殖」を 繰り返して
またたく間にネット上の あらゆる動画サイトの売り物になる
そうなると個人では収拾がつかない
警視庁とICPOに依頼して 虱つぶしに消していくしかないのだが
そうするとおれは 自らの罪を認める形になってしまう
おれは少年法で守られているとはいえ 厳罰が科せられることは免れない
泰
泰
おれは拳で 頭部をガンガン叩いた
鈍い痛み 痛みを感じることで 現実に引き戻されて
えもいわれぬ恐怖が にじりよってくるのを ふり払えるような気がした
だが恐ろしい感情は おのずと脳の中で生み出され
痛みは決して 恐怖に打ち勝てなかった
床に倒れた椅子 そして散らばった部品を
ぼうっと見つめた
泰
泰
泰
泰
椅子の部品にしては やけに大きなパーツが転がっていた
2センチ四方ほどの 黒い小箱
それだけが他のパーツと違って ここにある、と主張するように
おれの目にうつった
泰
泰
泰
泰
泰
泰
おれはその小さい箱を 勉強机の上に置いた
璃々子のことを思い出した
「奴」は言っていた 動画の中にも手がかりがあると
それが救済の手立てだと
もう一度 スマートフォンの動画を見る
泰
もう死んでしまった彼女
おれにとってその動画は 怪物に他ならない
とてつもない背徳感 しかしその裏で押し寄せる欲望の渦
どうしてか 股間が充血するのを感じる
泰
泰
泰
泰
またあの場所に来ていた
街の中に身を潜めることで
喧騒に紛れて誰にも見つからないと 思ったからだ
ポケットに入れたスマホを取り出す
どうしていいのか分からない
誰にも相談できない
泰
その時突然着信があった
おれは一瞬震えあがった だがそれはどこかで見たような番号だった
泰
泰
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泰
泰
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電話が切れた
こいつは 誰なのだろうか
家がひどい状態に?
誰かが放火したとか
殺人が起こったとか だろうか
おれは家に戻ることにした
おれの家の玄関口に
3台のパトカーが ランプを光らせて停まっていた
嫌な予感がする
おれは物陰に隠れながら それに近づき
なにが起こっているのか 目を凝らして観察した
父さんが怒声を上げている
それをなだめるように 警官と思しき男が
父さんになにか話している
しばらくそのやりとりが続いた
しかし数分後突然 状況が一変した
パトカーに隠れていた10人ほどの警官が
一斉に飛び出し 父さんを取り囲んだ
警察官
警察官
警察官
警察官
警察官
警察官
あまりに凄惨な光景を おれはただ立ち尽くして見ていた
ふとこちら側を振り返った警官と 目が合った
警察官
警察官
警察官
警察官
おれは咄嗟に背を向け
走り出した
パン!と銃声らしきものが鳴った
足元で火花が弾けた
遠くへ行かなくては
もう一度発砲音
足に当たった! 足が焼けるようにいたんだ
思わず転倒した
警察官
警察官
しかし またすぐ立ち上がれた
靴に弾が当たっただけだったようだ 無傷だ!
警官が2人駆け寄ってくる
逃げることに集中する
また後ろで発砲音がした なんとかかわしているのか当たらない
その直後だった
警察官
警察官
発砲音とは違う 大きな衝撃音がした
思わず振り返ると 信じられない光景がひろがっていた
そこには黒いスポーツカーがあって
警官たちは突き飛ばされていた
スポーツカーはヘッドライトを おれの方に向ける
泰
猛スピードでおれに向かってくる
かと思うと
おれのすぐ近くでぴたりと止まる
運転席のドアが開いた
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???
???
泰
急発進した車は 入り組んだ道を かいくぐるように進んでいく
泰
泰
運転手はまだ若そうな男だ 20代前半ぐらいか
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泰
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泰
泰
赤信号で停車する
彼はゆっくりと 顔をこちらに向けた
ユウト
ユウト
ユウト
泰
泰
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
泰
泰
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
泰
泰
泰
泰
右大腿にチクッとした痛みがあった
全身から力が抜けていく
ユウト
ユウト
ユウト
ユウト
全身から魂が抜けたように 全く動けなくなった
それに合わせるように
意識がとけてゆく
ユウト
ユウト