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樋口

『そして、国から追放された王女様は……』

樋口

『森のはずれのあばら屋に住み着き、魔女となり』

樋口

『王国への復讐を心に誓いながら、ひっそりと暮らしました』

樋口

……おしまい!

ダンテ

……

ダンテくんは私の読んだ絵本を受け取ると

トコトコと部屋の本棚に歩いて行き、本を仕舞った。

樋口

(しっかし本当、暗い本ばかりだな)

樋口

(死だとか復讐だとか呪いだとか)

樋口

(もっとこう、子供っぽい本とか無いの?)

樋口

(生意気ばっか言う弟達と違って、ダンテくんは良い子だけど)

樋口

(ちょっと本の趣味はわからないな……)

ダンテの母

あらあら、今日も楽しそうね

樋口

あ、ああダンテママ

樋口

……あの、今日の仕事が終わったら

樋口

お話ちょっと良いですか?

ダンテの母

あら、なあに?急に他人行儀な

ダンテの母

何だかこっちが緊張しちゃう

ダンテの母

ダンテの母

わかったわ、でもまだ私の仕事が終わってないから

ダンテの母

それまでダンテをしっかり頼むわね

樋口

はい!

ダンテ

……

樋口

ん?何?

樋口

次は電車のおもちゃで遊ぶの?

樋口

わかった、一緒に遊ぼう!

ダンテの母

……

ダンテの母

今、なんて?

樋口

いえ、ですから

樋口

……そろそろ受験だし、バイトを辞めさせていただこうと

ダンテの母

ダメよ

ダンテの母

あなたはダンテのお姉ちゃんなんだから

ダンテの母

勝手は許さない

樋口

いや、勝手って言われても……

樋口

ずっとバイトしてるって訳にも行かないじゃないですか

樋口

別にこの家の人が嫌いになった訳じゃ無いんですよ?

ダンテの母

じゃあ良いじゃない

ダンテの母

ずっとここで働けば良いわ

ダンテの母

……そう、そうしましょう!

ダンテの母

お金なら私や夫がいくらでもあげる

ダンテの母

ご飯も、制約の中でなら私が腕を振るうし

ダンテの母

毎日お腹いっぱいご馳走を食べさせてあげるわ

樋口

そう言う事じゃ無いんです

ダンテの母

何ならもう学校も行かなくて良いわよ

ダンテの母

ずっとこの家でダンテのお姉ちゃんで居て?

ダンテの母

そうしたらもうクラスの中心人物にいびられなくても済む

ダンテの母

ダンテの母

あ、もっとお金でギャフンと言わせたいって言うならそれでも良いわ

樋口

だから!

樋口

話を聞いてください!!

樋口

その、なんて言うか……

樋口

しんどいんです

樋口

優しさでがんじがらめにされて

樋口

一個人として尊重してもらえない

樋口

頂き物も余りにも一方的だと

樋口

申し訳なくって仕方ないんです

ダンテの母

……

ダンテの母

何よ

ダンテの母

私はただ、あなたを家族のように愛そうとしただけよ

ダンテの母

その愛を、思いやりを無碍にするって言うの!?

樋口

その上から目線、勘弁してくださいよ!

樋口

樋口

もう良いです、これで失礼します

樋口

貰い過ぎた分のお金は

樋口

少しずつですが返させて頂きますから

そう言ってリビングを出ようとすると……

ダンテの母

ダメ!!

ダンテの母

帰さない、あなたはこの家の「お姉ちゃん」になるのよ!!

ダンテママが二の腕を掴み、強引に足止めする。

それを力ずくで振り払った衝撃で、ダンテママはテーブルの角に頭をぶつけた。

樋口

あっ……

樋口

すみません、ごめんなさ

慌てて駆け寄り、手当てするために傷を確認しようとしたが

その傷を見て、私は凍りついた。

樋口

……

樋口

なんで、青い血が……

ダンテの母

っ……痛たた

ダンテの母

何か不思議?

ダンテの母

これはただの「ダンテの家族」の印ってだけよ

額からダラダラと青い液体を垂れ流しながら

さも当然かの様に言葉を続ける。

樋口

い、嫌っ!!!

樋口

化け物!!

ダンテの父

ダンテの父

そんな言い草は傷つくなあ、仁香さん

いつの間にか帰って来ていたダンテパパが部屋の入り口から顔を覗かせる。

樋口

(……これは……)

樋口

(……出口を塞がれた!)

ダンテの母

あなた、仁香ちゃんったらひどいのよ

ダンテの母

さんざん私たち家族の悪口を言って、私を突き飛ばして

ダンテの母

ほらみて、私怪我しちゃったんだから

樋口

(勝手に逆上しただけなのに)

樋口

(何で私が悪者になってんの!?)

ダンテの父

……少しお転婆が過ぎる様だね

ダンテの父

「ポチ」に頼んで良い子に変えてもらおう

二人は私の口を塞いで、それぞれ手と足を抱えて部屋を出た。

コツン、コツンと二人分の足音が狭い階段に響く。

めちゃめちゃにもがいても、異常な力で掴まれて振り解けそうにない。

壁には何やらベタベタした物が纏わり付き、階段を降りるにつれ

その密度は増し、二人の足音もネチャネチャと粘度が高くなっていった。

樋口

(ここは……)

樋口

(絶対入るなって言われてた地下室?)

樋口

(「ポチ」って何?変えてもらうって何?)

階段を降りきった場所は民家の一部屋くらいの大きさの空間が広がっていた。

そこの真ん中に居座っていたのは……

ポチ

ウジュ、グジュ……

樋口

(うえっ……)

樋口

(なにこれ、なめくじ!?)

樋口

(2.3メートルはあるよこいつ)

ダンテの父

さあポチ、この子が新しい家族だ

ダンテの母

ダンテが「もっと小さくして」って言ってたから頼むわね

ポチ

ブヂュ、ブヂュウ……

ポチと呼ばれた大なめくじは、私を値踏みするかの様に

触覚をこちらに伸ばして、ジロジロとこちらを伺ってきた。

樋口

(嫌、近づかないで!)

ダンテの父

私たち家族はみんなポチに一度飲み込まれて

ダンテの父

体の細胞ごと一から作り替えて貰ったんだ

ダンテの母

それでみんな一緒になれたの

ダンテの母

ポチが分泌した液を傷に塗れば……

ダンテの母

ダンテの母

ほら、傷だって治せるのよ?

ダンテの母

便利でしょ?

先程までダンテママにあった額の痛々しい傷が、確かに薄れて来ている。

ダンテの母

でも、ポチが気に入ってくれるかしら

ダンテの母

気に入らない時は尻尾で叩いて殺して

ダンテの母

そのままご飯になっちゃうのよね

ポチ

……

大なめくじは首を持ち上げ、その口を大きく広げた。

ポチ

ウジャアア……

ダンテの父

やったね、仁香さん!

ダンテの父

これで家族になれるよ!

ダンテの母

ケンカしたことは水に流してあげる

ダンテの母

これからずーーーっと仲良くしましょうね?

樋口

(いや、いや!!)

粘液とも唾液ともつかない、ドロドロした物体が顔を、髪に降り注ぎ

腐臭が口から私の鼻に襲ってくる。

樋口

(誰か、助けて!)

樋口

(春香、健二!)

樋口

(智樹!!!)

祈りも虚しく、大なめくじの口は

私の上半身をバックリと咥えてしまった。

おいでませ理想郷

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