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星崎探偵事務所の日常

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星崎探偵事務所の日常

3 - 『三十木村』#3

♥

50

2025年08月26日

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翌朝、

神社を訪れると

大勢の人で賑わっていた。

村長(三戸)

おはようございます、星崎さん

星崎(ほしざき)

ああ

村長(三戸)

昨夜はよく眠れましたか?

星崎(ほしざき)

ああ

村長(三戸)

……

星崎(ほしざき)

……

村長(三戸)

あの…

村長(三戸)

ところでお連れ様の姿が見えませんが…

星崎(ほしざき)

風都くんは朝が苦手だからな

星崎(ほしざき)

私が蹴ったぐらいじゃ起きないんだ

村長(三戸)

そう、ですか…

星崎(ほしざき)

ところでミイラ汁は?

村長(三戸)

あはは…

村長(三戸)

今は三十木汁(みそぎしる)と呼ばれているんですが…

村長(三戸)

もう直、配られると思います

そういうと

神職の格好をした男たちが

大鍋を持って現れた。

村人の他に

あの”ヨルパカ”のメンバーもいて、

スマホで撮影しているようだった。

鍋の仕上げに神主が

祝詞をあげ、

干した猪肉を

1枚削ぎ落として

汁の中に入れた。

恭しく鍋を一回掻き回して、

完成らしい。

トッちゃん

よし、リッキー一番に取ってこい!

リッキー

おう!任せろ!

意気揚々と村人たちを掻き分け、

リッキーは三十木汁を受け取る。

見た目も匂いも

いたって普通の

味噌汁のように見えた。

具材も干した猪肉の他に

ネギしか入っていない。

とてもシンプルなものだった。

次いで、

村人たちにも

順々に配られていった。

星崎も三十木汁を受け取り、

リッキーの前に立つ。

リッキー

な、なんだよ…

星崎(ほしざき)

一番に貰ったんだ

星崎(ほしざき)

一番に食べたらどうだ?

リッキー

へ?

村長(三戸)

そうですね

村長(三戸)

是非、最初にお召し上がりください

村長も微笑んで言ったが、

リッキーは困惑の表情を浮かべる。

リッキー

あ、いや…

トッちゃん

みんなで食べればいいだろ?

村長(三戸)

いえいえ

村長(三戸)

我々はいつも食べていますので

星崎(ほしざき)

そういうことだ

星崎(ほしざき)

遠慮せず食べろ

リッキー

そ、そういうお前が

リッキー

一番に食べればいいだろ?

星崎(ほしざき)

こんな

星崎(ほしざき)

トリカブトの入った

星崎(ほしざき)

毒入りの汁など

星崎(ほしざき)

飲めるわけがないだろ

星崎の言葉を聞いて、

周りにいる村人たちがざわめき立つ。

村長(三戸)

な、何を言うんですか!?

驚いて星崎に詰め寄ったのは、

村長だけではなかった。

村人(千佐子)

そ、そうです!

村人(千佐子)

この三十木汁にそんな

村人(千佐子)

トリカブトなんて入っていません!

三十木汁作りに携わった千佐子も

慌てて否定する。

星崎(ほしざき)

もちろん

星崎(ほしざき)

突然こんなことを言ったところで

星崎(ほしざき)

信じて貰えないだろう

星崎(ほしざき)

風都くん

風都(かざと)

はい!ボス!

風都(かざと)

みなさーん!

風都(かざと)

これが証拠の動画っす!

いつの間にか

星崎の後ろにいた風都が

村長や神主、

”ヨルパカ”のメンバーに

スマホの画面を向けた。

村長(三戸)

これ…は?

リッキー

!!?

そこには林の中をうろつく

”ヨルパカ”メンバーが映っていた。

【証拠の動画A】

ヨッシー

全っ然見つかんねぇ…

トッちゃん

マジでここにあるのかよ

タッつん

おっ!これじゃね!?

メンバーの一人が

草を抜き取り

他のメンバーに見せる。

それを手元のスマホの画像と

照らし合わせた。

トッちゃん

合ってる!合ってる!!

ヨッシー

やべっ!マジでトリカブト見つけた!!

リッキー

見つかった?

ヨッシー

おう!試しにかじってみるか?

タッつん

ばーか!止めとけ

タッつん

ここで救急搬送されたら意味ないだろうが

トッちゃん

こいつはどこかじってもアウトなんだよ

ヨッシー

あ、それもそうか

トッちゃん

こ、この動画が

トッちゃん

い、一体なんだって言うんだよ

風都(かざと)

んじゃ、続きがこちらっす

次の動画は

どこかの台所らしく

大きな鍋を掻き回している

数名の女性の姿があった。

村人(千佐子)

あ、これさっきの…

そう千佐子が呟くと

スマホから大きな音が鳴った。

【証拠の動画B】

───ガシャンッ!!

村人(美夜)

い、今の何の音?

村人(千佐子)

何かが倒れたような…

トッちゃん

うわっ!やべっ!

トッちゃん

リッキー倒すなよぉ

リッキー

えぇ?オレのせいなのかよ

村人(三戸)

あの人たちって…

村人(三戸)

動画撮りに来た部外者でしょ?

村人(美夜)

この忙しいときに何してんのよ…

村人(千佐子)

私、見てきましょうか?

村人(三戸)

千佐子さんはここにいて

村人(三戸)

美夜さん、一緒にきてちょうだい

村人(美夜)

はい

村人(千佐子)

……

リッキー

あの……

村人(千佐子)

あら、あなたは昨日の…

リッキー

倒れた木材がぶつかって…

村人(千佐子)

ケガしたのね

村人(千佐子)

こっちへ来て

村人(千佐子)

手当てしてあげるから

リッキー

ありがとうございます

そこで厨房が無人になる。

タッつん

お、みんないなくなったな…

タッつん

今のうちに…

”ヨルパカ”のメンバーが厨房に侵入し

鍋に近づいて

根っこのようなものを投げ入れた。

ヨッシー

トリカブトの毒って

ヨッシー

熱でどうにかなったりしねぇの?

タッつん

どうにもなんねぇよ

タッつん

大丈夫

タッつん

量は抑えてあるから

タッつん

食べても舌が痺れるだけだって

ヨッシー

ふぅーん

タッつん

よし、戻るぞ

ヨッシー

あいよ!

ヨッシー

これでミイラの祟りっていう

ヨッシー

動画が撮れれば…

タッつん

またバズるぞ!

ヨッシー

うひゃー!楽しみぃ!

二人は満面の笑みを浮かべて

厨房から走り去って行った。

風都(かざと)

とまぁ、こんな感じで

風都(かざと)

鍋にトリカブトぶち込んでたっす

タッつん

お、お前!それ盗撮だろ!?

風都(かざと)

毒物混入した奴に言われたくないっすね

タッつん

うぐっ

村長(三戸)

しかし…

村長(三戸)

本当にトリカブトを入れたんでしょうか?

村長(三戸)

さっきの動画では

村長(三戸)

何かの根っこを入れているようにしか…

星崎(ほしざき)

なら、本人たちに確認して貰おう

星崎はリッキーの方を向いた。

星崎(ほしざき)

何も入れていないのなら

星崎(ほしざき)

手に持っているそれを飲んでみろ

リッキー

……うっ

リッキー

うるせぇ!

リッキー

オレに指図すんな!!

リッキーは持っていたお椀を

地面に叩きつける。

村人(千佐子)

な、なんてことするの!?

星崎(ほしざき)

お前はバカなのか?

リッキー

んだと!?

星崎(ほしざき)

毒が入っているのは

星崎(ほしざき)

お前が貰った分だけじゃないんだ

星崎はリッキーの後頭部を押さえ、

持っていたお椀を近づける。

リッキー

お、おい…

リッキー

やめっ…

星崎(ほしざき)

食べても舌が痺れる程度なんだろ?

タッつん

……

星崎(ほしざき)

だが、根っこ丸ごと入れたのなら

星崎(ほしざき)

その程度で済むはずが無いが…

ジリジリとお椀が

口元に近づいてくる。

リッキー

(おいおい!)

リッキー

(見た目以上に力が…強いじゃねぇか)

リッキーが押し戻そうとしても

ビクともしない。

リッキー

……う、うぅ…

風都(かざと)

…!!

黙って見ていた

風都が何かに気がついて、

風都(かざと)

ボス!ストップ!

慌てて止めに入った。

風都(かざと)

無理やり飲ませるのはダメっす!!

風都(かざと)

たぶんなんかの刑法に引っ掛かるっす!!

星崎(ほしざき)

……

星崎(ほしざき)

……チッ

風都(かざと)

し、舌打ち!?

星崎が手を放した瞬間、

リッキー

うわぁ!!

というわざとらしい声を上げ、

鍋に寄りかかり、

地面に中身をぶちまけた。

村長(三戸)

お、お前たち!!

村長(三戸)

なんてことを!!

リッキー

うるせぇ!!

リッキー

ばーか!

トッちゃん

行くぞ、お前ら!

村人(千佐子)

ちょっと!待ちなさい!!

しかし、”ヨルパカ”メンバーは

村人たちを押し退け、

脱兎の如く逃げて行った。

風都(かざと)

はぁ~…

風都(かざと)

証拠の動画あるんっすから

風都(かざと)

逃げても無駄なのに……

風都は呆れたように呟く。

星崎(ほしざき)

ふむ…

星崎(ほしざき)

これが例のトリカブトだな

星崎はこぼれた汁の中から

根っこを拾い上げる。

風都(かざと)

あいつら訴えるなら

風都(かざと)

動画共有するっすよ?

村長(三戸)

あ、ああ……

村長(三戸)

いや…

村長の三戸は

力無く首を横に振った。

村人(千佐子)

お義父さん…

村人(千佐子)

いいんですか?

村長(三戸)

幸い

村長(三戸)

星崎さんたちのお陰で

村長(三戸)

犠牲者は出ていません

村長(三戸)

なので

村長(三戸)

このことは……

村人(千佐子)

でもっ

村人(三戸)

千佐子さん

村人(千佐子)

お義母さん…

村人(三戸)

ここにはここの規則があるの

村長(三戸)

そういうことだ

村人(千佐子)

……

村長(三戸)

あ、ですが

村長(三戸)

星崎さんたちにはお礼をさせてください

村長(三戸)

あのまま誰かが飲んでいれば

村長(三戸)

取り返しのつかないことになっていたので

星崎(ほしざき)

……

星崎(ほしざき)

じゃあ

星崎(ほしざき)

このトリカブトを誰かかじって死

風都(かざと)

わぁぁ!ストーーーップ!!

星崎(ほしざき)

んぐっ

風都は慌てて星崎の口を塞ぐ。

風都(かざと)

なぁんで自ら手に入れた信頼を

風都(かざと)

自らへし折っていくんっすかね!?

村長(三戸)

??

風都(かざと)

と、とりあえず

風都(かざと)

ここまでのガソリン代と

風都(かざと)

宿泊費…

風都(かざと)

それから少しばかりの

風都(かざと)

”感謝の気持ち”があれば

風都(かざと)

十分っす!!

村長(三戸)

そうですか

村長(三戸)

わかりました

三戸は少し複雑な表情をしながらも、

頷いて見せた。

村長(三戸)

それはそうと

村長(三戸)

よく彼らの悪行に気付きましたね

風都(かざと)

えーっと、それは……

風都(かざと)

ボス

そこで風都は

星崎の口を塞いでいた手を放す。

星崎(ほしざき)

ふぅ…やれやれ…

星崎(ほしざき)

あいつらの過激な動画に

星崎(ほしざき)

”トリカブト食べてみて”

星崎(ほしざき)

というコメントがあったのを見つけた

星崎(ほしざき)

それがきっかけだ

星崎(ほしざき)

そのコメントだけなら

星崎(ほしざき)

別に気にも留めないが

星崎(ほしざき)

あいつらに最初に会ったのも

星崎(ほしざき)

あいつらが去って行ったのも

星崎(ほしざき)

林の中だった

星崎(ほしざき)

心霊スポットもない場所で

星崎(ほしざき)

何かしているとしたら

星崎(ほしざき)

下らん事だろうと思って

星崎(ほしざき)

後を追っただけだ

村長(三戸)

そうでしたか…

星崎(ほしざき)

次からは

星崎(ほしざき)

あの手の連中には気を付けることだな

村長(三戸)

はい

村長(三戸)

肝に命じておきます

三戸は頷いて見せた。

その後、

小さな鍋に作り直したという

三十木汁を風都は堪能する。

風都(かざと)

猪肉って美味しいんっすね!

村長(三戸)

ウチで丹精込めて仕込んでますから

村長(三戸)

……

村長(三戸)

星崎さんの元気が無いようですが…

三戸は小声で

風都に尋ねた。

二人の視線の先には、

部屋の隅で膝を抱え、

時々重いため息をこぼしている

星崎の姿があった。

風都(かざと)

ああ…

風都(かざと)

ちょっと凹んでるだけなんで

風都(かざと)

気にしないで欲しいっす

村長(三戸)

やはり…

村長(三戸)

”ヨルパカ”を捕まえられなかったことを

村長(三戸)

悔いてらしゃるのでしょうか?

風都(かざと)

いやいや……

風都(かざと)

……

風都(かざと)

(死体が見たかった、なんて)

風都(かざと)

(さすがに言えないっすよねぇ)

風都(かざと)

ボスは情緒不安定な人なんで

星崎(ほしざき)

誰が情緒不安定だ

風都(かざと)

あ、聞こえてたんっすね

星崎(ほしざき)

それを食べたら帰るぞ、風都くん

風都(かざと)

はーい!

最後の一口を流し込み、

二人は古民家をあとにした。

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