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――引き続き、 昼下がりの エイバスの街。
スライムの逃げ足は とにかく速かった。
必死に追いかけ、何度か 紙袋を取り返せそうな チャンスもあったけど――
マキリ
スライム
……そのたびに、 ひょいっと軽やかに かわされてしまうのだ。
追いかけっこは結局、 私の限界で終わりを迎える。
スライムは余裕たっぷりに 路地の向こうへ 走り去ってしまった。
マキリ
マキリ
倒れる様にしゃがみこみ、 まずは息を整える。
マキリ
マキリ
マキリ
奴は移動に 迷いが一切なかった。
しかも 追いかけにくい障害物がある道や、
細道みたいな嫌な道ばかり 選んで逃げ回る上、
小回りが聞く小さな体を活かして
「バスケのフェイントか!」
…とツッコみたくなるレベルで 私を右に左に振り回す。
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
今日のマフィンは、 最近作った中でも 改心の仕上がりだった。
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
ここでふと、 私は気づいた。
焼き立てマフィンの匂いが “すぐ近く” から 漂ってきていることに。
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
マフィンを 諦めきれない私は
本能のまま、 香りの出所を 捜索し始めた。
私はひたすら “焼き立て菓子の匂い” を辿る。
より香りが強くなるほう へと歩くうち、 「薄暗い路地」へ出た。
道も細いし、 入り組んだ建物と 建物の影になっていて、
心なしか、空気が 妙に湿っぽい。
マキリ
マキリ
意を決して 角を曲がると――
幼女
――泣きじゃくる “幼女” 。
マキリ
瞬間、心が きゅっとした。
陰気な空気ただよう 路地裏の一角。
なのに幼女だけがキラキラしてて、 泣き顔から目が離せない。
見た目年齢は5歳ぐらい。
石畳の地べたに座り 古い建物の壁にもたれてる にも関わらず、
彼女はまるで 天使のように美しかった。
青い瞳は満天の星空、 流す涙は小粒のダイヤモンド。
ふわっと細く 淡いピンクがかった銀の髪は さながら光の糸だろう。
マキリ
幼女
瞳一杯に涙を浮かべる幼女が 口一杯に頬張っていたのは どこかで見た “マフィン”。
その横には――
スライム
――紙袋を 抱えた魔物。
マキリ
マキリ
思わず大きな声が 出てしまう。
幼女
スライム
私の声に反応する 幼女とスライム。
素早く紙袋を捨てた スライムが、
幼女をかばうように 前に出たかと思うと――
――ブォンッ!!
マキリ
軽く数十倍は膨張した 巨大ゼリーなスライムは、 私の身長より遥かに大きい。
マキリ
あまりに速く、 あまりに突然。
巨大化したスライムが 私に勢いよく 覆いかぶさってきたッ!
マキリ
何も反応できぬまま、 ただただ恐怖に 襲われた瞬間――
幼女
幼女が叫ぶと同時に スライムの動きが止まり、
――プシュゥ
と縮んで、 もともとのサイズに 戻っていった。
マキリ
気がつけば、 私の腰は抜けていた。
マキリ
マキリ
幼女
幼女がトコトコ駆けてきて、 私の前で止まる。
目に涙を浮かべたまま、 食べかけのマフィンを 突き出して言った。
幼女
幼女
マキリ
マキリ
幼女
マキリ
マキリ
幼女
幼女
…この幼女、 全く信じる 気がないな。
マキリ
幼女
幼女
マキリ
幼女
幼女
幼女
マキリ
マキリ
マキリ
幼女
マキリ
マキリ
マキリ
マキリ
私のお菓子レシピは ほとんどが 祖母ちゃん直伝だ。
そんな祖母ちゃんのお菓子は、 基本に忠実な 王道中の王道ばかり。
彼女の言う『おやつ係』とやらに 心当たりは無い。
だけど私も市販菓子を食べて “祖母ちゃんの味に似てる” と思ったこともあるし、
彼女の気持ちも 分かるといえば分かる。
幼女
幼女
幼女
くずれ落ちた幼女は、
堰(せき)を切ったように 泣き出してしまった。
……もともと私は マフィンを取り返すべく、
泥棒スライムを 追いかけていたはずだった。
だけど追いついてみれば マフィンは幼女に 食べられていて、
さらには スライムに襲われかけて、
よくわかんないうちに 幼女が大号泣。
幼女
肝心の幼女は現在も すごい勢いで泣き続けてて、
どう見ても声をかけられる 雰囲気じゃない……
……マフィンを取り返す とかそんなの、 もはやどうでもいい。
かといって、 幼児を放って帰るのも どうかと思う。
マキリ
私が何もできずに ただただ困っていると。
スライム
離れていたスライムが こちらに向かって 滑るように近づいてきた。
マキリ
さっき飲み込まれそうに なった瞬間が頭をよぎり、 バッと反射的に後退。
スライム
だがスライムは 私には目もくれず、
幼女のひざに ぴょこんと 飛び乗ったかと思うと、
何やら ごにょごにょ 動いている。
幼女
幼女
幼女
幼女
幼女
幼女
マキリ
どうやら「何かの会話」が 行われているっぽい。
だけど幼女が一方的に 喋るだけで、スライムが 声を発する様子はない。
幼女
幼女は残ったマフィンを 平らげると、腕で ごしごし涙をぬぐう。
それから立ち上がって 私の目を真っすぐ見た。
幼女
幼女
マキリ
幼女
幼女
幼女
幼女
幼女
…ぶっちゃけ 意味不明。
なぜこの幼女は こんなにも偉そうなんだ?
“親” の顔が 見てみたいよ…
マキリ
こんな幼女が 1人で出歩いてるとか、 物騒にもほどがある。
迷子だったら おうちに返してあげないと いけないし。
マキリ
マキリ
マキリ
幼女の顔が曇る。
幼女
マキリ
幼女
幼女
幼女
幼女
幼女
マキリ
――やって しまった。
こんなに幼いのに 目の前で父親を殺されるなんて、 どんなに辛かっただろう。
しかも家も壊れて 無くなってしまったと。
それなのに私は…
…無神経にも、 ほどがある。
マキリ
幼女
幼女
幼女
幼女
幼女
幼女は笑った。
だけどちょっと 無理をしているようにも 思えた。
――きゅるぅ
幼女
せつない音をたてたのは 幼女のおなか。
慌てておなかを押さえた その顔は、真っ赤に 染まっている。
マキリ
マキリ
幼女
幼女
懸命に強がって 見せる姿が、なんだか 健気に見えてきた。