テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
江藤ルミエール
195
111
#ミステリー
鬼霧宗作
61
コメント
1件
おお、由香利、本当にぎりぎりだったね…。最後の最後で神様が味方したみたいな、あのカップが開く瞬間の緊張感、こっちまで息を止めてしまったよ。対照的に雷良の「ちっ」は、めちゃくちゃ生々しい人間の心の闇って感じで、この物語の残酷さを象徴してるみたいだった。続きが気になる…!
なかなか3人目の脱落者が出ない。
その事実は、まだ試練を受けていない生徒たちの不安を、少しずつ濁らせていた。
助かる生徒が増えていく。
本来なら希望のはずだった。
けれど、この試練は違う。
3人が死亡した時点で終わる。
誰かが助かるたびに、月桂冠を着けたままの生徒たちは、自分の順番が近づくことを思い知らされる。
次の試練進行ナンバーは、32番。
その数字が表示されているのは、生徒ナンバー27・納富由香利だった。
生まれつき気が小さい由香利は、もう居ても立ってもいられない。
納富由香利
思い切って短くしたスカートの下で、すらりとした白い脚が小刻みに震えていた。
恐怖。
不安。
逃げたいという衝動。
そのすべてが、細い膝に集まっているようだった。
そんな由香利を見ながら、31番の生徒ナンバー30・宝亀雷良は、後方で唇を噛んでいた。
派手なメイクの下で、顔色が悪くなっている。
宝亀雷良
そう思った瞬間、雷良は胸の奥がざらつくのを感じた。
けれど、否定できなかった。
怖い。
死にたくない。
あんなふうになりたくない。
名前も顔も白い部屋に溶けていくような、あんな終わり方だけはしたくない。
だから、心のどこかで願ってしまう。
自分ではない誰かが、早く終わらせてくれればいい、と。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
納富由香利
上ずった声で返事をし、由香利は脚を震わせながらテーブルへ進んだ。
歩くというより、体を前へ押し出しているだけだった。
ロボットの前に立つと、銀色の身体が見上げるほど大きく感じられる。
テーブルには、3つのカップとレモン色のピンポン玉。
それだけの道具が、由香利には処刑装置のように見えた。
【SYSTEM】
胸部モニターが点灯した。
“速い”。
“普通”。
“遅い”。
3つの文字が、目まぐるしく点滅する。
納富由香利
頭の中が、その言葉だけでいっぱいになる。
押さなければいけない。
わかっている。
けれど、指が動かない。
もし“速い”で止まったら。
もし間違えたら。
もし脳を壊されたら。
想像ばかりが膨らみ、ボタンが遠ざかっていく。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
時間だけが、容赦なく減っていった。
納富由香利
由香利は、最後まで押せなかった。
胸部モニターの文字が確定する。
“速い”。
納富由香利
甲高い悲鳴が、白い部屋に響いた。
次の瞬間、ロボットの右腕が動く。
銀色の指がピンポン玉を摘み、中央のカップに入れて伏せる。
3つのカップが、凄まじい速さで動き始めた。
右。
左。
中央。
また右。
銀色の残像が、テーブルの上を引き裂くように走る。
納富由香利
10秒が経過した。
3つのカップが、ぴたりと止まる。
【SYSTEM】
納富由香利
由香利は、また動けなかった。
右なのか。
左なのか。
真ん中なのか。
どれも同じに見える。
どれを選んでも死ぬ気がする。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
無慈悲に、時間は進んでいく。
納富由香利
納富由香利
由香利は激しく動揺し、ほとんど適当に真ん中のカップを指さした。
納富由香利
ロボットの右腕が、真ん中のカップへ伸びる。
由香利は両手を胸の前で合わせた。
納富由香利
納富由香利
カップが、ゆっくり持ち上げられる。
その下には――
レモン色のピンポン玉があった。
納富由香利
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
それから、遅れて理解する。
自分は当てた。
まだ死なない。
納富由香利
涙が止まらなかった。
恐怖の涙が安堵に変わっても、頬を伝い続ける。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
由香利の月桂冠が外れた。
受け止めることもできず、床に落とす。
そして、力の抜けた脚でふらふらと他の生徒たちの方へ戻った。
納富由香利
由香利は胸を撫で下ろし、涙を拭った。
その姿を、宝亀雷良が見ていた。
宝亀雷良
そう思った直後、携帯端末が視界に入る。
31。
次は、自分の番。
宝亀雷良
宝亀雷良
派手なメイクの下から、冷や汗が滲んだ。
由香利への苛立ちは、すぐに自分への恐怖へ変わる。
由香利が助かったことが、憎い。
けれど、憎んでいる場合ではない。
次にテーブルの前へ立つのは、自分なのだ。
由香利はまだ泣いている。
助かったことに震えている。
雷良は、その姿を睨みつけるように見ていた。
羨ましい。
悔しい。
怖い。
そのすべてが混ざった視線だった。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】