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最期に始まったあの日から…

第1話 - 最期に始まったあの日から…

2020年04月06日

#恋愛

#人生

#駅

楽人

彰

『母さん、元気ですか？
あなたが眠る姿を脇目に家を出た日から、もう3年経ちましたね。
僕は今、旅をしています。
知らない街で色んな人に触れて、なんだかんだ楽しんでいます。
でも、』

彰

でも…

彰

すぐに…会えるよ…

彰

ごめん、母さん。

静久

あの

彰

…

静久

あの！

彰

あ、僕ですか？

静久

そうです。ちょっといいですか？

彰

なんでしょうか

静久

こんな時間にこんな古い駅舎の中で人を見ること無いので

彰

あぁ…なるほど

静久

もうすぐ真夜中ですよ？帰らないんですか？

彰

あなたこそこんな時間に何を？

静久

私は…

静久

もう帰る場所も無いので

彰

帰る場所がない…？と言うと？

静久

母と喧嘩しちゃって

静久

父はもう居ないので

彰

そうなんですか…すいません、複雑な所を

静久

いえいえ、私が勝手に話してるので

静久

あの

彰

はい？

静久

落ち着くまで…少しお話しませんか？

彰

お話？

静久

まだ…あなたがここにいる理由を聞いてませんし

彰

私は旅の途中で風情のある駅をみつけたのでしばらく居ようかと

静久

風情…ありますかね？

彰

というか、いいんですか？得体のしれない男の人と一緒に居ても

静久

いえ…大丈夫です。だってあなた、優しそうだから

彰

分かりませんよ？

静久

本当に危ない人ならもう私は無事で済んでませんよ

彰

失礼ですが、お幾つですか？

静久

突然どうしたんですか

彰

いや、大人な考え方だなと

静久

大人だなんて…まだ19ですよ

彰

意外だな…もっと歳上かと

静久

どういう事ですか

彰

いや、大人びて見えたもので

静久

あなたは？

彰

私は今年で21になります

静久

いつまでこの駅舎に？

彰

真夜中を回ったら出ようかと思っていたんですが…

彰

あなたが落ち着くまで居ることにしました

静久

あの…

彰

はい？

静久

お名前を…聞いていませんでした

彰

私は「しょう」と言います

静久

あ、私は「しずく」です

彰

かわいい名前ですね

静久

ありがとうございます

彰

やっと笑ってくれましたね

静久

え？

彰

あなたは私に話しかけてから一度も笑わなかった

彰

今初めて、笑ってくれたんです

彰

その笑顔が私の今回の旅の思い出になりました

静久

急にどうしたんですか

彰

ありがとうございました

彰が急いで立ち上がる時、彼の鞄が落ち、中身も零れた。

彰

おっと…

静久

やっぱり…そうだったんですね

彰

見なかったことには、して頂けませんか

静久

それは出来ませんね

彰

そうですか…

彰

…

静久

…

静久

あの…

彰

…はい？

静久

お家は…あるんですか？

彰

…？

彰

はい、一人暮らしですけど

静久

そうなんですね

彰

あの？

静久

はい？

彰

聞かないんですね、コレのこと

静久

私も…仲間ですから

彰

仲間…？

静久

ごめんなさい。私、

静久

ウソをつきました

彰

嘘？

静久

母は…もう居ないんです

静久

バカですよね…

静久

もう目覚めないのも分かってるのに…お母さんの横でずっと泣いて…

静久

でも…ずっと泣いてばかりも居られなくて

静久

飛び出してきたんです

彰

理由は…それだけですか？

静久

え？

彰

いくら最愛の人でも、親を亡くしただけで貴方まで後を追う必要は無い

静久

もういいんです

静久

夢も無いし、友達も居ない。

静久

家にはもう帰りたくない

静久

だから…最後に恋人ごっこでもしてみたかったんです

彰

ごっこ遊び、満足出来ましたか

静久

ええ。もう思い残すことも無いです

彰

これから思い残す事を作る気は無いですか

静久

え？

彰

涙を拭いてくださいよ

静久

何言ってるんですか？貴方だって

彰

あなたは…思い残すことが無いから、ここに来たんですよね

彰

逆に言えば、思い残すことがあるなら、まだ生きるべきだ。

静久

…

彰

私の父は、私が小さい頃に女を作って出て行きました。

彰

私の母は3年前に癌で死にました。

彰

3年間自分の力で生きてきましたが、もう嫌気が差したので、母に会いたくなったんです

彰

大切な人が居ない人生に、未練なんてない

静久

それって…

彰

言ったでしょう？

彰

たった今、思い残すことが出来たんです

静久

私ですか

彰

ダメ…ですかね

静久

ダメじゃ…ないです

彰

亡くした親を思い出さないことなんてないですよ

彰

でも…私は少し執着してしまっていたみたいです

静久

分かります

静久

これから…どうしましょうか

彰

この街を…案内してくれませんか？

静久

いいですよ

彰

楽しみましょうか

静久

そうですね！

彰

『母さん、私が家を出てから、5年が経ちました。
私は、家庭を持ちました。母さんの苦労も少しわかる気がしています。それから、ごめんなさい。
まだしばらく、会えそうにありません。』

静久

『お母さん、ありがとう。お母さんのおかげで、楽しい人に出会えました。会えないのは悲しいけど、もうちょっと待っててね。』

慧人

パパー！ママー！しゃしんとるんでしょ！はやく！

慧人

はい、チーズ！

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楽人

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