待ちに待った
、と表現していいのかもしれない。
うん。 凄く楽しみにしてた。
学年末テストが終わった後の一大行事。 球技大会なる物が僕の学校にある。
体育館、運動場、テニスコートを使用して クラスの団結力を測る大会。
学校関係者以外の観戦も可能で、体育祭の次に盛り上がる。
去年は 友達がいないことに加えて球技全般があまり得意じゃないから
何が楽しいのか よく分からなかったけど 今年は楽しみにしてる。
友達が出来たこともあるけど、 一番は のぞみさんに会えるから。
塾とか なんだかんだで「あの日」以来のぞみさんに会ってない。
あれだけ泣いて、僕なりのお別れをした後だから ちょっと気まずいかもしれないけど
やっぱり「会いたい」が勝つ。
球技大会が終わったら、のぞみさんの家に行ってコーラ飲んでゲームしよう。
凄く楽しみ。
澪
山川のぞみ
そうなんだけどぉー
山川のぞみ
澪
澪
澪
今の体温 言(ゆ)ってみ
山川のぞみ
山川のぞみ
澪
山川のぞみ
澪
山川のぞみ
澪
山川のぞみ
山川のぞみ
山川のぞみ
澪
澪
山川のぞみ
そうなんだけどぉー
澪
山川のぞみ
澪
山川のぞみ
…………………おかしい!
山川のぞみ
クッ〇倒したのにピー〇姫がまた連れ去られたようなモンだよ!?
山川のぞみ
こんなの間違ってる!!
山川のぞみ
澪
山川のぞみ
澪
山川のぞみ
山川のぞみ
山川のぞみ
体育館ではバレーボール、運動場ではサッカー、テニスコートではテニスの試合が同時に行われている。
生徒たちは3つの試合会場を自由に行き来でき、自分の出番以外は他の試合を観戦することが出来る。
撮影係を任された私が学校に着くと、テニスコートは既に観戦希望の生徒で溢れかえっていた。
柚月
山崎孝太
と言うのも 2年生男子 一回戦Aコートの試合は
ビッグイベント 弾 劾 裁 判 に位置付けられているらしい。
その噂の試合に出場する2人(テニスは基本ダブルスらしい)が、共に疲れたようなため息を吐いた。
___1度弾かれた者は とことん見せ物になる。 こういう所は私の中学時代と何も変わらない。
澪
私の激励に柚月君は未だ不安そうだが頷いた。
一方 テニス部に所属している彼は
試合を目前に騒いでいるギャラリーを冷めた目で一瞥し
私に向き直り にっこりと笑った。
山崎孝太
山崎孝太
宣言通り彼は本気だった。
先攻は強豪チームの生徒で、けっこう速い球が放たれる。
それは柚月君の左頬スレスレを通過し、ラインの内側で1度跳ねると あっという間にラインを越えた。
渦巻く歓声と忍び笑い。 __嫌がらせは いつだって陰湿であからさまだ。
続いて彼___山崎君がサーバーになる。
ボールを真上に上げて、落ちてきたボールがラケットに接触したかと思うと___
次の瞬間には もうボールは相手のコートに突き刺さっていた。
跳ねたボールは勢いそのままにラインを越える。 歓声が途絶え、強豪クンの顔が引きつった。
強豪クンのチームは顔を歪めながら鋭い球を繰り出すが、同等 あるいはそれ以上の球を山崎君も打ち返す。
小学3年の頃からテニスをしているらしく、プレーに無駄が無いしコートもよく見てる。
ちゃんと柚月君にもボールを打つ機会を与えることも忘れない。
___トスする時の表情 ___点が入った時の表情 ………
どれも私が初めて目にする表情で、そう自覚すると コートに跳ねたボールのように
軽やかに何かが跳ねた。
だから 目が離せなかった。
撮影係だけど スマホを取り出してカメラを起動させる、その僅かな時間さえ惜しいと感じる。
目を離したくなかった。
西谷春翔
昼食を終えてテニスコートに戻ると、元カレ クンがマイク片手に何かの司会者になっていた。
とりあえず集団から離れた場所にいる2人に聞いてみた。
澪
柚月
山崎孝太
西谷春翔
西谷春翔
西谷春翔
西谷春翔
西谷春翔
水族館「ヒリア」のチケット4人分
澪
柚月
澪
西谷春翔
西谷春翔
「ユニバーサルスタジオヒリア」略して「ユーエスエイチ」のチケット4人分です。
澪
山崎孝太
柚月
澪
西谷春翔
山崎孝太
澪
でも行くならどっちがいい?
柚月
柚月
柚月君が即答した、と思ったら やたら真剣な顔で長々と話し始めた。
柚月
「目は口ほどに物を言う」を凄く実感したので あまり触れないようにした。
澪
今度の答えは短くてシンプルだった。
柚月
澪
なんて軽く言ってみたけど、何も気にしてない風に言ったけど
そっと彼を盗み見た。
山崎孝太
一瞬だけ目があったけど、すぐに逸らされてテニスコートに固定されてしまった。
しかしテニス部部員は集合するように、のアナウンスと共に被せるように山崎君は呟いた。
山崎孝太
トイレに行くと言って抜け出した。
最後の空き缶にボールが当たる音と拍手。
お互い照れたように はにかんでいる二人を見て、 二人だけの世界にしてあげようと思った。
別に邪魔者扱いされたわけじゃない。
去年に比べたら今年の競技大会は凄く楽しかった。
ただ一番会いたかった人が来れなくなったから 少し寂しくなっただけ。
足元の小石を蹴った。石は転がって側溝に落ちた。
__楽しみにしてたのに。 会えるだけで良かったのに。
柚月
山川のぞみ
反省してます
柚月
聞き慣れた声がして驚いて顔を上げると、目の前に大学生がいた。
マスクの奥から大学生___のぞみさんの、鼻声が発せられた。
山川のぞみ
柚月
柚月
山川のぞみ
服装を直すフリをして下を向いた。 やっぱり恥ずかしかった。
柚月
柚月
山川のぞみ
山川のぞみ
山川のぞみ
柚月
山川のぞみ
やっと顔を上げられるようになってきた。 だけどマスクに隠れてのぞみさんの顔は全部は見えない。
僕が何か言おうとする前に
のぞみさんが激しく咳込んだ。
体を「く」の字に曲げて喀血するんじゃないか、と思うくらい咳込んでいる。
柚月
本当に風邪治りかけなの?
心配になって尋ねたけど、のぞみさんは咳が酷くて答えられそうもない。
どうしたらいいのか困惑していると、呆れたような声がした。
澪
山川のぞみ
澪
山川のぞみ
山川のぞみ
山川のぞみ
痛いよ春菜ーー
澪
澪
山川のぞみ
ご迷惑をおかけしました🙇🙇🙇
山川のぞみ
澪
澪
山川のぞみ
澪
澪
山川のぞみ
澪
山川のぞみ
気づいてないの?
山川のぞみ
山川のぞみ
山川のぞみ
澪
そう言えばそうやな
今気づいた、みたいな なんとも思ってないみたいな
全部 嘘。 とっくに気づいてた。
試合してる時の表情とか 「ピラミッド崩し」が始まる前の言葉とか
10段ピラミッドを倒した後の照れたような笑みとか
きっと いろいろいろいろ思い出して
今夜はたぶん眠れない。
~皆様にお知らせ~ ムードぶち壊しを覚悟して、皆様にお知らせ致します。 この連載を読んでくださっている全ての方に知って欲しい情報なので、このような形をとらせて頂きました。
昨年の12月頃から始まったこの連載ですが、26話をもって最終回にしたいと思います。(現在20話) 残り6話を長いと感じるか短いと感じるかは読者様次第ですが、最後まで付き合って頂けたら幸いです。