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久留間悟

池ってのは、これか

久留間悟

……湧き水、かな

久留間悟

ここだけ異様に、空気が澄んでるね

本田芙蓉

ご一族にとっても、ユタの方々にとっても

本田芙蓉

まさに聖域であったじゃろうしな

ポスト

苔ってこれ?

ポスト

確かにキラキラして綺麗だけど

ポスト

これ、飲むのかぁ……

本田芙蓉

苔の生えた場所にある水は飲用できるでな

本田芙蓉

知ってさえおれば、さして抵抗はないじゃろう

そう言うと、本田の指が近くの苔をわずかに摘まみ取る

差し込む陽にかざしてしげしげと見たかと思った瞬間

本田はそれを、躊躇なく口の中に放り込んだ

ポスト

あ!

久留間悟

ちょっ!?

ポスト

ボ、ボス!ダメだって!

ポスト

ぺっして!ぺっ!!

本田芙蓉

赤子のように言うでないよ

本田芙蓉

食わねばわからんじゃろう

久留間悟

……じっちゃんってさぁ

久留間悟

意外とバイタリティあるよね……

本田芙蓉

……ふむ

本田芙蓉

確かに、霊的なものがよりはっきりと見える

本田芙蓉

人に霊能を与えると言うよりむしろ

本田芙蓉

急激に霊的視力を上げる、という感じかの

久留間悟

元々見えてる人にも効果あり、か

久留間悟

マジで霊験あらたかって感じだね

久留間悟

俺には分かんないや

久留間悟

……霊ってそんなに、見えたら怖いもんかな

本田芙蓉

……

本田芙蓉

わしらには、分からんのかもしれんな

ポスト

そりゃ分かんないだろ、フツーに

久留間悟

ポスト

見えなかった奴が急に見えるようになってさぁ

ポスト

ウヒー怖いよーとか思ってるの

ポスト

元々見えてた奴にはポカーンで当然じゃん

ポスト

考えるだけムダだぞ

ポスト

それよりそいつのこと調べよ!

ポスト

家の中とか、なんかないかな!

久留間悟

……そうな

本田芙蓉

……ほほっ

本田芙蓉

ポストには敵わんのぉ

久留間悟

ホント、空気ぶち壊すねぇ

本田芙蓉

……しかし、正論じゃ

本田芙蓉

考えたところで答えなど出ぬわな

久留間悟

はいな

久留間悟

そんじゃぁ景気よく

久留間悟

個人情報の粗探しといきますかぁ!

久留間悟

家の中は綺麗なもんだね

本田芙蓉

多少天井が落ちかけておるが

本田芙蓉

家財道具もそのまま残っておるな

ポスト

なぁ、アルバムあった!

久留間悟

おっしゃお手柄!

久留間悟

小学校の卒業アルバム、かな

久留間悟

……伊 芳臣、これだね

久留間悟

どこにでもいる優等生って感じだな

本田芙蓉

こちらは中学のアルバムのようじゃが

本田芙蓉

印象は変わっておらんな

ポスト

高校は行ってないのかな

ポスト

卒業アルバムは二冊しかないみたい

久留間悟

……いや、たぶん卒業してないだけだな

久留間悟

これ、見てみ

久留間が見つけたのは別の制服に身を包んだ写真だった

しかしその違和感に、本田の片眉が上がる

本田芙蓉

……ずいぶんと、面変わりしたものよ

呻くように漏らされた一言が示す通り

写真の中の人物は、面影がわずかに残るだけで

もはや別人と疑うほど、顔つきが変わってしまっていた

久留間悟

カメラのほう、見てもいない

ポスト

なんかにビビってるみたいだな

本田芙蓉

見えておるんじゃろうな

本田芙蓉

となれば

本田芙蓉

彼が苦悩を抱えたのはこの頃が転機か

久留間悟

……アイツの顔も姿も覚えてないけど

久留間悟

確かに、この顔に既視感がある

久留間悟

もしかして本人を知ってさえいれば

久留間悟

あのぐちゃボヤ野郎、少しは認識できるんじゃ

???

???

久留間悟

――ッ!?

突如窓の外から聞こえてきた声に、全身の血管が縮み上がる

ようやく辿り着いた正体に夢中になりすぎていたのか

気付けば、久留間たちが登ってきた旧道の方向から

覚えのある怖気が這い寄っていた

本田芙蓉

……胸騒ぎのする、なんとも不快な気配じゃ

本田芙蓉

アレか

小さな問いかけに、無言で頷く

その緊張の糸がゆるゆると張り始めた頃

それはぞるりと、割れた窓から液体のように入り込んだ

ポスト

うわぁッ!?

悲鳴をあげたポストが、飛び上がって本田の後ろに隠れる

やがてずるずるとした体は一定の形を整えたのか

ゆっくりとその目を向けた

???

???

???

???

???

ニチャニチャとした声が、残念そうでもなく嗤う

それを本田は眉根を寄せて凝視し

袖口に腕を納めて口を開いた

本田芙蓉

可愛い教え子なのでな

本田芙蓉

みすみす化け物の餌にはさせんよ

???

???

???

本田芙蓉

今は上司じゃな

本田芙蓉

先日はわしの到着前に逃げておられたので

本田芙蓉

ろくに顔合わせも出来なんだが

本田芙蓉

ようやっと会えました

本田芙蓉

一度きちんと礼をせねばと思っておりましてな

久留間悟

……じっちゃん?

???

???

本田芙蓉

いやいや、こう言ってはなんじゃが

本田芙蓉

お前さんのおかげでずいぶん儲かりました

本田芙蓉

その点では感謝せねばなりますまい

ポスト

ボス!?

???

???

???

???

ポスト

ボス、なんてこんな奴に……!

ポスト

今までそんなこと一言も……!!

本田芙蓉

失望させたなら申し訳ないがな、ポスト

本田芙蓉

会えたなら真っ先に礼を言わねばと

本田芙蓉

ずっと思っておったんじゃよ

本田芙蓉

ポストは下がっておいで

ポスト

ボス!!

本田芙蓉

あぁ、ほうじゃ

本田芙蓉

もう1つ大事な礼をせねばならなんだな

にこやかに笑み、袖の中をもそもそと探る

どうやらなにか差し出すつもりらしいと

その手元に全員の注意が向けられた

転がり落ちたのは、飛行機で渡された飴玉

それを全員が目で追った瞬間だった

???

理解しがたい声が、飴玉の後を追うように落ちる

その声に久留間が視線を、ソレに戻した途端

眼鏡の奥の瞳が驚愕に見開いていた

本田芙蓉

うちの可愛い新妻を

本田芙蓉

よぉも巻き込んでくれたのぉ

下から斬り上げられた刀が、わずかな光を反射して銀に光る

抜刀と同時に切り裂かれたらしいのは、頭の横に生えた足一本

やがてそれがずるりとすべって地面に落ちると

まるで絵の具が水に溶けるように消え失せた

???

久留間悟

……いわゆるお礼参りの、お礼ね

久留間悟

じっちゃんがあんなこと言うわけないと思った

ポスト

よがっ……!

ポスト

よがっだぁ……!!

ポスト

ボス、悪い奴になっちゃったのかと思ったぁ……!!

本田芙蓉

ほほっ

久留間悟

でも、コイツ斬って大丈夫?

久留間悟

もしかして、眞珠さんにも傷が……

本田芙蓉

いや、心配はいらんはずじゃ

本田芙蓉

あの苔を食べたためかな

本田芙蓉

今はあやつの境界が、ぼんやりとじゃが見えて……

???

???

本田の言葉を遮るように、ソレの口から歌がこぼれた

それは喉がざらつくような不気味な声で

歌詞の意味さえも分からない、民謡めいた音階

しかしその音が鼓膜を揺らし始めると

久留間と本田に、目に見える異変が起こり始めた

本田芙蓉

ぐっ……!?

久留間悟

なんだ……!

久留間悟

力、抜けて……!!

ポスト

え、え!?

ポスト

なに!?どした!?

久留間悟

ポストコ、転移……!!

久留間悟

離脱しなきゃ、ちょいマズい……!

???

???

ポスト

ッ、ボス!!

腕の一本が、本田の首にまとわりつく

それが細い首を締め上げると、掠れた呻き声が漏れた

???

???

???

???

???

???

久留間悟

んな馬鹿なこと……!!

本田芙蓉

ポスト、くーちゃん

藻掻くように絞り出された声色が

苦しげにもかかわらず、強制力を持ってその目を直視させる

本田芙蓉

お逃げ

久留間悟

――っっ!!

有無を言わさぬ指示

その言葉に弾かれたように、久留間はポストを引っ掴んだ

久留間悟

ポスト、行くぞ!

ポスト

でも、でもボス……!!

久留間悟

助けられなくなるのが一番ヤバいんだよ!!

見捨てるわけがないと言い放つ一言に打たれ

ポストと久留間の姿が掻き消える

それを安堵の表情で見送った本田だが

背後で、裂けるように笑んだ口がニチャリと音を立てた

???

???

???

???

???

カタヅケ屋霊異記【完結】

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コメント

10

ユーザー

個人情報の粗探しとか何も景気よくなくて草 さすがくーちゃん…() …というかそうじゃなくて!!(謎のノリツッコミ) 今ちょっと私の容量を超えてしまった…死なないでみんな…(落ち着けよ)

ユーザー

まっ、あ、え、ちょっ、じっちゃんカッケー!!!とか思ってる場合じゃねぇな!?!?

ユーザー

大変なことに……((((;゚Д゚)))))))

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