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雨の日だけ、ここには本が届く。
それは、どこかの
誰かが流した涙から生まれた本。
悲しみの涙。
喜びの涙。
後悔の涙。
誰にも見せなかった感情が、
静かに文字になって、
この図書館へと運ばれてくる。
街の外れ、
人通りの少ない石畳の道を抜けた先に、
古びた建物がひっそりと佇んでいる。
看板には、こう書かれていた。
「雨を預かる図書館」
その図書館の窓辺で、
一人の司書が静かに本を並べていた。
雨嶺 桜月 アマミネ サツキ
窓の外では、今日も雨が降っている。
この図書館では、
雨の日になると必ず一冊、本が届く。
どこから来るのか、
誰が運んでくるのか、
それを知っている人はいない。
ただ気がつくと、
入口の前の小さな机の上に、
濡れていない本が一冊置かれているのだ。
桜月は、入口の扉を開けた。
ひんやりとした空気と、
雨の匂いが流れ込む。
そして今日も、そこにあった。
一冊の本。
桜月は、そっとそれを手に取る。
本の表紙は、深い藍色。
夜の雨空のような色だった。
表紙には、まだ何も書かれていない。
この図書館の本は、
人の涙から生まれたあと、
ゆっくりと文字が浮かび上がる。
誰の人生なのか、
どんな涙だったのか。
それが分かるのは、
ほんの少し時間が経ってからだ。
桜月は本を胸に抱え、
静かな図書館の中へ戻る。
高い天井。
木の本棚。
窓を叩く優しい雨音。
この場所には、
数え切れないほどの人生が並んでいる。
けれど、
そのすべての本に、
一つだけ共通することがあった。
"まだ生きている人の本は開けない。"
それがこの図書館の決まりだから。
桜月は今日届いた本を、
新しい棚へそっと置いた。
するとその時だった。
表紙に、ゆっくりと文字が浮かび上がる。
桜月は思わず目を細める。
そこに書かれていた名前は_____
「雨嶺桜月」
桜月の手が止まった。
その時、
やけに、雨音が大きく聞こえた。
まるで、
私の落ち着かない心を表すかのように。