テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ギャンブル
りんご
904
19
朽華 歌仙
78
黄色い部屋を離れても、校歌は消えなかった。
動く床の音に混じり、6人分の歌声が聞こえる。
浅井香流。
牧原志穂。
加藤麻冬。
根来歌音。
津田心路。
若林安曇。
菜々美は、脱落した少女たちの名前を繰り返した。
けれど、誰がどの声だったのか、すでに判別できなくなり始めている。
歌手を夢見た少女の声。
弟の名を叫んだ少女の声。
最後まで、自分の方が高得点だと訴えた少女の声。
声だけが残り、その顔を思い出せない。
生島菜々美
忘れないため、何度も名前を思い返す。
だが、歌音の顔より、95という数字の方が鮮明だった。
生島菜々美
新倉穂乃花
生島菜々美
穂乃花も、何かを言いかけて口を閉じた。
2人の間を、死んだ少女たちの校歌だけが流れていく。
およそ1分後。
動く床が止まった。
6人の前には、深い緑の光に満ちた部屋が広がっていた。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
壁も床も、濃淡の異なる緑に染まっている。
若葉のような明るさはない。
湿った森の奥を思わせる、暗い緑だった。
壁には葉脈のような線が走り、ゆっくり明滅している。
生きている――
菜々美には、そう見えた。
新倉穂乃花
和久井莉乃
立花瞳子
中央には、6つの個別ブースが円形に並んでいた。
半透明の緑の壁で区切られ、中には椅子と大型モニターがある。
モニターの前には、2つのボタン。
左に白い文字で《WIN》。
右には《LOSE》。
半透明の壁越しでも見える、大きな文字だった。
曽我部小恋奈
小野田摩智
その声には、苛立ちより警戒が滲んでいた。
第6試練で、自分より高得点の歌音が吊られた。
勝者となった摩智も、その意味を受け止めきれていない。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
6人は互いを見ながら歩き出した。
菜々美がブースへ入る。
背後で壁が閉じ、他の生徒の姿がぼやけた。
声も聞こえない。
生島菜々美
返事はなかった。
完全に隔離されている。
モニターが点灯した。
《WIN》――
《LOSE》――
2つの文字が交互に明滅する。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
生島菜々美
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
【SYSTEM】
生島菜々美
【SYSTEM】
【SYSTEM】
生島菜々美
6人のうち2人が死ぬ。
残るのは4人。
シード権保有者2人を含め、次へ進むのは6人となる。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
生島菜々美
【SYSTEM】
モニターが暗転する直前、短い文章が表示された。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
生島菜々美
映像が始まった――
黄色い光に染まる、第6試練の部屋。
2台の歌唱装置。
頭上の黄色いバルーン。
中央に映るのは、曽我部小恋奈だった。
小恋奈は87点。
隣には、85点の浅井香流。
生島菜々美
香流の首に紐が巻きつき、身体が持ち上がる。
両脚が激しく空を蹴った。
浅井香流
小恋奈は、その光景を見つめている。
恐怖に引きつった顔。
震える唇。
菜々美は、あの時の表情を覚えていた。
笑ってはいなかった。
だが、映像の小恋奈は――
香流が動かなくなった瞬間、わずかに口元を緩めた。
安堵したように。
勝利を喜ぶように。
生島菜々美
映像が停止した。
小恋奈の微笑だけが、静止画として残る。
【SYSTEM】
【SYSTEM】
2つのボタンが点灯する。
《WIN》――
《LOSE》――
30秒のカウントダウンが始まった。
コメント
1件
読み終わりました。第6試練の余韻がまだ生々しくて、校歌が鳴り続ける描写がすごく怖かったです。顔を思い出せなくなるのに数字だけは鮮明に残る、あの感覚――「また数字になってる」の一文が痛くて、菜々美の内面がじわじわ迫ってきました。新しく始まった「勝者/敗者を判定させる」試練も、勝利した者だけが勝利を記憶できるというルールも、とても好みです。小恋奈の微笑みが本当の記憶なのかシステムの補完なのか、その境界があいまいなまま次の問いへ進む構成が秀逸ですね。続きが気になります。