その星の住人は皆楽器を持っていました。
いつでも、どこへ行く時でも皆必ず楽器と共に行動していましたが
絶対に演奏を行ってはいけない、と言う決まりがありました。
1人の少年が大人の人に尋ねました。 「どうして楽器を持ってるのに演奏してはいけないの?」
大人の人は言いました。「そう言う決まりだからです」 少年は首を傾げました。「決まり?誰が決めたの?」
大人の人は今度は面倒臭そうに言いました。「決まりは決まりです。そんなことより勉強をしなさい」
大人の人の答えは皆同じで少年は納得出来ませんでした。 「どうして演奏してはいけないんだろう
皆演奏したそうにしてるのに」
コミュニケーションはとれる方だ。
中学に入学してから他校の人達と「友達」と呼べる関係を築くのに、1週間はかからなかった。
廊下側の一番後ろのオレの席の周りにはあっという間に6~7人が集まった。
その中の1人がニヤニヤ笑いながら「鳴沢柚月っているだろ」と言って来たが、最初は誰のことを言ってるのか分からなかった。
「あいつって親が遊びでヤってたら出来た子供なんだぜ。空気読まずに生まれた子供」
指さす方を見ると、未だ1人で休み時間を過ごしている背の低い男子生徒がいた。
この時は「そりゃ売れ残るわ」ぐらいにしか思わなかった。
__それからたぶん2週間後。
席でペン回しの練習をしていると手元が狂ってシャーペンが床に落ちた___のと同じタイミングで柚月が横を通った。
柚月の上靴の先がシャーペンに当たってオレのシャーペンは数メートル転がった。
「あ、……ごめっ…………ごめんなさい…」
「吉田ぁー、シャーペン転がって来たぞ」
蚊の鳴くような途切れ途切れの声は友達の声に遮られた。友達はオレにシャーペンを放る。
キャッチしたシャーペンは芯が中まで折れていた。
授業が始まるチャイムが鳴り、柚月はもう一度クソ小さい声で謝ると会釈らしき物をして去って行った。
__芯を出しっぱなしにしていたオレに非があるのは分かってる。 だけど謝るならもっと大きな声で謝って欲しいし
シャーペンを取りに行くくらいはしてくれてもいいんじゃねーの。 ___と思った。
そんな小さな不満は いつまでもオレの中に居座り、柚月の行動1つ1つが鼻につくようになった。
すげートロイ奴。イライラする。
___そして梅雨に差し掛かった時。 オレは母親の長電話の内容を偶然耳にした。 あのトロイ柚月のことだった。
「鳴沢さんって昼夜問わず旦那と……シてるんでしょ。………え?一度離婚したの?まぁデキ婚? やだ、それって教育上どうなのかしらね
ところどころ言葉を濁していたがオレはちゃんと内容を把握出来た。
保健体育の教科書に必ず載ってるアレ。
「それ」がオレと同じクラスで、オレのシャーペンを蹴った人のすぐ近くにある___。 身体が熱くなった。
汚
実際そう口にしたのかは覚えていない。
だけどあの瞬間、初めて柚月に対するイライラが霧散した。
「ああ演奏したい。演奏したら絶対楽しいはずなのに。
そうだ!大人の人がいない間に ちょっとだけ演奏してみよう」
母親から聞いたことを いつもオレの周りに集まる友達全員に話した。
汚い。不潔。 その言葉はすぐに出て来た。
___梅雨が明けて 最初に柚月の情報を提供してくれた友達と、席を立とうとした柚月の肩がぶつかった。
そいつは謝りもせずに近くにいた人に汚い物を擦り付けるような仕草をした。 「菌がついた。あげる」
鏡を見なくてもどんな顔をしているか分かった。 胸がスッとして最高に気持ち良かった。
オレは自分の席から声を張り上げた。
「逃げろ、性欲モンスターになるぞ」
ズボンの布地を掴む柚月の手が震えていた。
少年は、大人の人がいない時間になると ちょっとだけ楽器を演奏してみました。
楽器から出た その音を、少年はとても美しいと思いました。
「こんなに美しい音が出るなんて。なんて楽しいんだろう。 ああもっと、もっと演奏したい」
少年は びっくりした顔でこちらを見ている皆に声をかけました。
「皆も一緒に演奏しようよ。大人の人がいない間にすれば怒られないよ。
皆も演奏したかったんでしょ。とっても楽しいよ」
少年の言葉に背中を押され、1人、また1人と楽器を演奏する人が増えていきました。
絶対に演奏してはいけない楽器から出る美しい音は素敵なハーモニーを作り人々を夢中にさせました。
大人の人がいない時間になると、人々は少年の後をついて楽器を演奏するようになりました。
団結力があって笑いの絶えないクラス。 オレはそのクラスの中心になった。
____柚月の親のことは夏休み明けには学年中に知れ渡っていた。
最初は遠巻きに同情の眼差しを向けていた奴らも、次第にすれ違う時に息を止めたり大袈裟に距離をあけるようになった。
言っとくけどオレが命令したわけじゃない。 __「火遊び」を繰り返す親を持ち、トロくてまともにゴメンナサイも言えない柚月に
誰もが嫌悪感を抱くようになっただけだ。
だから 私物を隠しても破壊しても鳥の死骸を机の中に突っ込んでも頭の上で雑巾を絞っても
チクる奴は誰もいない。
団結力があって笑いの絶えないクラス。 オレはそのクラスの中心になった。
それは2年なっても変わらなかった。
幸か不幸か、また同じクラスになった柚月の足を引っかけて新しく出来た友達に柚月の親のことを話せば手続きは完了する。
オレの周りに集まる人がほんの少し変わっただけで やる事は同じ。
孝太とも そう言う風に出会った。
ある日のことです。 一緒に演奏を楽しんでいた仲間の1人が言いました。
「ぼくはもう演奏しない」 「どうして?」少年は尋ねました。
「だって演奏してはいけないって言われてるんだよ。ぼく達は悪いことをしてるんだよ」
そう言ってその人は演奏に参加しなくなりました。 少年は
「今更何を言ってるんだろう」と、少し不満に思いました。
孝太の様子がおかしくなったのは2年の学年末テスト期間に入ろうとした時だ。
柚月の机の寄せ書き制作に わざわざ誘ってやったのに歯切れが悪い。
なんかゴニョゴニョやった後にやっと返って来た返事は「見張っとく」だった。 ためといて それかよ。はっきり言えよ。
しかも自分で言い出したくせにその任務を全うしない。
産休に入った先生の代わりに数学を教えることになった、やたら張り切ってる若い教師に見つかりオレは生徒指導室に連行された。
直線的な言葉を記していなかったことが幸いした。 「軽いイタズラでした。反省してます」と殊勝な男子生徒を演じれば楽勝だ。
薄々勘づいているだろうけど面倒事は避けたい学年主任の「ちゃんと謝っておくように」の1言で釈放されるはずだったのに
代打の分際でやたら張り切っている数学教師のせいで 結局2時間拘束された。
大人のくせに暗黙の了解って言葉知らねーのか。
いや そもそもこうなったのは孝太のせいだ。
この モヤモヤを効果的に発散させる方法は___知ってる。
とりあえず孝太はシカトする。
お独り様生活に慣れてない孝太は、わずか2日目で体育で柚月にテニスを教えると言う奇行に出た。
優しいオレは「柚月に牛乳をぶっかけたらシカトをやめる」と言う簡単なミッションを与えてやったのに
孝太は昼休み終了間際まで動こうとしないばかりか、牛乳をあの数学教師に渡しやがった。
あれはマジでムカついた。
それでもあの時手を出さなかったから我ながら凄いと思う。
オレが所属する学年では、オレに逆らう奴はいない。
はずだった。
消し去るべき因子が2匹出現した。
___靴を隠せば放課後2人で探す。 ___掃除当番を押しつければ放課後2人で掃除する。
カースト底辺に叩き落としたはずなのに柚月と孝太は特に堪(こた)えた様子も無く学校生活を送っている。
時々楽しそうに笑ってたりする。
仲良しこよしの友情物語__________
なんの茶番だ。
演奏する仲間は1人いなくなりましたが、それが何だと言うのでしょう。 少年にはたくさんの演奏仲間がいました。
「あいつムカつく」 そんな感情は誰でも持ってる。
それは人を傷つけるから発散させたら駄目だと大人は言う。
でも誰もが持ってて、誰もが発散したいと思ってる。 オレはちゃんと理解してる。
その星の住人は皆楽器を持っていました。 絶対に楽器を演奏してはいけない決まりでしたが
大人の人がいない時間になると、住人は少年を先頭に軽快なマーチを演奏しました。
だからオレは先頭に立ち続ける。
これは四天王の物語____。
コメント
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なるほど...吉田くんはそんなことを考えていじめしてたんですね... というか吉田くんの家庭にもなかなか問題がありそうな気がします() でも...四天王はいつか倒される運命!改心しろ!!! (荒ぶりました失礼しました)