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翌朝。 教室に着くと、二葉の姿がない。
一條恭平
意外に思いつつ俺が席に着いた時に、左ポケットがブルルと震える。
携帯を取り出して画面を見る。着信は二葉からのメッセージだった。
ようやく返ってきたか……そう思ったのもつかの間、たった一言の短い内容を見て、俺の思考は止まった。
二葉桐男
放課後になり、生徒棟を出た俺は、その足で正門付近に建つメディアセンターへと向かった。
入ってすぐにある事務室で、複合プリンターを操作していた所に、
三国綾乃
三国が血相を変えて飛び込んでくる。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
ピーピーという音を立ててスキャンが終わる。
俺は先生からの依頼で、学校に来れない二葉に代わり、ノートやらプリントやらをPDFにまとめていたのだ。
スキャン元の資料を取り出した俺は、複合プリンターの画面の操作を始める。
スキャンしたデータは、ここから各生徒に配布された連絡用のメールアドレスに送れるはずだ。
操作の間も、三国が心配そうな顔で尋ねてくる。
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
いきり立つ三国を宥める。
二葉のアドレスにデータを送った俺は、場所を変えようと事務室を出る。
適当な場所を求めて廊下を歩きつつ、誰も聞いていないことを確かめてから、三国に詳しい事情を話し始めた。
ホームルームの連絡では、二葉は貰い事故に遭ったと先生が話していた。
恐らく、他の生徒の不安を煽らないための判断だろう。だがその真相は完全な強盗致傷事件だ。
俺は授業中や休み時間に、先生の目を盗んで二葉とメッセージでやり取りし、事の仔細を聞き出していた。
昨日の放課後、二葉も独自に勧誘活動をしていたが、特にめぼしい成果もないまま、1時間半後には学校を出て、バス停へと向かった。
ただし、運悪く文化部の帰宅ラッシュと被ってしまい、バス停前がかなり混み合ってしまったため、徒歩で歩けるところまで歩こうとした。
途中で近道のために路地裏に入った所、後方から自転車の走行音が聞こえてきた。
道を譲ろうと端に寄ったものの、直後に自転車に激突されてしまったという。
最初は、向こうも自分を避けようと端に寄ってしまったのかと思ったそうだが……。
倒れ込んだ二葉に対し、相手は謝るどころか、ポケットをまさぐり、財布を奪おうとしてきたという。
その時点で激突が故意だと気付いた二葉は、必死に抵抗したものの、あえなく財布を抜かれ、中に入れていた一万数千円を奪われた。
相手はトドメとばかりに、ぶつけた二葉の右足を何度も踏みつけたあと、そのまま自転車に乗り逃走した……。
人気のない非常階段にやってきたところで、あらかた事情を話し終える。
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国は腕を組んで深く考え込んでいる。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
俺は心中でツッコミを入れる。まあ、彼女に話した時点でこうなることは覚悟していた。
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
非常階段の三段目に座り込み、俺は頬杖を突く。まあ、三国の質問に否定はしない。
二葉には悪いが、俺とて友達にここまでの怪我を負わされて、黙っていられるほどまだ更生はできていない。
どうにかして犯人をサツよりも早く見つけ出し、一発入れてやりたい気分だ。
ただ……三国を呼んだ一番の理由は、事件のことを話すためではない。
一條恭平
三国綾乃
三国はいかにも興味津々といった様子で迫る。
香水かシャンプーか、少し甘めのウッディな香りが俺の鼻腔にふわっと流れた。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
昨日の夕方、優紀に取り憑いた生霊の件を話す。
話を聞き終えた三国は、眉間にシワを寄せつつ、
三国綾乃
と、一言。嫌いな食べ物を口に突っ込まれたように苦々しい表情だ。
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
俺は深いため息をつく。
分かってはいたことだが……あのおぞましい霊に取り憑かれているのも、全て優紀の自業自得なのだ。
霊だけ祓ってもらおうなんて虫が良すぎる。
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国の申し出を、俺は即座に、力強い口調で断る。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
俺が三国の下心を言い当てると、彼女は少しひるんだ。
一條恭平
三国綾乃
前のめりで俺が詰め寄ると、一応彼女は頷いてくれる。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
俺はしっかりと頷く。まあ、俺が理解したところで余り意味はないのだが……。
三国に護符の手配を任せ、俺は彼女と別れる。
一條恭平
犯人の手がかりを知ってそうな奴と言えば……すぐに思い浮かんだのは、
一條恭平
そう思い立ち、携帯で優紀にメッセージを入れるが、返事はない。
とりあえずこっちから会いに行こう。中庭に出た俺は、早歩きでD棟に向かう。
D棟の昇降口に着いた俺は、上履きに履き替えようとして……気付く。
履き替えるも何も、ここに俺の下駄箱はないじゃないか。どうすればいいんだ?
???
悩んでいた所に、聞き覚えのある声。
廊下の方から、香月が不思議そうな表情でこちらに歩いてきた。彼女は上靴を履いている。
一條恭平
香月七瀬
一條恭平
一條恭平
香月七瀬
一條恭平
先生のようなお硬い態度でたしなめられる。クラス委員長にそんなズルを相談したのが間違いだった。
香月七瀬
一條恭平
香月七瀬
スカートのポケットから、ちらりとデジカメを覗かせる。なるほど、今も新聞部の活動中ということだと。
一條恭平
香月七瀬
俺は香月に別れを告げて、B棟に向けて歩き出す。しかし……
香月七瀬
やや焦った声で、彼女に呼び止められた。俺は引き返す。
一條恭平
香月七瀬
一條恭平
香月七瀬
香月は踵を返して、渡り廊下の方へ歩いていく。
どうして彼女が優紀と……そう思った時に、昨日四宮が香月と友達だと言っていたことを思い出した。
四宮と優紀が友達だったとしたら、その関係で香月も優紀と縁があってもおかしくない。
いや……というかそもそも、香月と優紀は内部進学組だ。先に2人が中等部で知り合い、優紀を通して四宮と香月が仲良くなったと考えるのが自然だろう。
一條恭平
B棟で靴を履き替えた俺は、急いで渡り廊下を歩き、香月の元に向かった。
一條恭平
香月七瀬
一條恭平
一條恭平
香月七瀬
廊下を歩き出してすぐ、彼女が神妙な顔で口を開く。
香月七瀬
一條恭平
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
一條恭平
香月七瀬
香月七瀬
一條恭平
図星を突かれて、俺はうろたえた。香月はふふっと笑ってから話を続ける。
香月七瀬
香月七瀬
一條恭平
香月七瀬
香月七瀬
一條恭平
俺は彼女に気取られないよう、視線を合わせずに頷いた。
二葉を襲った犯人の聞き込みに来た……だなんて、到底言えない。
10組に着いた俺たちは、近くにいた生徒に優紀の居場所を聞く。しかし……。
生徒
名前を出した途端、視線は伏し目がちになり、警戒の雰囲気がにじみ出てきた。
……こういう反応が返ってくるのは、覚悟はしていた。
生徒
生徒はそう言い残して、逃げるようにその場を去ってしまう。
別の誰かに当たるか……そう思って辺りを見渡す。
しかし、クラスの生徒は示し合わせたかのように、顔を伏せて俺達とは目を合わせない。
一條恭平
香月七瀬
教室を出てすぐ、香月はやや落ち込んだ様子で話す。
香月七瀬
香月七瀬
一條恭平
香月七瀬
香月七瀬
うつむく香月。レンズの向こうで寂しそうに目を泳がせる。
一條恭平
一條恭平
香月七瀬
俺の言葉を聞いて、香月は勢い良く顔を上げた。曇っていた表情がぱあっと明るくなる。
一條恭平
一條恭平
一條恭平
香月七瀬
一條恭平
一條恭平
香月七瀬
俺が尋ねると、香月の顔色がまた変わった。さっきと同じ暗い顔……いや、それよりは物悲しいような面持ちになる。
そのまま彼女はまたうつむいて、少しの間黙り込んでしまう。
どうしたんだよ……俺がそう声をかけようとした時に、
香月七瀬
一條恭平
鈍感な俺は、そこでようやく気付き、息をつまらせる。
彼女が二の句を継ぐ前に、自分から話を変えた。
一條恭平
香月七瀬
一條恭平
一條恭平
香月七瀬
一條恭平
俺は香月に短く別れを告げて、D棟の廊下を足早に歩き出した。
一條恭平
B棟に戻り、靴を履き替えて外に出た俺は、自分の無神経さを恥じる。
優紀の家にまで行ったという時点で察するべきだった。同性の俺がアイツと遊ぶなどとは訳が違うのである。
香月七瀬
香月の切ない表情が忘れられない。
生煮えのまま心の片隅に追いやっていた感情が出てきそうになるのを、必死にこらえている……。
あの時の彼女は、そんな顔を浮かべていた。
昨日の堅物な態度からは想像もつかない、彼女の一面を覗いてしまった気がする。
恐らく、俺が優紀の友人だからこそ、彼女も誤魔化すことはしなかったのだろうが……。
一條恭平
予想だにしなかった三角関係に戸惑う。とりあえず、これ以上3人の仲には立ち入らないでおこう。
一條恭平
一條恭平
パンフレットやホームページで何度も目にした、広大な明学の敷地を思い出し、俺はげんなりする。
あてもなくうろつくよりは、アイツに送ったメッセージの返信が来るのを待った方が良いじゃないんだろうか……。
そう思った時に、携帯が細かく震えた。
優紀からか……? と思ったが、画面の相手は三国。それも通話だ。俺は応答のアイコンをタップする。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
声を出さずにため息をつく。こいつはどこまで理事長権限を乱用するつもりなのだろうか。
一條恭平
三国綾乃
一條恭平
三国綾乃
三国綾乃
一條恭平
通話を切った俺は、香月にメッセージで優紀の場所を伝えてから、携帯をしまって走り出した。
最短ルートを走り、俺は柔剣道場までやってくる。そのまま裏口へと回った。
一條恭平
五代優紀
上級生A
優紀は女子生徒の胸ぐらをつかみ、銃剣道上の壁に押し当てている。俺は慌てて駆け寄った。
一條恭平
五代優紀
勇気の肩を掴んで無理やり引き剥がす。女子生徒はげほげほと咳き込みながらその場にうずくまった。
上級生A
五代優紀
五代優紀
上級生A
一條恭平
優紀はいまだ怒りが冷めない。彼が手を出さないよう、2人の間に割り込む。
……同時に、女子生徒が逃げ出すことのないよう、それとなく逃げ道を塞いだ。守りはするが、カツアゲをしていた奴を見逃すつもりはない。
一條恭平
五代優紀
一條恭平
五代優紀
優紀は後半の質問には答えない。代わりに、観念した様子で、目の前の上級生が口を開く。
上級生A
一條恭平
それで俺は思い出した。二葉が話していた、優紀と揉めた生徒が、同じ名字だったことを。
上級生A
上級生A
上級生A
沈んだ口調で、女子生徒はぽつぽつと語る。
もちろん、理由があればカツアゲをして良いわけではないが……恐怖と申し訳無さが混じったその雰囲気に、少しだけ同情の念を覚えた。
上級生A
上級生A
一條恭平
上級生A
五代優紀
上級生A
しおらしい態度で女子生徒は懇願してくる。
流石に可哀想になった俺は、優紀をガードしつつ、そっと道を空ける。彼女はすかさず脇を走り抜け、一目散に逃げていった。
五代優紀
一條恭平
五代優紀
タッタッタッタッ
軽い足音が聞こえてくる。女子生徒が走っていった方を見ると、香月が息を切らせて向かってきていた。
香月七瀬
五代優紀
香月が少し怒ったような口調で呼びかける。優紀はまた舌打ちした。
香月七瀬
一條恭平
香月七瀬
俺の弁明は切って捨てられる。
香月七瀬
五代優紀
香月七瀬
一條恭平
声を荒げて優紀に詰め寄ろうとする香月をなだめる。
彼女は普段とはかけ離れた荒々しい雰囲気で、俺の身体越しに不満をぶつける。
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
五代優紀
香月がどれだけ説得の言葉を重ねても、優紀は耳を傾けているようには思えない。しかし……。
香月七瀬
五代優紀
香月が、四宮の名前を出した途端、
五代優紀
俺の後ろで優紀が叫んだ。ヒリついた気迫と合わせて、アレルギー反応のような、強い拒絶の雰囲気を感じる。
五代優紀
一條恭平
くるりと反転して、優紀の肩を強めに掴む。どれだけヒートアップすれば気が済むのか。
優紀は肩をいからせ、ぎりっと歯を噛み締めている。
怒っている……というよりは、癇癪を起こしているような、少し幼稚な迫力を感じた。
五代優紀
五代優紀
怒りがやや静まった後、優紀はそう香月に言い残して、不意に背を向けて歩いていってしまう。
香月七瀬
一條恭平
追いすがろうとする香月を、俺は制した。ああなった優紀は、もう放っておくしかない。
五代優紀
少し離れたところで優紀は足を止め、俺たちに背中を向けたまま話す。
一條恭平
一條恭平
余計な疑いをかけられる前に、自分から釈明する。
やはり、あの時四宮が言っていた『友達』は優紀のこと……。
昨日の夜にでも、メッセージか何かで四宮が優紀に話したのだろう。俺と優紀の関係も知らずに。
五代優紀
ジャッ ジャッ ジャッ
それだけ言い残して、優紀は再び砂利道を歩き出す。
俺たちを一瞥することもなく、ぶっきらぼうな足取りで、柔剣道場の角を曲がり、そのまま姿を消した。
香月七瀬
香月が切なげに呟く。
足音が聞こえなくなり、もうアイツに声が届かないだろうと確信してから、俺は口を開いた。
一條恭平
香月七瀬
香月七瀬
俺の後ろで香月が話し続ける。彼女の顔を見るのに気が引けて、そのまま話を続ける。
香月七瀬
香月七瀬
香月七瀬
一條恭平
香月七瀬
香月七瀬
一條恭平
香月の声に、悲痛な色合いが滲んでくる。小さくだが、えずく声も聞こえてきた。
一條恭平
彼女を安心させるように、穏やかに口を開く。
一條恭平
一條恭平
一條恭平
白々しい調子で話を続ける。
実際には俺も、一緒になってやらかすタイプなのだが、今の見た目なら説得力も出るだろう。
香月七瀬
香月は俺の言葉に、安心したような声を発した。
一條恭平
一條恭平
ためらうことなくそんな思考に至り、我ながら全く更生できていないことを自覚する。
ただ、相沢たちを前にした時、俺の方が優紀より冷静でいられる自信はある。
アイツはカッとなると手がつけられなくなるタイプだし、お目付け役は必要だろう……勝手な理屈かも知れないが。
一條恭平
一條恭平
一條恭平
香月七瀬
俺の忠告に、香月は素直に従ってくれる。
相沢たちの他にも、あの生霊に襲われないようにと言う配慮もある。まあ、こちらは言ったところで信じてくれそうにないが……。
もう顔を見ても大丈夫だろうと思い、俺は振り返った。
香月七瀬
少し弱々しくはあるが、いつもとそう変わらない態度で、香月が俺に頼んでくる。
一條恭平
若干の罪悪感を抱えつつも、彼女を安心させるように、俺はしっかりと頷いた。