私
…
私
いつからだっけ?
私
自分が誰か分からなくなったのは。
お母さん
楓。期末テストはどうだったの?
私
5教科489点だったよ!
お母さん
さすが楓ね。
私
でも学年2位…。
まだまだ頑張らないと。
お母さん
楓が2位?珍しいわね。間違えたところも復習しておきなさいね。
私
うん、もちろんやるよ!
私
じゃあ私課題と明日の授業の予習してくるから2階行くね!
お母さん
えぇ、行ってらっしゃい。私も仕事に行ってくるからね。
私
…あ
私
そういえば美紀ちゃん
私
家族で旅行行くんだっけ
橘 美紀は私の友達だ。
…いや、
友達と言っていいのか分からない。
私がひとりで勉強してるときよく話しかけてくるだけだから。
学年1位を取られたのも彼女だった。
私
…
私
なに、これ
私
なんなのこの感じ
私
…!!
私
…
私
…誰?
お母さん
楓、お友達が来てるわよ
私
うん、わかった!出てくるね!
美紀
もしかして勉強してた?ごめんねぇ、かえでちゃん
私
ううん、全然平気
美紀
ほら、私この前家族で旅行行くって言ってたじゃん?
美紀
大人数の方が楽しいし、かえでちゃん1家も一緒に来ない?
私
…
私
それじゃあ私たちも…
お母さん
ダメですよ!うちの子は勉強にしか興味がないんだから!
私
…え…
美紀
あ…
美紀
あ〜!そうですよね!ごめんなさい
美紀
他人と旅行ですし気も使いますよねー!
私
…!
お母さん
用が済んだならさっさと帰って頂戴!
美紀
お邪魔しました〜…!
私
…
お母さん
本当に迷惑な子供ねぇ
私
…そうだね
私
…
お母さん
かえで?どうしたの?
私
……
私
お母さんはさ。
私
なんで私を産もうとしたの?
お母さん
…?
お母さん
そんなのもちろん貴方を賢い学校に入れて幸せにするためよ。
私
…ふーん
私
そっか。
私
…ありがとう。
お母さん
えぇ。かえでのためならどんな教材だって買うわよ。
私
…
私
…もういや。
私
疲れた。
私
なんでだか分からないし、
私
消えた方が楽な気がする。
私
後悔なんてしない。絶対に。
私
さよなら、私
美紀
通話
00:00
私
…え
美紀ちゃんから電話?
なんてタイミングが悪いんだろう。
私
美紀ちゃん?
美紀
かえでちゃん!!
私
どうしたの?美紀ちゃん?
美紀
それはこっちのセリフだよ!
私
…え?
道路を見渡すと、今にも泣きそうな美紀ちゃんの姿がいた。
私
…なんで?
私
なんで止めるの!?
美紀
…?
美紀
友達だからだよ!!
私
友達ならね!友達のしたいことは止めないんだよ!
美紀
…わたし!…私がかえでちゃんに死んで欲しくないの!仲良しでいたい!
私
…え?
私
…あ
私
そうだったの
私
私って…
私
誰かに必要とされたかったんだね。
私
きっとお母さんは私を必要としてない。
私
自慢の娘が欲しかったんだろう。
私
あぁ…なんか
私
体に力が入らな…
美紀
かえでちゃん!!
私
…ん
美紀
かえでちゃん!大丈夫?
私
…どうしたの?そんなに慌てて
美紀
あの時ベランダから本当に落ちちゃったんだよ!
美紀
生きててよかった…!
私
…
…なんか、暖かい。
嬉しい…の?
これが「幸せ」なのかな
私
…大丈夫。
私
…でも
私
なんでそんなに私を大切にしてくれるの?
美紀
…
美紀
分かんないよ。
私
…そっか。
美紀
でもね。何となく
美紀
私と似てる…仲間な気がするんだ。
私
美紀ちゃんが私と?
美紀
うん
美紀
…
美紀
私ね。
美紀
お母さんから虐待されてるんだ。
美紀
家族で行く旅行も
美紀
多分私はお母さんに嫌がらせされる。
私
…
美紀
私もかえでちゃんと同じく自殺しようとしたんだよ
美紀
でも
美紀
やっぱり死ぬってなったら怖くて。
美紀
怖くっ…!
私
泣かないで、美紀ちゃん!
美紀
うんっ…ごめん
私
私も美紀ちゃんの味方になるから
美紀
ほんと?
美紀
っ!…ありがとう!!かえでちゃん!!
私
あ
お母さん
楓!!大丈夫!?
私
うん…大丈夫
お母さん
きっとあんたがやったんでしょ!?飛び降りろって脅したんでしょ!?
美紀
え!?やってないです!
お母さん
嘘おっしゃい!優等生の楓がね!飛び降り自殺なんてするわけっ
私
…お母さん
私
ほんとだよ。飛び降りようとしたの
お母さん
…は?
私
…疲れたの。
お母さん
疲れた?
お母さん
それはどこのどいつのせいなの?言ってご覧?
私
…
私
…
お母さん
?
私
あんただよ…
お母さん
あ、アンタ!?
お母さん
なんて口の利き方するの!?
お母さん
お母さんは楓をそんな風に育てた覚えはありません!
私
お母さんは…
私
私を本当に愛してるの?
お母さん
…もちろんよ?
私
じゃあ、テストで赤点をとっても?
お母さん
…それは…
美紀
…あの〜…
美紀
部外者ですが…お母さん。
お母さん
…
美紀
かえでちゃんはただ
美紀
愛されたかったんだと思います
お母さん
…は!?十分愛してるじゃない!!
お母さん
食事だって作ってるし、勉強だってさせてあげてるわよ!家のローンだって私がひとりで全部払ってやってるのよ!?
お母さん
これ以上何を望むのよ!!
私
要らないよ!!そんなの、
お母さん
え?
私
お母さん!!
私
私が欲しいのは!!
私
お母さんとの思い出!
私
週末は家族みんなでお出かけに行って、外食も食べて!
私
お母さんとの幸せが欲しかったの!!
私
賢い学校に行くなんて幸せでもなんでもないよ!
お母さん
!!!!!
お母さん
…そう、なのね
お母さん
ごめんね、かえで
お母さん
長くなるけど話しても良い?
私
…
私
聞くよ。お母さんの話なら。
お母さん
お母さんね、お父さんとお母さんからいじめを受けていて、愛がどんなものか分からなかったの。
お母さん
学校にも通わせてくれなくて、家まで追い出されて、毎日近くの公園でひとり遊んでいたわ。
お母さん
放課後は学校の生徒が遊びに来て、勉強できない私をからかって、その時の私はとても辛かった。
お母さん
大人になって結婚したの。
お母さん
結婚相手も私と同じ勉教ができない人。
お母さん
…そんな時、
楓を産んだけど、お父さんに逃げられた。きっと浮気かなにかでしょうね。
お母さん
楓と2人きりになった時、それを思い出して決意したの。
お母さん
この子にはあんな思いさせたくないって。
お母さん
私にとっての幸せは、学力だったの。
お母さん
でも、あなたの幸せは違った。
お母さん
本当にごめんなさい。
私
…お母さん…
美紀
…
私
ねぇお母さん。
私
私たち、親子やり直そうよ。
お母さん
…どういう意味?
私
これまでのこと、なかったことにするの。
お母さん
…許してくれるのね。
私
…許す?
私
お母さんは何も悪いことしてないよ?
私
私のことを真剣に考えてくれたんだよ。
お母さん
ありがとう。これからは勉強なんて考えなくてもいいからね。
私
…うん。でも頑張るよ
美紀
かえでちゃん、良かったね!
私
…あ
私
美紀ちゃんもお母さんと話そ!
美紀
…え?
美紀
…大丈夫だよ!痛いのも慣れたし、
私
…そんなの嘘だよ
私
虐待されるなんて慣れれるはずないよ。
美紀
…でも
美紀
また怒られて殴られたら痛いもん
美紀
ねぇ、見て。
美紀ちゃんはシャツの1番上のボタンを外して、首元を見せた。
私
傷?それと、殴ったあとみたいなもの…
美紀
お母さんがお父さんにバレないように殴ったりされてるんだ。
私
…お父さんは?
美紀
私が1番好きな人。
美紀
でも、お父さんは半年くらい出張でいないの。
私
そっか…
美紀
…
私
ねぇ
私
お父さんが出張してるところって?
美紀
東京のど真ん中だよ
美紀
…まさか、そこに行くとか?
私
それしか美紀ちゃんを助ける方法がないんだよ。
美紀
かえでちゃん…
私
私、まだ退院しちゃダメだけど、
私
明日、新幹線で東京行こ!
私
それでお父さんに本当のことを言うの!
美紀
…
美紀
本当に私、救われるのかな
私
大丈夫。
私
〜…ん
私
…もう6時?
私
…いてて
私
…まだ全身痛い。
私
今日…美紀ちゃんを救うんだ。
私
…あ!
私
美紀ちゃ〜ん!
美紀
…あ
美紀
かえでちゃん…!
私
…大丈夫だからね。
私
私が絶対救ってあげる。
美紀
…うん。
新幹線乗ってる時、本当に楽しかった。私が美紀ちゃんの不安を紛らわすために用意したカードゲームは、いつもの笑ってる美紀ちゃんだった。
私
…ついたよ!
美紀
…うん。
美紀
…えーと
美紀
確かここら辺の…
私
もしかしてここ?
美紀
あ、そう!
会社の人
…君たち、どうしたんだい?こんなところで話していたら危ないよ?
私
用があってきました。
私
橘さんって人、ここにいますよね?
会社の人
…会社の事情に関して俺は何も言えないんだよなー…
美紀
会社に用はないです!お父さんに用があります!
美紀ちゃんはそういうと、
私の手を強く引っ張って工事現場へ走りだした。
会社の人
…って、おい!勝手に入るな!!
会社の人
ったく…!
私
早く見つけないと追い出されちゃうかも!
美紀
うん!頑張って見つけよう!
そうは言っても、大規模な工事みたいだし、なかなか見つかりそうにない。
私
…!!
振り返ると、大学生くらいの小柄で眠そうな男性がいた。
美紀
お父さん!!
私
!?
私はうしろをもう一度振り返った。
本当にこの人なんだろうか?
私
この人が…
美紀の父
美紀…とお友達?どうやってここまで来たんだ?そもそもなんでここに来たんだ…?
美紀の父は相当混乱しているようだ。
それも当たり前だ。自分が遠出して、娘と見知らぬ女が自分の目の前にいるから。
美紀
…ごめんね、かえでちゃん。
美紀
2人きりになってもいい?
私
…いいよ。
美紀
ねぇお父さん…!
美紀
助けて…
美紀の父
どうしたんだ!!その傷は!!
美紀の父
大丈夫か!?誰にやられた?
美紀
落ち着いて聞いてね。
美紀
…お母さんなんだ。
美紀の父
真紀…が?
美紀
信じて貰えないかもだけどほんとなの!!
美紀の父
…そういえば確かに
美紀の父
美紀は俺が会社に行くことを酷く悲しんでいたな。
美紀の父
お父さん美紀を信じるよ。
美紀
もうお家に帰りたくないっ!!
美紀
お父さんと、一緒にいたい!
美紀の父
…分かった。お父さんに任せろ。
美紀の父
今すぐ真紀と絶交する。
美紀の父
美紀と二度と会うなって言ってやる。
美紀
ありがとう…!!
私
美紀ちゃん…
私
大丈夫かな…
すると、美紀ちゃんと美紀ちゃんのお父さんがやってきた。
私
あの…!
美紀の父
大丈夫だぞ、…
美紀の父
…
美紀
…この人は藤原 楓ちゃん。
美紀
私の親友だよ。
美紀
かえでちゃん!この人は私のお父さんの橘 一樹です。
私
よろしくお願いします
美紀の父
あぁ。こちらこそよろしく。
美紀の父
藤原くん。美紀を連れてきてくれて本当にありがとう。
私
…いえいえ!
私
美紀ちゃんは私の命の恩人なんです。
私
その恩返しっていうか…
美紀の父
どんな理由にしても、君は俺の恩人だ。
美紀
かえでちゃん、ありがとう。
私
…うん!
会社の人
…あの〜
美紀
あっ!さっきの…
美紀の父
このことは秘密にしておいてくれ。
美紀の父
急用ができて帰ったとでも言っておけ。
会社の人
あ〜、分かりゃっした!先輩の言う事っスもんね!じゃお気を付けて〜
新幹線では、お父さんと美紀が楽しそうに話していた。私はそれが嬉しかった。
美紀の父
すー…
美紀
すー…
私
あ
私
2人とも疲れてたんだね〜
私
…ふふ
私はスマホも持ってないから、暇を潰すことが出来なかった。
私
美紀ちゃんとお父さん!!起きてください〜
美紀の父
…んぁ…?
美紀
ふぁ〜…
私
着きましたよー
美紀
あ、ありがとうかえでちゃん
私
うん、行こ
美紀
あはは!お父さんちゃんと寝なよ〜
美紀の父
あ〜久しぶりにちゃんと寝たよ
私
うわ…
美紀
…ごめんね、散らかってて
美紀
どれだけ片付けしてもお母さんがまた散らかしちゃって…
私
美紀ちゃんのお父さん?どうしたんですか?
美紀の父
…俺の前だけ…いい顔しやがって…
お父さんは、破られた自分と美紀ちゃんで撮った写真を持っていた。
美紀
あぁ、それ?
美紀
私がお母さんにお父さんに会いたいって言ったら、あんたなんかに合わせるわけないって破られて、ゴミ箱に入れられたんだけど、私がそれを取ったんだ。
美紀
これ、お気に入りだったのにな…
私
美紀ちゃん…
美紀の父
また一緒に写真撮ろうな。
美紀の父
今は真紀だ。あいつは今どこにいるんだ?
美紀
お母さんならそろそろ帰ってくると思うけど…
美紀の母
ただいまぁ〜美紀カス
美紀
…
美紀の父
…
美紀の母
いつき…!!
美紀の母
…おかえりなさい!!
美紀の母
いつもより早いわね〜さ、お風呂でも沸かしてくるわね…!
美紀の父
お前が美紀を虐待してたのは本当だよな?
美紀の母
…は?なんのことよ?
美紀の母
私がこんなに可愛い子に暴力なんてするわけ
美紀の父
美紀に触るな
美紀の父
俺は今本当かどうか聞いてるんだ。
美紀の母
…う、嘘よ!
美紀の父
じゃあ、美紀のこの傷は誰がやったんだ?
美紀の母
…。
美紀の母
そ、そんなの…知らないわよ…
私は美紀ちゃんのお母さんの嘘があまりにもあからさま過ぎてクローゼットから出てしまった。
私
…驚かないんですね
美紀の母
驚くに決まってるでしょ!てかアンタ誰よ!
美紀の母
不法侵入じゃない!は、早く出てきなさいよ!
美紀ちゃんのお母さんは私を家から追い出そうとした。
美紀の父
やめろよ。この人は俺の恩人なんだ。
美紀の母
は?こんな奴が恩人?笑っちゃうわねぇ
美紀
かえでちゃんのことを悪く言わないでよ!
美紀の母
…こいつ…!!!!
美紀の母
いつきの前だからって調子乗って…クソっ!!
美紀の父
調子乗ってんのはどっちだよ!?
美紀の母
…チッ
美紀ちゃんのお母さんは恥ずかしさを紛らわすために舌打ちをし、
焦ったように家から出ていった。
美紀
私…救われたの?
私
うん…!助かったんだよ!美紀ちゃん!
美紀
…よかった…うわぁぁん!!
美紀の父
もう大丈夫だからな。
私
本当に良かった。
それからは、お父さんはこれまでどうり働き、美紀がご飯を作ったり家事をこなしているらしい。
私たちは同じ大学に入って、普通の生活を送っていった。
私
そこで美紀のパパが超怒ったんだよねー!
美紀
お父さんかっこよかったよね〜!
私
ね〜!
美紀
…楓
私
ん?
美紀
私たちこれからもずっと一緒にいようね。
私
何よ〜!急に
私
…当たり前でしょ?