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その靴の噂は、ずっと昔からあった。
“ガラスの靴を履いた者は、ひとつだけ願いを叶えられる”
――代わりに。
“その者の記憶も、存在も、この世界から消える”
まるで、最初からいなかったかのように。
そんなもの、ただの伝承だと思っていた。
あいつに会うまでは。
あいつは、薬屋だった。
正確には“薬屋の息子”。
小さな頃、
木に引っかかったスカーフを取ってもらった時に出会った。
誰よりも知識があって、誰よりも危なっかしい。
V.N
そういった時も、笑っていた。
L.M
――昔から、そういうやつだった。
俺は裕福な家に生まれた。
何も困らない生活。
でもあいつは違う。
泥だらけの道を歩いて、誰かのために薬を作る。
それでも、あいつは楽しそうだった。
V.N
揶揄うように呼ぶ声。
L.M
V.N
笑う顔が、やけに頭に残る。
ある日。
城の奥に保管されていた“ガラスの靴”が消えた。
嫌な予感がした。
理由なんて、考えるまでもない。
森の外れ。
そこは星空が綺麗で、昔から。
ばぁうと俺の隠れ家的な場所だった。
誰も知らない、誰も来ない。
静かな場所に、あいつはいた。
手には――ガラスの靴。
L.M
声が低くなる。
分かってるくせに、聞いた。
V.N
あいつは、軽く笑う。
V.N
ふざけるな。
そう言いたかったのに、言葉が出ない。
L.M
V.N
即答だった。
迷いもなく。
胸の奥が、ぐっと締め付けられる。
L.M
少しの沈黙。
風でばぁうの赫色の髪が揺れる。
V.N
小さく、でも確かに言った。
L.M
食い下がる。
聞かなきゃいけない気がした。
V.N
その一言で、全部察した。
あいつは、そういうやつだ。
自分を削ってでも、誰かを救う。
それが家族だろうと他人だろうと関係ない。
昔から、ずっと。
L.M
声が荒くなる。
止めなきゃいけない。
絶対に。
V.N
珍しく、強い声だった
V.N
その言葉に何も言い返せなくなる。
正しい。
きっと、正しい
でも、
L.M
気づけば、靴を奪っていた。
L.M
L.M
あいつが、驚いた顔をする。
初めて見る表情だった。
L.M
言葉が止まらない。
L.M
L.M
静寂。
さっきまでの強さが、少しだけ揺らぐ。