扉の先には階段が続いていた。
司
どこまであるんだろ……
そう思いながらも歩を進めると、階段の最下部に着いた。
司
なんか、寒いな…
薄手の長袖の司は身震いをした。
すると、その時だった。
_____♪ …
どこからか聞き覚えのあるピアノの音がしてきた。
司
…この曲、初めてのコンクールで弾いた曲だ
幼い頃の司
母さん!あの曲、じょうずに弾けるようになったよ!
母
そうね、前より上手になってるわ
幼い頃の司
えへへ
幼い頃の司
オレ、コンクールで1番になれるようにがんばるね!
本番の日
初めてステージに立った司は、その光景に思わず目が眩んだ。
観客、全員が自分を見ている。
その視線は、「元プロピアニストの息子」という大きな肩書きからだった。
そんな緊張した場面で普段通り弾きこなせる度胸は持ち合わせている訳もなく
司の発表は、間違いだらけの運指で終わってしまった。
幼い頃の司
ひぐっ…っ……ごめんなさい…っ
母
……初めてだもの。これから練習していけば大丈夫よ
母の慰めには、葛藤が隠れていた。
観客の期待の眼差しが、落胆へと変わっていく雰囲気が、自責の念を後押しした。
少年
おれは…っ…ちゃんと弾かなきゃ…っ
少年
失敗しないで…ちゃんと完璧に
少年
母さんの息子だから…っ
いつの間にか目の前に現れた少年は、嗚咽混じりに弱音を吐いた。
その泣き方、言葉、全てに身に覚えがあった。
司
(嫌な思い出だ……、早く行こう)
司は思い出したくなかった思い出を、足早に通り過ぎた。
幼い頃の自分の泣き声から逃げるように