短編

ヒールの音が響く

カツ、カツと規則正しく

もしここに他の人が居たなら目を奪われるに違いない

そう思わせる風格のある、このお方

この方の2つ名を言えば意味の分かる者は恐怖する

そんな裏の世界を知っている方である

その方の隣を、何も疑わない顔で歩く

そして、扉を開けて止まる

帽子を脱ぎ、上司に挨拶をする

自分も同じ様に帽子を脱いで挨拶をする

主の許しで頭を上げる

ビシッと俺の方を指さす神使様

がやがやと賑わう声

時々香るカクテルと香水の香り

辺りを見渡し、予約していた席を探し座る

あの後、神使様方の部屋から出てきた後からずっとこんな感じである

…正直、勘弁して欲しい

自分は人前に立つだけでこんなになるのに

彼女はまるで物怖じをしてない

…ダメだ、俺もしっかりしなくては

これは、仕事

今から始まるのは嘘と嘘の中から矛盾を見つける

そんな、簡単なゲームだ

夫婦の女の方は、俺を値踏みするような目で見ている

あれは恐らく、いくらで売れるか考えている目だ

それが自分だけに向けられているならまだいいが

……夫婦の男の方は、お嬢にその目を向けていた

……手加減など、必要ない

この後、スノードロップさんの所に行く方が哀れだ

でも、俺の大切なお嬢にその目を向けるのとは

話が変わってくる

チラッとリンカさんの方を見る

にこっと笑っていたので何を話しても大丈夫なのだろう

ボーンと低いアナウンスの音が響く

あー、あー、テステス…

こほん、お客様にお知らせ致します

大変申し訳ないのですがお店の緊急メンテナンスのお知らせを致します

お客様につきましては、速やかな退店をお願い致します

繰り返します……

その声を合図に雇われた戦闘兵が出てくる

瞬間、無から銃を取り出し1発撃った

まずは、お嬢に危害を加えようと考えた人間から

それを合図にお嬢が銃を撃ちまくる

流石にそれは思っていなくてさっきまで使っていた机を立てて盾にして後ろにリンカさんと一緒に隠れる

その時に銃をスナイパーに変えるのも忘れずにしておく

そんな話をしていても銃声は止まない

お嬢が術を使ってリロードを無くしているのでずっと撃ち続けているのだ

もちろん、反動も無くして撃ちやすいようにするのも忘れずに

銃声が止まりドンッと何かを叩きつける音がする

次の瞬間、嫌な気配がして後ろを向いた

初めに撃ち殺したはずの奴がお嬢を狙っていた

しかも、お嬢は気がついてない

リンカさんの声を遮るように1発撃った

見事、ヘッドショット

術の制限を解除したので撃たれたところからドロドロと溶けていく

そして、相手を見ずに1発発砲

心臓を貫き、そいつは死んだ

正直、笑えないレベルでぼこぼこにされた

だが、これでも許されるほど彼らは立派に仕事をしてくれた

ずっと気になっていたことが一つだけあった

本当なら自分で気がつくべきなのだろうが俺はそこまで周囲を見れない