溢れて止まらない優真さんの涙
見ている私まで泣きそうになる
こんなにも愛し合っている二人が
もう直ぐ離ればなれになってしまう
あの時、優真さんがあすみさんを拉致しなければ
こんな風に引き離されることはなかったかもしれない
でもあんな形でなければ出会うことはなかった
一見すればどこにでもいる普通の男女
ただすれ違うだけなら気にも止めないだろう
優真さんが何かを感じて彼女の腕を掴み
あの広いマンションに連れ込んだ
掴んだのが別の女性の腕だったら
激しく抵抗されて近隣住民に通報されたかもしれない
それが起こらなかったのは
彼女が失声状態だったから……
違う
きっと彼女は
声が出せたとしてもあの場に残る道を選んだだろう
孤独を感じていた二人の心が共鳴し
優真さんの少し歪んだ愛を受け止めた
あのマンションに行ったからわかる
彼女はあそこで幸せを感じていたはずだ
優真さんのマンションに行った日
私はベッドルームにあった筆談ボードを写真に撮り
念のため筆跡を調べてもらっていた
優真さんを疑っていたわけではなく
当時のあすみさんのことを少しでも知りたいと思ったからだ
筆談ボードに書かれていたのは間違いなく彼女の字で
紙ではないため筆圧まではわからなかったが
字に震えなどもなく
嘘偽りのない彼女の思いが綴られていたことが判明
今、目の前で涙を流し優真さんを求める姿を見ても
優真さんへの想いは本物だとわかる
優真さんがトイレに立つわずかな時間さえも辛いのか
不安そうにいなくなった方角をずっと見つめて
優真さんが戻ってくると安心した顔をする
黙ったまま何も言わなくなってしまった優真さんに
あすみさんが問いかける
井川あすみ
井川あすみ
三村優真
井川あすみ
井川あすみ
井川あすみ
井川あすみ
三村優真
三村優真
三村優真
三村優真
法律的に無理だと言うことも彼女はわかっている
それでも心が追い付いていかない
それだけ優真さんのことを愛しているのだ
私達は面会時間ギリギリまで病院にいた
この日は特に彼女の心が不安定だったため
優真さんはお昼を食べに行くことができなかった
少しでも優真さんの手が離れると不安になるのか
トイレに立つわずか数分しか耐えることができなかった
三村優真
三村優真
沢田マリカ
三村優真
沢田マリカ
沢田マリカ
沢田マリカ
三村優真
そう言った直後
タイミングを見計らったように私のお腹の虫が鳴き
事務所に戻る前に食事をすることにしたが
優真さんは殆ど手を着けることができず
事務所に戻ってからも俯いたまま
梶原智香
梶原智香
沢田マリカ
沢田マリカ
沢田マリカ
梶原智香
もう少ししたら
彼女は一般病棟に移ることになる
二人のタイムリミットが
刻一刻と迫っていた