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トーマ
おれはアルラの手から 自分のスマホを奪い
チェーンを手で引き 歩きやすい体勢になった
いまだにトゲが食い込んだ部分は 痛んでいるが
なんとか 歩を進めることができた
その時
ブザーを鳴らすような 作動音が部屋中にびびいた
アルラがいた側の 壁が横にスライドする
トーマ
トーマ
その奥には 狭い通路が続いていた
アルミ板のような 床面が
上部に設られた光を てらてらと反射していた
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
助けなくては
おれは正義感につき動かされ 通路へと進んだ
詩乃が生きているという 微かな希望を胸に
さまざまなシーンを 連想した
1年ぶりの再会を果たして
涙を流しながら 抱き合うふたり
「待ってたのに!」と言われて 平手を打たれ
それでも「こっちもだ」と 詩乃を抱きすくめる
泣きじゃくる詩乃の頭を撫で
「もう大丈夫だよ」と やさしく語りかける
どんな光景が広がっているのか
右足にまだ若干 痛みが残っている
だが 詩乃に会いさえすれば
おれがこれまでしてきたことは 全て報われるはずだ
トーマ
トーマ
どうしたことだろう
奥へ進めば進むほど 頭が重くなるような
めまいがするような
異常な感覚が 増していく
トーマ
トーマ
だが身体のふらつきは 治ることなく
与太波を受けた船のように おれの意識は転覆し
何かに飲み込まれた
「助けて…」と か弱い声が聞こえる
おれは再び
夢の中だとはっきりわかる 夢を見ている
再びおれに 誰かが囁く
「助けて…」
詩乃なのか? だがその薄い声だけでは
断定できない
ロボットから発せられた 無機質な声ともとれる
「助けて…」 何度も何度もくり返される
おれはそこから 逃げ出したくなった
もうやめろ やめてくれ!
その刹那 光景がぱあっと明るくなった
トーマ
おれは 大きく息を呑んだ
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
足元にはまだ痛みがあった
だがさっきまで感じていた重みはない
足輪は外されたのか?
それを見ようと
頭を動かすと
自分の身体が
車椅子に乗せられていることに気づく
両手をついて
立ちあがろうとしたが
手が動かない
トーマ
トーマ
よく見ると
手足が黒いバンドで
車椅子の肘掛けとレッグサポートに 拘束されている
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
トーマ
薄暗く狭い室内に 声が反響する
すると部屋の奥にある扉が
軋みながらゆっくり開いた
トーマ
トーマ
そこから現れたのは
髪の毛が真っ白な 一人の老婆だった
いや
皺は顔じゅうに刻み込まれているが
おれはその人が誰か知っている
トーマ
トーマ
菜子
詩乃の母、植村菜子は にいっと不気味な微笑を見せて
ぼくに近づいてきた
トーマ
菜子
菜子
菜子は落ち着き払った口調で 淡々と言う
トーマ
トーマ
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
トーマ
トーマ
トーマ
菜子
菜子はおれの椅子の 隣に配置された机から
1冊のノートを持ってきた
菜子
菜子
最初のページを開く
菜子
次のページを開く 数学で使うベクトルのような記号が
所狭しと書き込まれている
菜子
菜子
菜子
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菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
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菜子
菜子
菜子
菜子
トーマ
トーマ
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菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
菜子
トーマ
トーマ
トーマ
菜子
菜子
菜子
菜子