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「トイレの花子さん」というのは、みんな聞いたことがあるだろう。でも、僕の学校には、「トイレの太郎さん」というのがある。太郎さんは、いじめられて、三階の男子トイレの窓から飛び降りてしまった男の子だと言う。鏡に向かって「太郎さん、出ておいで」と言うと、後ろに立ってるそうだ。願い事を叶えてくれるけれど、その後、その子を鏡の中に引き込んでしまうと言う。もちろん、誰もそんな話を本気にしてないけれど、三階のトイレに行きたがらないのは、やっぱり、ちょっと怖いせいだろう。僕も、それは同じだった。でも、ある日______僕は本当に、太郎さんにあってしまったのだ。
勇也
勇也が、ニヤニヤしながら、僕に言った。最近、よくやる「命令ゲーム」だ。最初は、ジャンケンで勝った人の命令を、みんなでやる遊びだった。それが、いつからだろう。命令するのは勇也、命令されるのは僕で、他のみんなは笑って見ている____そんな遊びになってしまったのだ。
勇也
勇也
勇也
_________命令されるたびに、僕は奥歯をぎゅっと噛み締めて、言う通りにした。そうしなければ、仲間外れにされて、いじめられるからだ。その日も、怖がりな僕に嫌がらせするために、勇也は命令した。命令に逆らうことはできなかった。僕は、重い足を引きずって、三階のトイレに行った。トイレは、休み時間なのに、誰もいなくて、シーンとしていた。勇也たちはニヤニヤしながら僕を見ている。
勇也
コウキ
勇也
勇也が目を吊り上げた。僕は唇をなめ、やっと行った。
コウキ
ふっ、と冷たい風がほっぺたをなでた。キイイッ、とかすかに個室のドアが開いた。勇也はドキッとして振り向いたが、そこにはなにもなかった。
勇也
勇也たちは、ワイワイいいながら、出て行ったが______僕は、そのまま、その場に立ち尽くしていた。ついていけば、また命令される。それを考えるだけで、体が重たい石になってしまったようだ。ぼんやりと鏡を見つめた僕は、ふと、気がついた。鏡に映る僕の後に、男の子が立っている。女の子みたいなおかっぱ頭で、色白な男の子だった。髪に隠れて、目は見えない。その子の口が動いた。
太郎さん
コウキ
僕は、振り向いて、後ろを見た。しかし、誰もいなかった。ギョッとして、もう一度鏡を見ると、そこに男の子はいた。
太郎さん
また、声がして、冷たいいきが耳にかかった。僕は恐ろしさのあまり、悲鳴も出なかった。ガクガクと震える僕の後で、鏡の中の太郎さんがいった。
太郎さん
3度目に聞かれた時、僕は、とうとういってしまった。
コウキ
太郎さんはニヤッと笑うと、すうっと消えた。その時だった。遠くでキャーッという声が聞こえた。誰かが叫んでいる。
皆
僕は立ちすくんだまま、もう一度、鏡を見た。そこにはもう、太郎さんはいなかった。勇也は、大けがをして救急車で運ばれた。大きな病院で手術を受け、命は何とかとりとめたが、いつ学校に来られるのか、分からない_____先生がそう言った時、僕は心臓を何かに掴まれた気がした。(まさか、勇也のケガは、僕が?)お腹の底がツーッと冷たくなり、そのうち、しくしくと痛くなってきた。それはどんどんひどくなり、とうとうがまんできなくなった。
僕は先生に言って、授業をぬけると、保健室に行った。いや、いくつもりだったのだ。それなのに______。