まずい、殺され…
っか、
ふっか、
……この声、
ふっか!
それは、俺が中学生の時だった。
俺は所謂クラスの一軍で、女子にまぁモテたし、男子からも人気だった。
男子生徒
男子生徒
男子生徒
俺は部活にも委員会にも入ってなくて、友達も多い癖に誰とも遊んでなかった。
…本当は、部活したかったし
友達とも遊びたかったし
……家になんて、帰りたくなかった。
…だって。
父親
妹
俺と妹は、父親から虐待を受けていた。
罵倒されて、殴られて、蹴られる
それが毎日続くもんだから、本当にしんどくて。
家に帰りたくなかったし、
父親の顔も、苦しそうな妹の顔も見たくなかった。
昔は、こんなんじゃなかった。
父ちゃんは優しくて、妹もずっと笑顔だった。
なのに、なんであんなことになったんだろう。
……そうだ、あの時だ。
俺らがまだ小さい頃に母ちゃんが病死してから、俺たち家族は狂いだしたんだ。
父ちゃんはどんどんやつれていって、妹は家族の前で笑顔を見せなくなって。
俺も、心の底から笑えなくなった。
父ちゃんの苦しそうな顔も、
辛そうな妹の泣き顔も、
もう、見たくなかった。
だから俺は、いつも逃げて、散らかった部屋で1人泣いていた。
…助けを求める妹の目を、見て見ぬふりをして。
俺は俺の家族が大好きだった。
優しい父ちゃんと、面白い母ちゃんと、かぁいいかぁいい妹。
金持ちだとか、芸能人に知り合いがいるだとか、そういう特別なものもない、どこにでもいる普通の家族。
でも俺は、その『平凡』が、どうしようもなく愛おしかった。
あの頃は、そんな普通で楽しい日々が、ずっと続くものだと思ってた。
『幸せ』というものは、どうして亡くしてからでないと気づけないんだろう。
『幸せ』というものは、どうしてこんなに脆いものなんだろう。
俺は、この理不尽な現実を、何度も何度も憎んだ。
嫌いだ。
行き場のない怒りを俺らにぶつける父ちゃんも、
俺らを残して死んだ母ちゃんも、
俺らばっかりにこんな酷い仕打ちをする神様も、
…逃げてばっかりの、俺自身も、
その日も、いつものように父の怒号と妹の悲鳴に満ちた部屋から逃げるように、学校へと向かった。
学校では、自分が生きていることを実感できた。
何もかも大嫌いな俺も、この場所だけは好きだった。
友達も、先生も、正直何言ってるか分からない授業も、堅苦しい制服も、心地よくてたまらなかった。
ずっとここにいたい、そう思っていた。
その時、春の麗らかな空気を切り裂くようなけたたましい音が鳴り響いた。
着信音。俺のスマホからだ。
画面に表示されたのは、『父ちゃん』という4文字。
全身からサッと血の気が引く感覚がした。
俺は急いで屋上に駆け込み、応答のボタンを押した。
父親
電話越しに聞こえた父の声は、普段からは想像もできないぐらい震えていた。
父親
俺も、怖くて声が震えた。いつ怒鳴られるか分からない状況に、立っているので精一杯だった。
…でも、
父が次に発した言葉を聞いて、俺はもう、立つことすらできなくなった。
父親
父親
一瞬、頭が真っ白になった。
でもすぐに、混乱で頭が痛くなった。
気づいて、しまった。
気づきたくなかった。
あの日から酒を買いに行く以外で外に出なかった父ちゃんが、『殺してしまった』人。
そんなの、1人しかいなかった。
父ちゃんが殺したのは、
妹だった。
父親
父親
まだ春だというのに、身体が焼けそうな程に熱かった。
頬を伝うものが、汗なのか涙なのかも分からない。
息が出来なくなって、視界が霞んだ。
俺の意識は、そこで途切れた。
俺のせいだ。
俺がずっと、逃げてきたから。
だから、妹は死んで、父ちゃんは人殺しになったんだ。
俺が、ちゃんとしてれば
1度父ちゃんをぶん殴って、正気に戻せてれば
うちは、もっとまともな家族になってたはずなのに
俺が、壊したんだ
全部全部、俺が…
?
?
?
?
?
?
?
俺が…?
?
?
?
?
…あぁ、そうか、そうだったんだ、
やっぱ、お前は優しいなぁ、
……でも、それでも、俺は、
?
『ふっか…ふっか…!』
?
?
?
っ、戻ら、ないと、!
窓辺の棚に置かれた花瓶には、1輪の花が刺さっていた。
あいつは、今もどこかで苦しんでる。
だから、今度は俺がちゃんと救わなきゃ。
俺はこの時、そう決めたんだ。
コメント
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うわぁぁまってすき、
え…待って久しぶりすぎない?!((通知来たから来てみた! こんぶです!