新条
(この交番に配属されて、もう数か月か)
新条
(今のところ毎日、特に事件もなく終わっていく)
新条
(このままずーっと…)
新条
(のんびり仕事できたらいいなぁ)
新条
(なんてね)
河合
…新条!
新条
っっ!?
新条
は、はいっ!
河合
やっと返事したな
新条
ええっと…
新条
何度か呼んでたんですか?
河合
ああそうだよ、まったく…
河合
いつまでも新人気分でボーっとすんなよ
新条
すみません…気をつけます
新条
それで、何かあったんですか?
河合
ああ
河合
ついに新条も、あの家に行くべき時が来た
新条
えっ…?
新条
まさか、あのゴミ屋敷にですか?
河合
そうだ
河合
一昨日、捜索願いが出された小学生がいただろ?
河合
その子が、あの家を訪れていたという情報が入った
河合
そこで、事情聴取に行くことになったんだ
新条
僕1人で、ですか?
河合
いや、俺もついて行くから安心しろ
新条
うう、嫌だなぁ…
河合
なんだ?
河合
俺と一緒に行くのが、そんなに嫌か?
新条
そ、そうじゃないんです!
新条
(ああ…ついにこの時が来てしまったか)
新条
(僕、ダメなんだよなぁ…)
新条
(名前も出したくない、黒いアイツが…)
新条
ここが、うわさのゴミ屋敷…
河合
ちゃんと見るのは初めてか?
新条
はい、近寄らないようにしてたんで
ゴミ屋敷は、そこそこ大きな洋式の家だった
広い庭には草がぼーぼーに生えている
家の壁にはツタだらけで、実に不気味だ
新条
ところで、このあたりって妙に静かですね
新条
あんまり人の気配がないというか…
河合
この家のせいで
河合
近隣住民が次々と引っ越してるんだ
河合
何度苦情を入れても、一向に改善をしないからな
新条
なるほど…
新条
(この家に住んでるのは、おじいさん1人らしいけど)
新条
(めちゃくちゃ頑固で嫌なジジイなんだろうなぁ)
河合
…さて
河合
ここで突っ立てても、らちが明かない
河合
インターホンを押すぞ
ピンポーン
老人の声
はい
老人の声
ああ、警察の方ですか
老人の声
どうぞ、お入りください
新条
(あれ…?)
新条
(声だけ聴くと、優しい人っぽいなぁ)
河合
ほら新条、行くぞ
新条
は、はい!
新条
(うわぁ…門から玄関まで長い草だらけ…)
新条
(河合さん、うまく歩いてるなぁ)
新条
(しっかり後について行こう…)
カサッ
新条
っっ!?
新条
出たあああっ!
河合
どうした!?
新条
ゴ…ゴ…ゴゴゴ…!
河合
なんだ、ゴキブリか
新条
そうです!それです!
新条
今、踏みかけちゃいましたよっ…!
カサカサッ
新条
ひいいっ!また足元にっ!
怖がる僕を無視して、河合さんはどんどん進んでいく
新条
ちょっ…よくそんな平気でいられますねっ
河合
ゴキブリなんかで怖がってたら、男じゃねぇよ
河合
それに、この町に配属されたなら
河合
慣れないと大変だぞ?
河合
苦情対応の度に、ここへ来ることになるんだからな
新条
えぇ…そんなぁ…
河合
まぁでも、主人はいい人だから安心しろ
新条
(いい人だって…?)
新条
(何度も苦情を入れられて)
新条
(その度に、警察から注意される人が?)
カサカサカサッ
新条
ぎゃああああああっ…!
そうして、ようやく玄関へとたどり着いた
老人
河合さん、いらっしゃい
老人
さぁ、中でお茶でも飲みながらお話しましょう
出迎えてくれた老人は
綺麗なタキシードを身にまとっていた
その姿は、ゴミ屋敷には似つかわしくなかった──