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私たちと、秘密を抱えた兄弟たち

第2話 - バカは私か、世界か。

2025年12月05日

#虐待

#真帆

#水姫

#ほかにもいるよ

#グラコロおいしい

らむ

真帆

水姫の自立資金の件、本当に助かったわ。咲良、アパートの手配ありがとう。

莉子

マホちゃん、咲良ちゃん、本当にお疲れ様！私もお手伝いできてよかった！

咲良

フッ。私にかかれば、アパート探しなんてチョロいわ！

咲良

...。それよりさ、私の部屋の壁、もっとヤバいことになってんだけど。

莉子

え、どうしたの？壁に穴でも開けたの？

咲良

穴どころじゃねーし！私の部屋の壁に、妹のユキが、マジで理解不能な文字を、赤いペンキで書き殴ったんだよ！

真帆

ユキちゃんが...？自閉症の妹さんが、そんな行動を？

咲良

そう！しかも、その文字...「バカ」って書いてあったんだ...。

莉子

「バカ」...？

咲良

あれ、私のこと言ってるんだよな...？

真帆

落ち着きなさい、咲良。ユキちゃんの行動は、言葉の意味そのままとは限らない。

莉子

そうだよ、咲良ちゃん！もしかしたら、ユキちゃんがどこかで聞いた言葉を、ただ壁に書きたかっただけかも...。

咲良

でも、赤いペンキで書くなんて、ただ事じゃないだろ！ユキはいつも静かで、自分の部屋から出ないのに...。

咲良

マホ、助けて。私、時々、妹のことが重荷だって思っちゃうの。

咲良

周りの友達みたいに自由に遊びに行けなくて、すぐ家に帰らなきゃって...。だから、ユキは私が「バカ」だって、自分の面倒を見てくれない、自由を優先するバカだって思ってるんだ...！

真帆

...。

真帆

咲良。その言葉は、あなたに向けたものじゃないかもしれない。

真帆

ユキちゃんが「バカ」だと思っているのは、あなたたちの「両親」よ。

咲良

...。

咲良

うちの親...？

莉子

え、でも、咲良ちゃんのご両親って、ユキちゃんのこと、すごく大事にしてるって...。

咲良

...大事にしてる...フリなだけだよ。外ではね。

咲良

「なんでうちの子だけ普通じゃないの」って、いつもユキに聞こえないように文句言ってるし、療育の送り迎えとか、全部私に押し付けてくるんだ。自分の自由な時間がなくなるのが嫌で。

真帆

ユキちゃんは、あなたのそういう葛藤や、両親の隠された本音を、敏感に感じ取っている。

真帆

「バカ」は、妹が世界とコミュニケーションを取ろうとした、最初のメッセージよ。

咲良

...私、ユキに全部押し付けて、自分の自由ばっかり考えてた...。私が**「バカ」**だった...。

真帆

咲良。今、あなたがすべきことは、自分を責めることじゃない。ユキちゃんの「初めてのメッセージ」に、あなたがどう応えるかよ。

莉子

そうだよ、咲良ちゃん！ユキちゃんは、咲良ちゃんに気づいてほしかったんだと思う！

咲良

わかったよ。 ...私は、「自由」を愛してた。でも、妹が世界とコミュニケーションを取る手助けをすることが、私にしかできない「最高の自由」なのかもしれない。

咲良

マホ、莉子。今から、ユキの部屋に行く。

咲良

ユキと、チャットする。

真帆

チャット？

咲良

そう。ユキは言葉をうまく話せないけど、iPadでの文字入力はできる。壁に書いた「バカ」の横に、私が「私？」って書いて、その横に、ユキに何か書き加えてもらう。

莉子

それ...ユキちゃんとの、秘密の会話だね...！

真帆

...。素晴らしいアイデアよ、咲良。それが、あなたの「妹への責任」ね。

咲良

ユキ。これ、あなたが書いたんだよね。「バカ」って。

咲良

「バカ」

「...ワタシ？」

ユキ

「...ちがう。」

咲良

「ダレ？」

ユキ

「パパ、ママ」

「ユキのこと」

「いらないから」

「ユキもバカ」

咲良は、ユキの小さな手を握り、ユキが書いた「ユキもバカ」の下に、大きな文字で書き足す

咲良

「ユキはバカじゃない」

「世界は広い。ユキは自由」

「私が守る」

ユキは、壁の文字をじっと見つめ、初めて、咲良の顔を見て、小さく頷く

咲良

(通話)...ユキは、あなたがたが思っているより、ずっと賢い。そして、あなたがたが自分勝手で、ユキを邪魔者扱いしていることも、ちゃんとわかってる！

母親

何よ！あんた、いきなり何を言い出すの！親に向かってなんて口の利き方！

涼真

咲良、お前の自由勝手な時間を優先するために、妹の面倒を私たちに押し付けたのは誰だ？

咲良

私は「自由」を愛してた！でも、「妹の責任」から逃げたわけじゃない！あなたたちが「普通じゃない子」の面倒を見るのが嫌で、私に「押し付けていた」だけだろ！

真帆

（通話の向こうから冷静に）咲良のご両親。私たちも聞いています。もし、ユキちゃんの心のメッセージを無視し続けるなら、私たちは第三者として、適切な機関に相談することも考えています。

莉子

（通話）ユキちゃんは、「誰がバカなのか」を壁に書いたんです！ユキちゃんを助けてあげてください！

咲良

私が「バカ」だって言われるのは構わない！でも、ユキが自分を「バカ」だと思ってしまう世界は、間違ってる！

咲良

「バカ」は、私たち家族の誰かじゃなくて、「弱者に無関心な世界そのもの」なんだよ！

母親

...あ...あんた...。

咲良

ユキ。大丈夫。もう、誰もあなたのこと「いらない」なんて言わない。

私たちと、秘密を抱えた兄弟たち

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