テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
名無しさん

2,713
#だてこじ
Shota
165
楪羽*yuzuriha*
3,939
夜のテレビ局は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。 廊下の照明も半分落とされ、薄暗い。 康二は早足でエレベーターへと向かっていたが、後ろから、コツン、コツンと、自分とは違う足音が近づいてくる気配がした。 振り返っても、誰もいない。 だけど、確実に誰かの強い視線が、暗闇の中から自分を凝視している。 『今夜、あなたに本物の恐怖を教えてあげます』 手紙の言葉が脳内で爆音となって鳴り響く。 恐怖に支配された康二は、我を忘れて近くにあった半開きの重い扉の奥へと逃げ込んだ。 そこは、すでに本日の業務を終え、完全に真っ暗になった無人の大型スタジオだった。 大きな機材やセットの影に隠れ、康二は壁に背中を預けて座り込んだ。 しかし、恐怖で自律神経が完全に狂ってしまった身体は、もう言うことを聞かなかった。
康二
呼吸が上手くできない。 吸っても吸っても酸素が肺に入ってこず、喉の奥がヒューヒューと悲鳴を上げる。 過呼吸だ。 パニックを起こした康二の身体はガタガタと激しく震え、視界が急速に真っ黒に染まっていく。 誰か、助けて。そう叫びたいのに、声すら出ない。 意識が途切れそうになった、その時だった。 バタン、とスタジオの重い扉が勢いよく開く音が響いた。
蓮
暗闇を切り裂くように響いたのは、この数日間、ずっと拒絶し続けていた、誰よりも愛しい恋人の声だった。 目黒は今日のYouTubeの後、康二のあからさまな拒絶に激しく悩み、どうしても諦めきれずに、康二の単独仕事が終わるのを局内でずっと待っていたのだ。 そして、怯えた様子で楽屋を飛び出した康二の姿を見て、必死に後を追いかけてきたのだった。
康二
セットの隙間から漏れた康二の小さな喘ぎ声を、目黒の鋭い聴覚が見逃さなかった。 バタバタと激しい足音が近づいてきて、セットの影に倒れ込んでいる康二の元へ、目黒が滑り込むようにして膝をつく。
蓮
目黒はすぐに康二の異変を察知し、その細い身体を強く抱き寄せた。
蓮
康二
蓮
目黒は康二の冷え切った両手を自分の大きな手で包み込み、自分の胸に康二の顔を押し当てた。
蓮
ドクン、ドクンと、目黒の力強い鼓動が康二の耳に伝わってくる。 世界で一番安全で、世界で一番大好きな温もりに包まれて、康二のパニックが少しずつ、本当に少しずつ引いていった。 浅かった呼吸が、次第に深くなっていく。
康二
落ち着きを取り戻した瞬間、康二の瞳から、これまで張り詰めていた涙がボロボロと溢れ出した。 目黒は康二を壊れ物を扱うように強く、強く抱きしめながら、その髪に何度も唇を寄せた。
蓮
真っ暗な無人のスタジオ。 目黒の腕の中で激しく泣きじゃくる康二と、その背中をさすりながら、恋人をここまで追い詰めた「見えない悪意」に対して、目黒の瞳の中に激しい怒りの炎が灯っていた。
コメント
1件
わあ、第4話……めちゃくちゃ胸が締め付けられました。康二の過呼吸の描写が生々しくて、読んでるこっちまで息苦しくなった。そんな中で飛び込んできた目黒の声と体温、あのギャップがもう……安心感が凄い。普段あんなに距離を感じさせてたのに、一番必要な瞬間に彼を探し当てるのも、抱きしめて心臓を聴かせるのも、全部が「この二人、こうやって繋がってるんだな」って思わせてくれました。“お仕置きされる”って泣きながら言う康二が不憫で、でも目黒にはその意味がまだ伝わってない切なさもあって……続き、めちゃくちゃ気になります。お疲れさまです、ゆゆさん。