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老女

そうえ

老女

着物をなぁ、有名なお寺さんで供養してもらうんよ

老女

布団の上でもせんど話しとったぁす

老女

この辺りの家はな、どこの宗派でも、なに教に入っとっても

老女

葬式が済んだらみぃんな、そこにご供養に出しあすのや

老女

あっちでも着てくだされって焼いてもらうんやに

老女

……やのになぁ

老女

ずっと言っとった願いも叶えてくれんのんが情けなぁて

老女

自分でできやんもんか、なんとかやれんもんかとやっとる内に

老女

──桐箪笥とこれだけ、しょずむ……

老女

つまむくらいは出来るようになったんや

老女

そやでこり、自分でお寺さんに運ぼうとなぁ

渋谷大

あぁ、家からお寺さんに向かってたのか!

老女

そーだす

老女

けど他ん人からうちが見えんのはわかっとったし

老女

着物も引きずって行ったら目立つぅ思てな

老女

どうしょか思とったんやけど

老女

そうや今やったら空飛べるわぁて

老女

そんでなぁ

渋谷大

持ってた場所って、襟?

老女はうなずき、久留間は声を上げた

久留間悟

そういうことだったかぁー!

久留間悟

襟をつまんで空を行ってたわけだ

久留間悟

そりゃ着物が空を飛んでるみたいに見えるなぁ!

渋谷大

つまむしかできなかったんなら納得だな

渋谷大

引きずったらせっかくの着物も汚れるし

渋谷大

運び方としては妥当なんだろうけど

渋谷大

でも……

言葉を濁した渋谷が、運転席から老女を見返った

渋谷大

なぁ、ばあちゃん

渋谷大

この着物なくなって、息子さん夫婦が困ってないかな

老女

あの子らが?

老女

いやぁ、困っとらんて

老女

あの子、この着物かて覚えとらまいか

渋谷大

そうかなぁ

渋谷大

ばあちゃんが簡単に着物を取れたってことは──

渋谷大

桐箪笥を開けてすぐのところに片付けられてたんだろ?

渋谷大

供養に出せない理由があったのかもしれないよ

老女

そう、なんやろか……

その言葉に、老女は口を閉ざす

渋谷大

だからさ、今からばあちゃんちに行こう

一言に老女の顔が上がった

渋谷大

行って、ちゃんと話そ

老女

話す言うても……

老女

あの子ら、拝み屋さんの言うこと信じるやろか

久留間悟

あぁ、そこは大丈夫!

久留間悟

こいつちょっと、特殊な体質だからね

渋谷大

ここがばあちゃんちかぁ

渋谷大

結構遠いところから着物運んでたんだな

久留間悟

民家より田んぼが多いから、人目につかなかったんだろ

久留間悟

住宅密集地を通らなきゃ、発覚しなかったかもな

老女

うちも目立たんようにはしたかったんやけど

老女

5分くらいしか着物、持てんかったでな

老女

ちょっとでも早ぉ供養してもらお思たら

老女

住宅地通るしかのぉてねぇ

渋谷大

そんなに、未練だったんだな……

老女

……なぁ拝み屋さん、ほんまにいぬるんか?

老女

うちの子、変に気病やみなとこあるでな

老女

なんや失礼でもせんかと心配で……

久留間悟

ちょっと気難しい感じ?

久留間悟

大丈夫だよ、こんな職だからね

久留間悟

キツいこと言われるのは慣れてる

老女

せやけど……あっ

ピンポーン……

はい、どちらさんでしょう?

久留間悟

お忙しい時間にすみません

久留間悟

市から依頼された者でして

久留間悟

この着物についてお話があって伺ったんですけど

え……?

ッ、少々お待ちください!

バタバタバタバタ……

渋谷大

……なんか奥で話してるみたいだな

ガチャッ、ガラガラ……ッ

息子

誰やアンタら

久留間悟

突然お邪魔して申し訳ないです

久留間悟

実はこの着物の件で、市のほうから相談を受けまして

久留間悟

お話を伺えたらなーと思うんですけど

息子

……そら確かにうちの母親が着よった着物や

息子

ちょっと前に盗まれたらしぃてな、探し回っとった

息子

せやけど、うちは市なんぞに届け出とらんぞ

久留間悟

あー、それはですね

息子

そもそも!

息子

こんなアタマした市役所職員がおるわけないやろが!

息子

お前らが盗んで、親切面して持ってきたんやろ!

息子

なにが目的や、礼金か!?

渋谷大

わ、ちょっと……!

一切聞く耳持たず掴みかかった男の手が、乱暴に着物へと伸びる

それを咄嗟に弾いたことで、男は薄い頭部をいっそう紅潮させた

息子

っの、いっちょ前に抵抗なんぞ……!

老女

やめんかれ!!

今度は着物ではなく、渋谷に手を挙げようとした男に怒声が飛ぶ

息子

……は?

老女

らんぱちやるんやないわ!

老女

拝み屋さんになにしよるんや!!

老女を、男性は信じられない面持ちで凝視する

息子

……なんや、俺は夢でも見とるんか

息子

死んだ母ちゃんそっくりな人がおる

老女

そっくりちゃうわ、のーの母ちゃん本人や!

息子

ヒ……!

息子

いや、でも母ちゃんはもう……!

老女

へ? あ、

老女

……あこわぁ、ほんまや

老女

拝み屋さん、この子、うちが見えとる

老女

なんかしやはったんか?

渋谷大

あー……俺がさっき触っちゃったからっすね

渋谷大

会わせよう会わせようと思ってたから……

渋谷大

本当はもうちょっと穏やかに会わせたかったんすけど

息子

は!?

息子

どういうこっちゃ、なんでアンタに触ったら……

息子

あ、なんぞ手品か!

息子

こういう幻覚でも見せて、うちに悪さしようと……!

老女

やかましわ、のーはだぁっとらんかれ!

怒鳴り声に、男性だけでなく渋谷と久留間までが直立した

老女

死んだ母ちゃんが出てきて、うてかえるんは分かるわ

老女

せやけど初対面の人らにそんな口効くような躾した覚えない!!

老女

謝らんかれ!

我が子を叱り飛ばす母親の形相に、男が萎縮する

息子

す……すんませんでした……

渋谷大

あ、いえ……

渋谷大

こちらこそ驚かせて申し訳ないです

渋谷大

混乱する気持ちは、分かるんで

渋谷大

これ、名刺です

渋谷大

お母様からも言われたとおり、拝み屋みたいなもんで

渋谷大

俺は霊能力を他人に貸し出せる体質なんです

渋谷大

それで息子さんも、お母様が見えるようになったんですけど

渋谷大

本当、驚かせてすみません

息子

はぁ……

息子

霊能力を貸せる、ですかぁ……

息子

なんやよぉ分からんけど、いろんな人がいはるんやな

久留間悟

そうそう、それくらいの軽い理解で大丈夫です

久留間悟

でぇ!

息子

あ、はぁ

久留間悟

先ほどもご挨拶したんですけどね

久留間悟

ちょっとこの着物のことで、市から相談を受けまして

久留間悟

その流れでお邪魔したんですよ

久留間悟

よければ少し、中でお話できませんか?

久留間悟

お母様のご供養のことで、伺いたいことがあって

カタヅケ屋霊異記【完結】

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