渋谷大
ここがばあちゃんちかぁ
渋谷大
結構遠いところから着物運んでたんだな
久留間悟
民家より田んぼが多いから、人目につかなかったんだろ
久留間悟
住宅密集地を通らなきゃ、発覚しなかったかもな
老女
うちも目立たんようにはしたかったんやけど
老女
5分くらいしか着物、持てんかったでな
老女
ちょっとでも早ぉ供養してもらお思たら
老女
住宅地通るしかのぉてねぇ
渋谷大
そんなに、未練だったんだな……
老女
……なぁ拝み屋さん、ほんまにいぬるんか?
老女
うちの子、変に気病やみなとこあるでな
老女
なんや失礼でもせんかと心配で……
久留間悟
ちょっと気難しい感じ?
久留間悟
大丈夫だよ、こんな職だからね
久留間悟
キツいこと言われるのは慣れてる
老女
せやけど……あっ
?
はい、どちらさんでしょう?
久留間悟
お忙しい時間にすみません
久留間悟
市から依頼された者でして
久留間悟
この着物についてお話があって伺ったんですけど
?
え……?
?
ッ、少々お待ちください!
渋谷大
……なんか奥で話してるみたいだな
息子
誰やアンタら
久留間悟
突然お邪魔して申し訳ないです
久留間悟
実はこの着物の件で、市のほうから相談を受けまして
久留間悟
お話を伺えたらなーと思うんですけど
息子
……そら確かにうちの母親が着よった着物や
息子
ちょっと前に盗まれたらしぃてな、探し回っとった
息子
せやけど、うちは市なんぞに届け出とらんぞ
久留間悟
あー、それはですね
息子
そもそも!
息子
こんなアタマした市役所職員がおるわけないやろが!
息子
お前らが盗んで、親切面して持ってきたんやろ!
息子
なにが目的や、礼金か!?
渋谷大
わ、ちょっと……!
一切聞く耳持たず掴みかかった男の手が、乱暴に着物へと伸びる
それを咄嗟に弾いたことで、男は薄い頭部をいっそう紅潮させた
息子
っの、いっちょ前に抵抗なんぞ……!
老女
やめんかれ!!
今度は着物ではなく、渋谷に手を挙げようとした男に怒声が飛ぶ
息子
……は?
老女
らんぱちやるんやないわ!
老女
拝み屋さんになにしよるんや!!
息子
……なんや、俺は夢でも見とるんか
息子
死んだ母ちゃんそっくりな人がおる
老女
そっくりちゃうわ、のーの母ちゃん本人や!
息子
ヒ……!
息子
いや、でも母ちゃんはもう……!
老女
へ? あ、
老女
……あこわぁ、ほんまや
老女
拝み屋さん、この子、うちが見えとる
老女
なんかしやはったんか?
渋谷大
あー……俺がさっき触っちゃったからっすね
渋谷大
会わせよう会わせようと思ってたから……
渋谷大
本当はもうちょっと穏やかに会わせたかったんすけど
息子
は!?
息子
どういうこっちゃ、なんでアンタに触ったら……
息子
あ、なんぞ手品か!
息子
こういう幻覚でも見せて、うちに悪さしようと……!
老女
やかましわ、のーはだぁっとらんかれ!
怒鳴り声に、男性だけでなく渋谷と久留間までが直立した
老女
死んだ母ちゃんが出てきて、うてかえるんは分かるわ
老女
せやけど初対面の人らにそんな口効くような躾した覚えない!!
老女
謝らんかれ!
息子
す……すんませんでした……
渋谷大
あ、いえ……
渋谷大
こちらこそ驚かせて申し訳ないです
渋谷大
混乱する気持ちは、分かるんで
渋谷大
これ、名刺です
渋谷大
お母様からも言われたとおり、拝み屋みたいなもんで
渋谷大
俺は霊能力を他人に貸し出せる体質なんです
渋谷大
それで息子さんも、お母様が見えるようになったんですけど
渋谷大
本当、驚かせてすみません
息子
はぁ……
息子
霊能力を貸せる、ですかぁ……
息子
なんやよぉ分からんけど、いろんな人がいはるんやな
久留間悟
そうそう、それくらいの軽い理解で大丈夫です
久留間悟
でぇ!
息子
あ、はぁ
久留間悟
先ほどもご挨拶したんですけどね
久留間悟
ちょっとこの着物のことで、市から相談を受けまして
久留間悟
その流れでお邪魔したんですよ
久留間悟
よければ少し、中でお話できませんか?
久留間悟
お母様のご供養のことで、伺いたいことがあって