少女
こうやって暗闇にいたとしても

少女
あなたが生きているというだけで幸せだって思うわ

少年
俺の価値を全否定したいということか

少年
そうやって人の鎧を剥いで、愛したつもりになられるのは気怠い

少女
鎧なんていらないでしょ

少年
飾り羽の大きなクジャクの羽を一枚一枚むしり取って

少年
お前は美しいと言っているようなものだ

少年
相手の無防備さを愛するというのは狂気じみているし

少年
なにより他の行き場を奪う行為だ

少女
他の行き場ってどこよ

少女
そんな場所"ない"んじゃない?

少女
そもそも必要なの?他の行き場なんて

少女
わたしがいれば十分でしょう?

少年
ほら、こうなる

少年
君は、愛に飢えている

少年
そんな人間が暗闇になんて来ちゃだめだ

少年
欲に目が眩む

少年
必ず、鎧を剥ぎたくなる

少年
それは君に、自信がないから

少年
自信がないから、誰かを養分にしたくなるんだ

少年
欲に目が眩む

少女
ねえ、どういうつもり?

少女
そんなに、陥れたい?

少女
わたしのことを醜い人間にしたい?

少年
君は醜いよ

少年
それでも、君がここにいてくれてよかったって思う

少年
言いたいこと、わかるかな

少女
わかるけど

少年
じゃあどこにも行かないと約束してくれるか?

少年
ずるいのはよくない

少年
平等なんだ、誰もが暗闇の中では

少年
自分が優位に立とうだなんて馬鹿らしい

少年
闇の中で誰かから届けられる光を受け取って

少年
惰性で生きていればいい

少年
君も、その惰性から逸脱したら許さない

少年
君は俺で、俺は君だ

少年

少年
勇敢な君といえど少しはゾッとしたか?

少女
正直に言うとそうね

少年
じゃあそういうのはやめよう

少年
俺だって君がおかしなことを言いだした時ゾッとした

少女

少女
あなたってまともよね

少女
闇の中にいるのに、光の中にいる人たちよりまとも

少年
当たり前だ

少年
そういう捻くれた人間を支配したいなら

少年
君にはもう少し頑張ってもらわないと

少女
私の手には余るわ

少年
そうだろ

少年
救い出そうなんて馬鹿なことは考えなくていい

少年
君がここにいてくれるだけで十分なんだ

少女
クジャクの羽をむしるようなことをおっしゃるわ

少年
これはそういう意図じゃない

少女
じゃあどういう意図よ

少年
うーん、わからない

少女
あなたにもわからないことがあるのね

少年
そりゃあある、いくらでも

少年
俺は万能じゃない

少年
だから君が必要なんだ

少女
わたしもあなたが必要だわ

少女
完結しちゃうのよね、こうやって、闇の中だけで

少年
悪いことじゃないだろ

少年
光の中には汚い連中がたくさん住み着いてる

少年
そんなところより、ここの方が楽しい

少年
喩えるなら、光の世界は地獄の火炙りの世界で

少年
闇の世界は全てを寛容に受け入れる無だ

少年
光なんてのは悪しきもの

少年
この世の中で一番醜いものだ

少年
この深海で光を発するのはチョウチンアンコウだけだ

少年
俺たちを食おうとしている

少女
それは違うわ

少女
世の中には素敵な人だっている

少女
あなたを本気で思って、光の中に連れ出そうとする人だっている

少女
そうでしょう?

少年
馬鹿げたことを

少年
そんな人間は、こんな捻くれた奴を嫌うはずだ

少年
そういう人間に連れられて光の中に出たって

少年
そういう人間はすぐに消える

少年
誰かに殺される もしくは
救ったことに満足して次のところに行く

少年
責任を持てないくせに、人は人を救おうとする

少年
暗闇の中にガラス窓を作って絶望感を煽る

少年
どいつもこいつも屑ばかりだ

少年
俺のことなど放っておけばいい

少年
誰も彼も、そう簡単に闇の世界の住人に干渉するな

少年
君もそう思うでしょ

少女
それは違うわ

少女
あなたのことを救いたいの、みんな

少年
そんなの身勝手なエゴだ

少女
エゴだとしても

少女
エゴだとしても、あなたのことを思う気持ちは本当だわ

彼の言うことは全て理にかなっていて、正しいかのように思われた
こんなふうに自分を救おうとしている人間を馬鹿にするのには腹が立った
少女
光を拒絶しないで

少女
ここから出るでないは勝手だけど

少女
あなたのために光を届ける人間を嫌わないで

少女
光を届けている人間にも心があるの

少女
そう、光を届けている人間だって、どこかで愛に飢えている

少女
あなたにこんなに拒絶されると

少女
彼らは傷つくことになるんじゃないかしら

少年
こんなところに釣られて堕ちるより傷つかない

少女
救えなかった罪悪感に周りの人が苛まれることになるわ

少年
そもそも救おうなんてのが間違ってる

少年
そんな簡単にいくわけがない

少女
足掻くことをやめてはいけないわ

少年
君の言うことは間違ってはいないが、

少年
足掻いて、足掻いて、足掻いて、

少年
最終的に足掻き疲れた時、そこに何があると思う?

少女
考えたくないわ

少年
そう、考えたくないんだよ

少年
なんにも考えず

少年
ここにいる方がいいって何度も言ったよ

少年
俺の行動を変えようなんて考えないでくれよ

少年
光がなんだよ

少年
周りの人がなんだよ

少年
そんなものが、何を変える?

少年
もう疲れたんだよ

光を浴びていた頃のことを思い出して、
目頭までも熱くなる
悟り切った苦しい言葉を浴びていると
わたしまでも闇に閉ざされてしまいそうだ
少女

わたしの心の奥底には、まだひだまりのような光が生きている
少女

少年

少年
もしかして、それ

少しずつ少しずつ、わたしの体の中から、
漏れ出してきている
光を拒絶した人間の目の前で
わたしから光が漏れ出しているのが
少年
眩しい…

それが眩しさから目を守るための涙だと分かっていながらも
少女
光、悪くないでしょ

少年
悪くないよ

少年
初めて、心に光が届いた

わたしよりもあなたに、
光を与えることのできる人物がいたら?
少女
少しでも、あなたの心に光が灯れば嬉しいわ

少女
それ以上は望まない
