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信用を買った日
昼前の喫茶店は、
まだ空いている。
窓際の席に座り、
背筋を少しだけ伸ばす。
薄いベージュのシャツは首元が緩く、
袖口は何度も洗われた跡が残っている。
髪は短く切られているが、
寝癖が一筋だけ残っている。
話しかけると、
相手はすぐに顔を上げた。
視線が合う。
うなずきが早い。
言葉の途中で、
遮られない。
それだけで、
今日は違うと分かる。
声を出す。
いつもより、
少しだけ軽い。
言い切る前に、
相手が続きを待つ。
説明を足さなくても、
理解したような顔をする。
頷き。
メモ。
確認。
会話が、
滑っていく。
終わったあと、
コップの水を口に含む。
味は変わらない。
店の音も同じ。
ただ、
胸の奥が少し空いている。
もう一度、
同じ声で話してみる。
軽い。
届く。
残らない。
信用は、
確かに買えた。
その代わり、
言葉が落ちる前の重さを、
どこかに置いてきた気がした。
レキシリーダを触らずに、
店を出る。
歩きながら、
自分の声が、
少し遠くで鳴っているのを聞く。
由天。