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花後雨

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花後雨

11 - 【第十章】置いていかれた星

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2022年10月15日

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嫌な夢を見た。

何が嫌というのがある訳ではないが、なんとなく嫌だった。懐かしいような、悲しいような、救いようのないような、そんな夢だった。

この屋敷のような日本家屋で、美しい満月が見えて、そこに自分と同じくらいの年の少女がいたような気がするが、顔は思い出そうとしても、何故かそこだけがぼやけて分からない。

今の状況のせいで似たような夢を見たんだろう。

考えることをやめて、部屋の障子を少し開けて外の様子を見ると、そこには月は沈み、遠くの建物は太陽に焼かれたように紅くなっている。

月に置いていかれて彷徨う星達が今日はやけに目についた。

考え事をしているうちに刻々と時が過ぎて行き、気付けば『その日』まであとニ日だった。明日になれば、前夜祭がはじまるだろう。

今日は夜に当主様との打ち合わせがある。僕しか読んでいないと言っていたから、おそらく『道具』を渡されるのだろう。まあ、もしもの時スペアを作れるように作り方は教えられていて、材料も一つ作るくらいなら支給されているので、直接受け取る意味はあまりない。まず、使う気もないのだが…。

賢い彼女は『その日』に何が起きようとしているのか、解っているかもしれない。だとしても、彼女はそれを悟った上でここに留まるのだろう。彼女はそういう人だ。

それでも僕は彼女に生きていて欲しい。

それだけは譲れない。


明日が前夜祭という事で屋敷中が大騒ぎだった。

香の準備に酒の準備、料理の準備まで…。人の命がかかわっているとは言え、関係のない者や、何も知らない者にとっては、普通の祭りと変わらないのだ。僕はある程度準備を手伝うと、彼女の部屋に向かった。外はもう日が沈み始めていた。夕食は、明日の料理のあまりを賄としてもらった。おそらく彼女も夕食は済ませているだろう。

いつも通り、僕は彼女の部屋の前に立って声を掛けるが、彼女からはいつもと違う返事が返ってきた。

「失礼します。」

「待って!今は入らないでください!」

何事かと思いその場で訪ねると、今日は明日、明後日のための衣装合わせの日だったらしい。前の祭り時はそんなものは無かったのだが…。

まあ、丁度いいだろう。好都合だ。これで口実ができた。

しばらく待って許しを得てから部屋に入ると、侍女は出ていき、彼女はいつもの服で座っていた。いつも通り、彼女と何気ない会話をしながら、お茶を淹れる。

「お疲れ様です。今日は明日の準備が大変だったのではありませんか?」

「あなたこそ、衣装合わせお疲れ様です。お茶をどうぞ。」

僕は彼女にお茶を出した。自分の分は用意せずに。

しばらく話すと、彼女の目は次第に虚ろになって行き、口調も呂律が回っていないような、ふわふわとしたものになっていた。

「あれぇ?おかしいですね?疲れてるのかしら…。だんだん眠く…」

バタン…

「おやすみ、姉さん。」

彼女はそのまま眠りについた。


太陽が沈みきってすぐの頃、静かに光る月と散り始めた桜の下、少年は少女を大事そうに抱えて、人知れず姿を消した。

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