食事を終えた二人は店を出た。食事は優弥がご馳走してくれた。
レストランを後にした二人は通り沿いを歩き始める。
「ホテルはビジネスホテルですか?」
杏樹が聞くと優弥は首を振る。
「いや、この先を少し行った所だ。酔い覚ましに歩きでもいいかな?」
「あ、はい」
そう答えながらこの先にホテルなんてあるのだろうかと思う。杏樹はこの辺りの地理に疎かった。
今日はそれほど寒くないので夜風が肌に心地よい。
左側には大きな公園が続き歩道沿いには緑が溢れていた。歩いている人もまばらなので散歩にはうってつけだ。
そこで杏樹は優弥に質問をする。
「つかぬことをお伺いしますが、あの夜はなぜあんな高級なホテルに?」
こんな事を聞くのは恥ずかしかったがずっと気になっていたので勇気を出して聞いてみる。
「初めての夜だったからな。まさか初夜にラブホテルなんて有り得ないだろう?」
それを聞いて杏樹はドキッとする。
(正輝との初めての夜はラブホだったのに……)
今さらながら杏樹は正輝にかなり軽く扱われていたのだと思い知る。
なぜなら正輝が社長令嬢である莉乃をラブホテルへ連れて行く事などどう考えても想像出来ないからだ。
そして優弥の返事に対しもう一つ質問を重ねる。
「でもあの時の私達は初対面でしたよね? それに一夜限りだったし。それなのになぜ?」
「それはこれから付き合う事になるからさ」
「ハッ?」
杏樹はびっくりして目を見開く。
「そ、それはどういう意味でしょうか?」
「言ったろう? 俺は君を堕とすって」
「…………」
杏樹は絶句する。あれはてっきり悪い冗談だろうと思っていたので正直戸惑いしかない。
しかし何か言い返さなくちゃと慌てて口を開いた。
「堕とすとか堕とさないとか…まるでゲームみたいで変ですし、それに私達は今上司と部下の関係ですよ? そういう冗談はやめた方が……」
「俺はゲームだなんて思ってないよ。それに上司と部下だと何か問題があるのか? 不倫をしているっていうならまだしも俺達は二人とも独身だろう? だから悪い事なんてしていない」
「で、でも、もしこんな事が職場にバレたら何もないじゃすまされないですよ」
「まあ職場では謹んで行動した方がいいだろうな。じゃないとどちらかが異動になっちゃうしね」
優弥は微笑んで続ける。
「それにもしこの事をあいつが知ったら何をしでかすかわからないからな」
「まさ……森田さんがですか?」
「ああ、だって君の家で待ち伏せしてたんだぞ? 絶対に何かあるに決まってるじゃないか」
「…………」
確かに正輝の行動は異常過ぎる。そこは杏樹も優弥と同意見だった。
左手にあった公園の緑はいつの間にか途切れてビルに変わっていた。
次の交差点が見えた時優弥が言った。
「あの信号で右へ渡るぞ」
二人は信号が青に変わると横断歩道を渡った。
そして渡った先にとても大きなホテルがある事に杏樹は気付く。
(まさかここに?)
驚いている杏樹をよそに優弥はそのままエントランスへ向かって歩き続けた。
「ふ、副支店長っ!」
「なんだ?」
「こっ、ここに泊まるのですか? また高級ホテル?」
「ああ、宿泊代の事は気にするな」
「そういう事じゃなくって……」
「ここの朝食は美味いらしいよ。明日の朝は起きるのが楽しみだろう?」
優弥はニヤッと笑うとそのままフロントへ向かった。
「そこで待ってて」
優弥がソファーを指差したので杏樹は仕方なくそれに従う。
遅い時間なのでロビーラウンジにほとんど人はいなかった。
上質な家具や上品な調度品で整えられたロビーはまさに高級ホテル仕様だ。
おそらく4つ星以上だろう。思わず杏樹はごくりと唾を飲み込む。
(前回は酔って記憶がないまま泊まったし今回は平日……どうせなら土日にゆっくりと泊まりたかったなー)
ついつい本音が出てしまう。
しかし明日の豪華な朝食の事を思い浮かべると思わず頬が緩んだ。
そこへ優弥が戻ってきた。
「行くぞ」
「はっ、はいっ」
二人はエレベーターで11階の部屋へ向かった。
エレベーターを降り廊下を進むと優弥はドアの前で鍵を開ける。
「?」
杏樹が自分の部屋のカードキーはくれないのだろうかと思っていると、
「さ、入って」
と優弥が言った。
「え? 部屋は別々じゃ?」
「残念ながらここしか空いてなかったんだなー。恨むならインバウンド政策を恨め」
優弥は杏樹の背中を押して中へ入れるとドアを閉めて鍵をかけた。
呆然と立ち尽くしていた杏樹は優弥に訴えた。
「無理ですっ、だったら私だけ駅前のビジネスホテルへ行きますっ」
「駅前の安価なビジネスホテルはどこも満室だよ。ここは高いから空いていたんだ」
「でも探せばどこかにあるはずですっ」
「こんな真っ暗なのに駅まで一人で戻るのか?」
確かに外は真っ暗だ。タクシーで行くという手もあるけれど行った所で部屋がなかったらどうしようもない。
そう思うと杏樹はガックリと肩を落とす。
「まあ一緒に泊まるのは初めてじゃないんだからそう緊張しなさんな」
「…………」
「先にバスルームを使っていいよ。ゆっくり入りたかったらお湯を張って入ればいい。俺はまだ仕事が残ってる」
優弥は奥の部屋へ歩いて行くと椅子へ座った。そしてテーブルの上にノートパソコンを出して仕事を始める。
しかし微動だにしない杏樹に気付いてこう言った。
「今日は何もしないから、ただ一緒の部屋で寝るだけだ。だから安心しろ」
(本当に?)
杏樹は信じられないといった顔をしたが、優弥は気にする風もなくパソコンに向かった。
その時杏樹は優弥の後ろにある大きなクイーンサイズのベッドに気付いた。
(ツインじゃなくてダブルなの?)
身体中の力が一気に抜けるような気がした。
しかしそのまま何も言い返せずにいた杏樹は、諦めたようにとぼとぼとバスルームへ向かった。
コメント
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地下のプールで水着の優弥さんを堪能したい🤤
キャァー🤭クィーンサイズのベッド🤭 なんもせーへんなんて無理やろ😆❤️🔥❤️🔥❤️🔥
とぼとぼとバスルームへ行く杏樹ちゃん、可愛いですね🤭