コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
どこからともなく、すっと風が吹き抜けた。
柄にもなく、グソンはおびえた。
枕元の明かりが、重なり合う二人の影をのばしている。
横たわる寝台に天蓋《てんがい》はなく、燃える蝋燭から蜜の香りはしない。
さっきまで、贅を極めた部屋に横たわっていたはずなのに……。
女官長の言葉は、とてつもないものだった。
ミヒを賊に襲わせてしまえと……。
王の婚礼の日に。必ず……。
「婚礼の日に……。確かに、王はあちらにお下がりはなりません……」
リンの声がかぶさってくる。
声変わり前の少年の声が、ことのほかグソンの不安を煽った。
王の愛妾を始末するとは。そんな大事に自分が関わることになろうとは。
――誰か用意できぬか。
これを、南の将へどう切りだせばよいのだろう。いや、果たして南の将がふさわしいのだろうか。
惑うグソンの首筋に、少年の吐息がかかった。
身悶えながらも、華奢な体が、しっかりグソンに寄り添っている。
「なあ、私はどうすればよいのだろう」
弱音を吐くと、グソンはやわらかな肌を抱きしめた。
「グソン様。でも、それを……お使いになるつもりなのでしょう?」
「ああ、そうだった。これを足がかりに、治朝へ上れたらと思っていたんだ。そうだな、どうせなら、ドンレにも、そろそろ退いてもらおうか」
そう……。
あの甘い香り……。
蜜蝋の香り……。手に入れなければ……。
胸の中で、小さな笑い声が響いた。
リンがじっとグソンを見つめている。
「お前なら……十分、大臣格の寵妾になれる。こんなにも、賢くかわいらしい宦官がどこにいるだろう?」
頬を紅潮させるリンに、グソンは目を細めた。