テラーノベル
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真っ直ぐに伸びた、暗闇の道。
……に見えるが、ここはまだ「方向を失う場所(ループ空間)」の中だ。
「後ろに撃ったら前に当たるなら……『後ろに歩けば前に進む』ってことだよね!」
「「「カエデお姉ちゃん/さん/様、天才!?」」」
私と辰美、ローザさんがカエデお姉ちゃんを絶賛。
「カエデ……マジ?」
ツバキお姉ちゃんがカエデお姉ちゃんを見つめながら立ちすくむ。
「マジだよ?」
キョトンとするカエデお姉ちゃん。
カエデお姉ちゃんの天才的な思いつきにより、私たちは今、全員で【後ろ歩き(ムーンウォーク)】で奈落の底を進んでいた。
後ろ歩きで進む私たちを見て、
迫ってきたモンスターたちがピタリと止まった。
「……え?」
「……え?」
しばらく、見つめ合う。
「……怖がってない。困惑してる」
カエデお姉ちゃんが静かに言った。
「そりゃそうよ!! 襲いかかろうとしたら全員後ろ向きで歩いてくるんだもの!!」
ツバキお姉ちゃんが叫んだ。
「……『奇行が敵の判断を狂わせる』……っと」
「それ戦術として記録すんな!!」
サクラお姉ちゃんが引っ張ってくれているような微かな感覚を頼りに、私が先頭(最後尾?)になって、じりじりと後ずさりしていく。
「……恥ずかしい……これ、絵面がマヌケすぎる……ッ!」
ツバキお姉ちゃんが、後ろ歩きをしながらギリィッと歯ぎしりをした。
──そのとき。
ズズズ……ズシャアッ……!
異変は、“前”から来た。
……いや、違う。
さっきまで“後ろ”にいたはずの気配が、次の瞬間には“前”にいる。
それだけじゃない。
右でも左でもないはずなのに、音だけが耳元を這い回る。
「……え?」
私は思わず足を止めた。
「近い……いや、遠い!? なにこれ!!」
ツバキお姉ちゃんが半歩下がる。
左目を押さえる手が静かに震えている。
ズガガガガガッ!!!
暗闇の奥から、何かが猛スピードで迫ってくる。
何かを引きずるような不気味な音が、静寂の奈落にじわりと広がっていった。
やがて、ツバキお姉ちゃんが放つ微かなピンクの光(懐中電灯モード)に照らされて姿を現したのは──ドロドロに黒く変質したモンスターたちだった。
元は上の階層にいた魔物なのだろうか。
それが奈落の瘴気に触れたことで変質し、
目は血のように真っ赤に濁り、
皮膚はコールタールのようにただれている。
口からは紫色の泡を吹き、明らかに正気を失っていた。
「グルルルルルルル……ギャアアアアア!!」
獣とも虫ともつかない、狂気の咆哮が奈落の空気を震わせる。
「主よ──この深淵に堕ちた哀れな命に、どうか救済を──」
ローザさんが、スッと祈りの姿勢に入った。
「みんな、私の後ろに下がってください! あれ、普通の魔物じゃないです! 完全に瘴気で暴走してる!!」
辰美が両手に炎をまとわせて叫んだ。
その瞳孔が竜のように縦に細くなり、赤毛が逆立つ。
完全に戦闘モードだ。
(こ、怖い……! 怖いけど……!)
「わ、わたしが……バリア張るっ! まもるのは得意なんだから!」
私は震え声になりながらも、両手を前に突き出した。
その瞬間──
シャァァァァンッ!!!
私たちを覆うように、眩い光の球体が展開された。
強固な魔力の壁が出現すると同時に、モンスターたちの動きが一瞬だけ怯む。
私は胸を張って、ぐいっと一歩前に出た。
「どうだー! 我こそは魔王エストなのだー!!」
えへん、と鼻を鳴らしてみせる。
(き、決まった……! 今の絶対カッコよかった……!)
(完全に主役の流れじゃん!!)
──けれど。
ドドドドドドドッ!!!
怯みを振り切ったモンスターの群れが、
狂気の雄叫びを上げながらバリアに向かって一斉に突進してきた。
地面が震え、足音が壁に反響する。
そんな“絶望の波”に、ただ一人、逆らう者がいた。
「ツバキ!今何人目?」
カエデお姉ちゃんが能天気に尋ねる。
「ひとりよ……だがこの身、既に十巡しているッ!」
ツバキお姉ちゃんが叫び、バリアの外──最前線へとその身を投げる。
「ふ……こんな修羅場……この世界に来てから嫌というほど経験済みよ!」
ツバキお姉ちゃんが左目に手を当てた。
その隙間から、ピンク色の光がギラリと漏れる。
「世界よ、見届けよ……これが光と闇を抱いた者の、断罪だ──」
ドンッ!
地面を蹴って、ツバキお姉ちゃんがいきなり“側転”を開始した。
見えないマントがひるがえり、黒い砂煙が巻き上がる。
そして、体が半回転して逆さまになった瞬間──
「──ホーリービーム・レフトアイ♡!!!」
ビィィィィィィム♡ッッッ!!!
回転の勢いのまま、左目から放たれた極太のピンク光線が、
モンスターの群れをすり抜けて、暗闇の中へ消えた。
「……え?」
私が固まる。
次の瞬間──
ドォォォォォォン!!!
消えたはずのビームが、モンスターたちの“真後ろ”から飛び出した。
「えっ!?」
「後ろから来たぁ!?」
(……一瞬、ちょっとかっこいいかもって思ったけど、♡がウザいかなって思いました)
「側転の意味は!?」
「な、なんでいきなりアクロバットしたんですか!?」
私と辰美の声が重なる。
ツバキお姉ちゃんが、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「……この特異点(シンギュラリティ)に、三次元の理なんて存在しない」
ツバキお姉ちゃんが、パチンと指を鳴らし──
「空間の座標軸は既に崩壊している。
ならば──こちらも自転(シンクロ)し、“位相”を合わせるだけのこと」
ゆっくりと左目に手を当ててポーズを決めた。
「世界の方が狂っているなら──こちらが、合わせればいい」
「えっ、なんの話? なんて言ったの?」
「……なに? 今の、呪文!?」
私と辰美は顔を見合わせた。
「次ッ!」
ツバキお姉ちゃんが今度は流れるように“バク転”に移行!
しかもなぜか、またそのまま逆さまの空中で叫ぶ!
「喰らいなさい! ホーリービーム・マウス・散ッ♡!!!」
ビッ♡ビッ♡ビッ♡ビッ♡ビッ!!
口から飛び出したのは、散弾状に広がる無数の光の弾丸!!
\\ ちゅどん! ちゅどん! ちゅどん! //
まるで光のショットガン(全部ハート型)。
その無数の閃光が、飛びかかってきたモンスターたちを一斉に撃ち落としていく!
「今度はバク転!?」
「ビームが口から出たァ!?」
私と辰美で、息つく暇もなくツッコミを入れた。
サクラお姉ちゃんの友達、本当にまともな人がいないね?
「くはは!! この聖女ツバキ!!
ツムジからも耳からも……そして、運命の悪戯か、ヘソからもビームが出るッ!! 故に、死角はないッ!」
ツバキお姉ちゃんが左目に手を当ててポーズを決めると同時に──
「──こんな身体じゃもう、お嫁に行けない……およよ……」
……あ、増えた。
また別のツバキお姉ちゃんが、その場で膝から崩れ落ちた。
「やっぱり24人居るよね」
カエデお姉ちゃんがうんうんと納得したように頷いた。
モンスターたちは苦悶の叫びを上げながら、
次々とピンク色の光に浄化されて崩れ落ちた。
さらに──
ツバキお姉ちゃんが空高くジャンプすると、
空中で両手足を広げて叫ぶ。
「ふん。これが“聖なる舞踏”の極致──!」
「──トリプルアクセルッ!!!」
空中で高速回転しながら、両目からビーム!
さらに口と両耳、ツムジから拡散ビーム!!
ビームが放出される顔面が、
もはやミラーボールのようにピッカピカに発光している!
ビィィィィム♡ ビビビビビーーー♡♡
\\ ちゅどん! ちゅどん! ちゅどどどどどん! //
──そして、すべての光が収まった頃には、周囲のモンスターたちは完全に消滅し、ただ黒い灰だけが風に舞っていた。
ツバキお姉ちゃんは、暗闇を背に静かに着地した。
そして──。
「くくく……ビームを纏うこの顔……神の祝福か、悪魔の呪いか……」
(※左目を隠すお決まりの中二病ポーズ)
「ツバキ様のアクション……尊い……」
ローザさんが手をおでこに当てて気絶した。
あ! ローザさんもやっぱりそっち系(狂信者)だった!?
「ハイパーツバキタイムだったね!!
今日の発光、5000ルーメンくらい行ったよ! 新記録!」
カエデお姉ちゃんがパチパチと拍手している。
「ツバキお姉ちゃん、強いけど、なんか恥ずかしい……」
あれ、ほんとに魔法なのかな。
少なくとも、私の読んだ魔法書には載ってなかった。
「……うん。もう全部、“サクラさんの交友関係だから”で、
説明がつく気がしてきました」
辰美が肩をすくめ、遠い目をして小さくため息をついた。
……その横で。
私は、膝を抱えてしゃがみこんでいた。
「……わたしが先にバリア……頑張ったのに……」
ぽつり。
誰にも届かないくらいの小さな声。
ちらっと顔を上げると──
ピンク色に光りながら決めポーズしてるツバキお姉ちゃん。
拍手してるカエデお姉ちゃん。
気絶してるローザさん。
……うん。
(全部、持ってかれた……)
私は、ぎゅっと膝を抱え直した。
「……魔王なのに……バリア係……」
(つづく)
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