テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ヒューマンドラマ
1,767
#大衆食堂
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「さ、櫻子は、関係ないっ!!」
金原は、力一杯叫ぶと崩れ混んだ。
「だ、旦那様!!!」
突き飛ばされて転んでいた櫻子が叫ぶと、何が起こったのか、その場の皆も理解できたようで、暫くの間の後、騒ぎが起こる。
「い、嫌あぁぁぁ!!!!」
勝代も、自分の行ってしまったことに気がついて、なかば半狂乱の状態で叫びをあげた。
「……嫌……なのは、俺の……ことだろう?小春さんよ。あんたは、俺が……邪魔だった……あんたは……俺を捨てた……んだ……さ……櫻子は……関係……ないだろ……」
額に汗を滲ませ、息も絶え絶えで、金原は、必死に勝代へ訴えている。
「だ、旦那様!!喋らないで!!!だ、誰かっ!!!」
崩れる金原の元へ、這うようにして近づいた櫻子は、泣きながら、金原を抱き寄せていた。
金原の胸元は、赤く染まって行く。それは、勢いよく広がっていた。
「だ、誰か!!!」
櫻子は、気が動転するばかりで、金原を、庇うかのように抱きしめることしかできないでいた。
「八っつぁん!龍!」
側にいるお玉が、叫び、大人達の間をかい潜り、走りだす。
「お、お玉ちゃん!お願い!八代さん達を!!!」
八代と龍は、表で待っていた。何かあれば、自分達が、駆けつけると、櫻子を安心させるために言っていたのを、お玉は、ちゃんと覚えていたのだ。
駆け出した幼子の動きで、大人達からは、金切り声の叫びが沸き起こり、同時に、非難の目が勝代に注がれた。
「あ、あ、あたしは!!あたしは!!違うっ!!!あたしは!!」
よろめきながら、後づさる勝代へ、金原が激しく噛みつく。
「な、何が……ち、違う!……小春!俺のことなど……忘れたかっ!」
「旦那様!!喋らないで!!!」
櫻子は、金原の怒りも受け止めようとばかりに、しっかり抱き寄せるが、金原の息は、更に荒くなり、汗を滲ませている顔の色は、青ざめていくばかりだった。
勝代は、違うと、それだけ言い、引きつった面持ちで金原の碧い瞳を凝視していた。
「勝代!!!!」
騒然とする場を押さえ込む程の大声が勝代の名を呼んだ。
山之内が、駆け寄って来ていた。
勝代の口添えで、柳原の店に入り込んだ山之内は、勤勉さと数字に強い能力が認められ、店の大番頭にも気に入られていた。当然、重宝されていた山之内は、末席ではあるが、この場にも参加していたのだ。
「逃げるぞ!もたもたするなっ!」
山之内の叱咤に近い言葉にも、勝代の動揺は消えない。
「違う!!あたしは!!あたしは!!あの時、ハリソンに、ハリソンに捨てられて!!!どうしようもなくて!!!」
勝代は、金原の瞳を凝視しながら、一人、口走っている。
「……ハリソン……?」
それだけ言うと、金原は、櫻子の腕の中で、ゆっくり瞳を閉じる。
「だ、だ、旦那!!!!」
力が抜け、ぐったりしている金原の体を、櫻子は、しっかり抱き止めながら大泣きした。
今、行わなければならないこと。それは、泣くことではないと、櫻子にも分かっていたが、体も気持ちも動転して、動いてくれなかった。
「櫻子さん!!!大丈夫だ!!」
「八代の兄貴!!医者へ!!!」
「龍!!櫻子さんと、お玉を頼む!!社長を医者へ連れて行く!!」
櫻子の頭上で、聞き覚えのある声がした。
外で待っていた八代と龍が、お玉に連れられ、やって来たのだ。
「櫻子さん!社長は、気を失っているだけだ!」
この現状に、さすがの八代も、真顔になっていた。そして、櫻子から、金原を奪うように抱き抱えると、
「どけっ!てめぇら!邪魔だっ!!」
取り巻くように、蒼白な面持ちで突っ立っている一同へ、八代が渇を入れた。
「櫻子ちゃん!大丈夫だっ!」
お玉を抱いた龍が、櫻子に、立ち上がるよう手を差しのべている。
その騒ぎの隙に……。
「勝代!!!行くぞ!!!」
山之内が、勝代の手首を握り、駆け出していた。なぜか、小脇には鞄を抱え──。