テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ヒューマンドラマ
1,767
#大衆食堂
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「あの女を捕まえて!」
亀松の一声に、一同は、我を取り戻す。やるべき事を思い出したとばかりに息を飲むと、勝代達を追いかけようと動き出す。
しかし、見かけによらぬ山之内の俊敏な動きにより、二人の姿はすでになかった。
「や、柳原さん!こ、これは!!なんてことですっ!!」
高井子爵の母が、青ざめた顔つきで叫んだ。
そして──。
「山之内さん!こっち!!」
予め外で待っていた妙子が、逃げ出して来た山之内を手招く。
「計画は、変更だ!この女が、へまをやらかした!」
「終われてるのね!とにかく、あ
の路地へ!打ち合わせ通り同志が待ってる!後は、私が!」
「妙子!すまん!アジトで詳しく話す!予定通り、柳原の有価証券類は、持ちだして来ている!」
抱える鞄を妙子に示しながら、山之内は、言われた路地へ向かった。
変わらず、手首を掴まれたまま、連れて行かれている勝代は、自分の思っていた事と、何かが違うと、前を行く山之内の背中を見る。
「あなた!さっさと動きなさい!私達の邪魔をしないで!」
自分よりも若い女に、怒鳴り付けられ、勝代は、何かに巻き込まれようとしていると、恐ろしさを感じた。しかし、今は、山之内達の言うことをきかなければ、自分の身も危ない。
勝代は、言われるまま、山之内の後に続いた。
待て!と、叫びながら、追っ手がやって来ている。
「きゃあ!」
妙子が、悲鳴をあげ、路面に転がり込んだ。
「姉さん!大丈夫かい!」
追って来た、揃いの半纏を着る宝来亭の若い衆が、妙子へ声をかけ、男女二人組を見なかったと尋ねてきた。
「ええ!ほんと、頭に来ちゃうわ!人にぶつかっておいて!何なの!」
それだ!そいつらだ!と、若い衆達は、色めきだった。
「そいつらなら、あの路地へ入っていったわよっ!なんなの?!」
妙子は、なげやりな返事をしつつ、山之内と勝代が逃げた真逆の方向を指差す。
「それだ!」
「ありがとよ!」
男達は、妙子の示す路地へ向かって駆け出して行った。
「まったく、あの女、何をしでかしたの。こっちは、いい迷惑だわ……」
妙子は、立ち上がると着物の砂ぼこりを払い、そ知らぬ顔で雑踏に紛れこんだ。
一方……。
「櫻子ちゃん、大丈夫だからな!八代の兄貴もいる!!」
金原を乗せた虎の人力車を追うように、龍は自分達が乗ってきた人力車を走らせていた。
座席には、何も耳に入らないほど動揺しきった櫻子、龍、そして、龍に抱かれるまま、しがみついている、お玉がいる。
「八代の兄貴が、病院に連れてっているんだ!大丈夫だ!行き先も、車夫が聞いている!大丈夫だぞ!櫻子ちゃん!」
さすがの龍も、大丈夫だと言うのが、精一杯のようだった。
「兄さんよ!もっと、飛ばしてくれ!金ははずむ!」
たまりかねてか、龍は、車夫へ発破をかける。
おおよその事情を理解している車夫は、へい!と、返事をすると、人力車の速度をあげた。