10 ◇石田唯という女
さて、日比野ひまりの夫である滉星の不倫相手である石田唯という女だが、滉星が
「え~っと、君と付き合い始めて1年後ぐらいだったのかな、異動で
大阪からきて同じ部になった」
と言っていたように彼女、元々は本社に勤めていた。
だから、それまでの石田の所業について滉星はまるっきり知らなかったみたいなのだが、
本社に友人でもいれば少しは彼女の過去がどういうものか知れたかもしれず、また知って
いたなら彼女とのお遊びには乗らなかった可能性もあったことだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
新卒で入社した大阪本社で石田は1年経った頃、他部署の同期入社で技術職の同い年の
大石直也と付き合うようになる。
付き合って3年目頃から結婚の話が出て4年目の春頃、両家顔合わせも済ませ
婚約の運びとなっていた。
すでに彼らふたり、社内では交際を始めた頃から自分たちの仲をオープンにしていた。
そのため、きれいな顔立ちと共に若くてスタイル抜群の唯だったが、流石に
ふたりの間に割って入ってこようとする無粋な者はいなかった。
そして、何より唯自身が直也に対して一途だった。
だが、そこそこ長い付き合いの上に婚約もしたことなどから、知らず知らずのうちに
彼女の心にスキができたのかもしれない。
幸か不幸か……そのようなちょうど倦怠期に直属の上司が転勤して行き、
代わりの新しい上司が着任して来たのである。
以前いた上司と年の頃はさほど差はないのだが、地味な上司の後にやって来た上司は
ほどよく色気のある上司で、唯は瞬く間にその既婚者の持つ色気と毒気にやられてしまい、
何ということか上司との不倫を始めてしまうのだった。
しかし、色気に惑わされたとはいえ、婚約者のいる身。
最初は物珍しさのただの浮気心で、遊びに満足すれば唯はちゃんと大石とは
結婚するつもりでいた。
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