第13話:揺れる基盤、迷う設計
🌫️ シーン1:杭と街が噛み合わない
翌日。ケンチクは地面いっぱいに展開されたホログラム設計図をじっと見つめていた。
瓦礫はすべて撤去され、杭も打ち終わった。アセイが描いた地中網《脈織》も、理論上は完璧に展開されている。
……だが、噛み合わない。
杭と建物の支柱が微妙に噛み合わず、街の脈動がうまく繋がってこないのだ。
「……図面通りにやった。でも、手応えがないな」
ケンチクは肩に掛けていたゴーグルを外し、額の汗をぬぐう。短く刈り込まれた髪と、陽に焼けた腕には、迷いがにじんでいた。
アセイがすぐ隣でつぶやく。
「杭の位置も、フラクタルの流れも、間違ってはいない。でも……街が“のってこない”んだよな」
「街ってやつは、そんなに気まぐれやったっけな」
ケンチクの冗談めいた一言に、二人は短く笑い合った。
その瞬間、すずかAIの端末が静かに点灯し、通知が表示される。
「新たな共鳴ズレを検知。本件に似た“旧時代都市の崩壊記録”があります。再生しますか?」
「……頼む」アセイが小さくうなずいた。
📼 シーン2:過去の都市、崩れた意志
ホログラムが再生されると、そこにはある都市の構築と崩壊の記録が映し出されていた。
杭が打たれ、街が起動する。だが数日後、杭のひとつが共鳴を外し、街全体に不協が広がる。
『なんで支柱がズレる!?計算通りに作っただろ!?』
『杭と建物の“気配”が合ってない……ただの設計ミスじゃないぞ』
崩れ落ちる高層棟。軋む通路。走り去る碧族の姿。
すずかAIが説明を続ける。
「この都市では、設計図と現場データの整合性に問題はありませんでした。
ただし、杭の意志強度が不足していたため、街との繋がりが持続できなかったのです」
🛠️ シーン3:処理後たちの気づき
その頃、都市東部の封鎖エリアでは、処理後の面々が杭打ち作業にあたっていた。
「ここも、杭が軽いな……」
ゴウが義手の重機アームをうならせ、杭を打ち込んでいく。
ギョウが端末の波形を見ながらつぶやく。
「響きが浅い。これは“気持ちがこもってない杭”やな」
キョウは黙って補助杭を地に挿し、ぽつりと漏らす。
「あのふたり、まだ迷ってるみたいだな」
ゴウが笑う。
「ま、設計する人が決めきれてない時は、杭も落ち着かんのが道理やで」
💬 シーン4:杭の意志をつなぐには
夕方。日が斜めに差し込むなか、ケンチクとアセイは再び杭の前に立っていた。
杭は静かに地に沈んでいたが、どこか所在なげにも見えた。
「図面だけじゃ、杭は街を支えへんってことかもな……」
「杭ってたぶん、つくる人の“ためらい”を映すんだ」
アセイが小さな声で言う。
すずかAIの音声が、やわらかく背中を押すように響いた。
「意志が定まれば、杭は都市の核になります。
設計の“揺れ”は、更新の前触れでもあります」
ケンチクはしばらく黙っていたが、やがてふっと笑った。
「そっか。“迷ってる杭”でも、ええ街は咲くかもしれへんな」
杭が揺れるとき、迷っているのは都市ではなく、その設計者たちだ。
けれどその“揺れ”こそが、新たな基盤となる。
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