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奈美の手料理は、どれも旨かった。
オムライスにシーザーサラダ、マグロとアボカドのカルパッチョ、オニオングラタンスープ。
「美味しかったです。ご馳走さまでした」
腹が減っていた事もあり、全て平らげた純は、手を合わせる。
聞けば、彼女は独身の頃、一人暮らしで自炊をしていたらしい。
「でも、ほとんど炒め物ばっかりでしたよ。簡単でラクだったし。結婚が決まって、豪さんと同棲し始めてから、レシピサイトを見て、いろいろ作るようになったんです」
「へっ!? 豪と高村さん、同棲してたの!? うわぁ……知らなかった……」
「あれ、純に言わなかったっけ? 奈美と同棲してるって」
「いや、初耳だわ」
食事が終わり、奈美がスクっと立ち上がった。
「ちょっと片付けしてきます。谷岡さん、豪さんと積もる話が色々あるんですよね?」
彼女は意味深に微笑みながら、食器類をテーブルから下げ、トレイに乗せるとキッチンへ向かう。
(なるほど……高村さん、ヤツの事、豪さんって呼んでるのか……)
俺も相沢さんに『純さん』って呼ばれる日が来るのだろうか……?
想像してたら、純の唇が、だらしなく歪んでいた。
「お前さ、今日、うちに来てからキモい笑い顔ばっかりだな。それに、俺に話したい事があるんだろ?」
再び豪に痛い所を突かれた純は、んんっと咳払いしながら表情を引き締めた。
「俺さ…………今、すげぇ好きな女がいる……」
「ほぉ……。純もついに、本気の恋に目覚めたか?」
豪は、ニヤニヤしながら身を乗り出してくるが、純は却って笑顔が怪しく感じてしまう。
「先週だったかな。一度メシ食いに行ったんだけどよぉ…………それっきりの状態だし、どうやってアプローチしていいのか……わっかんねぇんだよな。こんなの初めてだよ……」
「相手の連絡先は……当然知ってるんだろ?」
「ああ、知ってる。けどよぉ…………他の女に連絡する時みたいに、気軽に連絡できねぇんだよな。緊張しちまってさ……」
豪が、『マジかよ……』と呟きながら目を見張らせていた。
「あの、『お盛ん』だった純クンがねぇ……」
顎に手を添えながら、豪は視線を窓辺に飛ばす。
純が立川駅周辺で、女を取っ替え引っ替えして遊んでいた事は、彼も知っている。
だが、豪もまさか、純が好意を寄せている女に対して、お近付きになる方法で悩んでいるとは、思いもしなかっただろう。
「って事は、お前さ…………女遊びは……完全に卒業したんだよな?」
キッチンで片付けをしている奈美に聞こえないように、豪は声音をトーンダウンさせた。